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8-9




 ――数分後の店内。

「――さて、何はともあれ準備も整ったことだし、これから仕事の内容を……って、その前に一つ聞きたいことがあるんだけど……き、キミ? 何〝ソレ〟???」

 制服に着替え終わったボクたちを一列に並べ、さっそくマスターは仕事の内容を説明しようとしたんだけれど……なぜかマスターは、突然ボクのことを指差し、笑顔のまま硬直してしまった。

 それを見て、みんなは……。

「……泰介さん、やると思いましたよ」

「お前……いくら〝お約束〟と言ってもだな……もうちょっと自重できるように努力しろよ」

「や~ん❤ たいちゃん似合う~❤ かわい~❤❤❤」

「あらあら? ふふ、なかなか似合うわね、泰介君?」

 ……な、何だ? みんなまで??? ボクが何か……はっ!!

 そうか、分かったぞ!!

 バッ! ババッ! 〝ソレ〟というものが何かに気がついたボクはとっさに〝身だしなみ〟のチェックを開始した。

 ――きっと、今のボクは、何かが〝足りない〟状態なんだ! だからみんなはボクのことを見て……くっ! どこだ!? いったい何が足りない!? いや! ダメだ! 落ち着くんだボク! ここは落ち着いて、上から順に調べていこうじゃないか! ……えーと? まずは頭からだけど、必要なのはこの、大きな赤い〝リボン〟だ。これはカチューシャタイプになっていて、ただ頭に、カポッ、っとはめるだけでいいんだけど……問題なのはそれが〝二種類〟あるということだ。

 どういうことなのか? 説明すると、今現にボクが装備しているこの〝リボンタイプ〟の他に、実はこのカフェの制服にはもう一種類〝違うタイプ〟のカチューシャ……漫画とかでよく見かけるメイドさんたちが付けているような、黒地に白い〝フリル〟が付いているみたいなタイプ――文字もそのままに、〝メイドカチューシャタイプ〟――が存在していたのだ!

 こちらは現在、お姉ちゃんと鏡さんが装備しているんだけれど……正直に言おう。ボクはこの二種類のカチューシャを装備する際、かなり〝迷って〟しまったのだ!


 ――〝愛梨さん〟はいったい、どっちを装備するのだろう? と……!!


 そう! 今のボクはあくまでも、働くことができない状態の愛梨さんの〝代理〟!! それ即ち愛梨さんと全く〝同じ格好〟をしなければならないということであり、現在置かれている状況のように、制服が二種類あった場合は、そのどちらか一方を予想して装備しなくてはならないのだ!

 つまり、このカフェでアルバイトをしている時の愛梨さんを一度も見たことがなく、どちらが〝似合いそうか〟? だけで判断するしかなかったボクが選択したのが、このリボンタイプだった。――というわけだ!

 だがしかし、とここではっきり断言しておこう! ボクのその判断に〝間違いはなかった〟と!!

 なぜそう言いきれるのか? 答えは簡単だ。――てっきり着替えずにどこかで待機でもしているのかと思った愛梨さんが、なんと着替えてボクの目の前に立っていたのだ! その結果ボクは愛梨さんの正確な衣装データを入手することができ、愛梨さんは〝リボンタイプ〟を付ける、ということが判明したのだ!!

 つまりもつまり、リボンタイプを装備したのは間違いなく〝正解〟ということ! ――となると、それ以外の〝ナニカ〟がボクには足りていない状態になるのだけれど……こ、困った。

 ……というのも、このカフェの制服はカチューシャこそ二種類あったのだけれど、それ以外はこのメイドさんみたいな服、たった〝一種類〟しかなかったのだ!

 しかも、このメイド服の装備品はエプロン以外最初から本体に縫い付けられていて、実質ワンピースを着るのと何ら変わりはない! はっきり言って、羽織るだけ! これでは選択肢を選ぶも何も、最初から答えは一つだけだ!

「みんな! いったいボクの、何が間違っているって言うの!!?」




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