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「つまりは、小出さんの叔父さんのピンチであり、小出さん自身のピンチでもあるこの状況から救ってあげるには、みんなの協力が必要。ってことなんでしょ? 緒方くんの他には誰か予定が空いてる人はいないの?」
「それならお姉ちゃんも空いてるよ~!」
すぐに、は~い☆ と手を挙げたのはお姉ちゃんだった。お姉ちゃんはそれから、ボクに抱きつきながら続ける。
「お姉ちゃんは、たいちゃんが行く所ならどんな所にでもついて行きま~す☆ もちろん、たいちゃんがアルバイトするって言うんだったら、お姉ちゃんも手伝うよ!」
「うん。そうだね。やっぱり姉弟揃っての方が何かと融通が利いて良いだろうし……あ、でも、小出さん?」
「? はい?」
愛梨さんが反応したのを確認してから、ゆりちゃん先生は続けた。
「緒方くんがいいなら大丈夫だとは思うんだけど、一応確認ね? ――そのアルバイトって、男女の制限とかはないの? お皿洗いとか裏方の仕事なら問題はないけど、接客……ウエイトレスとウエイターじゃ、ちょっとだけ仕事内容とか違うよね?」
「ああ、そのことですね。それならだいじょうぶです! おじさんも、男女は問わない、って言ってましたから!」
「よかった。じゃあ、緒方さんも参加で問題ないね?」
はい! こくん、と愛梨さんの首は縦に振られた。ゆりちゃん先生はそれを見てから、この部活のメンバー。残る二人のことを交互に見つめて聞いた。
「それで、二人はどうなの? 予定、空いてる?」
「はい。俺の場合、基本的には〝変態〟である泰介の行動を観察するのが仕事ですから、特に問題はありません」
――しかし、と甲呀は続けた。
「やはりこの件は、アイリサン絡みのこと……ここはアイリサンの一番の〝親友〟である、鏡の予定を優先すべきだと思います」
「え? いや、べつにそこまで気を使ってくれなくても……」
「ふふ♪ まぁいいじゃない。――それで、どうなの〝桜花さん〟?」
聞かれた鏡さんは、ポケットからスマホを取り出して、予定を確認しながら答えた。
「えっと……初日の三日、金曜日と、最終日の六日、月曜日は出れるけど……五、六の土日だけは勘弁してほしいかな? 家族で旅行することになってるから――って、先生? 何であたしだけ名前呼び? 他のみんなは名字で呼んでるのに?」
一種のノリツッコミ的なモノを決めた鏡さんに、ゆりちゃん先生は首を傾げながらも即答した。
「ん? だって、桜花さんは名前で呼ばれることが少ないから、名前で呼んであげてね? って、山田くんが……」
「いらねーよ! 何だよその無駄な気遣い! いや! べつに名前で呼ぼうが名字で呼ぼうが先生の自由だけどさ!?」
「ならば何の問題もないではないか」
甲呀はそう言葉を置いてから話した。
「むしろ、今問題とすべき点は、お前がバイトに出れる日が〝限られている〟ということだ。……俺が出れない日だけ代わってもいいんだが……アイリサン。これも一応確認なんだが、人数が〝四人〟になっても問題はないか?」
「四人……うーんと、たぶん、だいじょうぶだと思います。だって、バイトに出る人が日によって違っても、結局人数的にはいっしょなわけですし……でも、それこそ一応、後でおじさんに確認してみますね? 何か問題があっても悪いですし」
「うむ。そうだな。そうしてくれると我々も助かる」
――決まりだね? そう呟いてからゆりちゃん先生は話した。
「じゃあ、小出さんが小出さんの叔父さんに確認する、っていう作業は残ってるけど、一回まとめるよ? ――まず、バイトに参加する総人数は、〝四人〟。内、桜花さんが参加できるのは、三日と六日の〝二日間〟で、山田くんが参加するのは、四日と五日の同じく〝二日間〟。〝四日間〟全部出ることができるのは緒方くんたち姉弟だけ……と。以上で間違いないかな?」
「問題ないよ、ゆりちゃん先生! ね、お姉ちゃん?」
「うん! バッチシ! さすがはゆりちゃんだね!」
「あたしもおっけ~」
「俺も問題ありません」
うんうん♪ なぜかうれしそうに笑顔でそれを確認したゆりちゃん先生は、最後に愛梨さんの方を見て話した。
「それじゃあ、小出さん。締めの一言を♪」
「え? ――あ、はい!」
ガタタンッ! 若干慌て気味に立ち上がった愛梨さんは、それからみんなに向かって大きく頭を下げ――
「みなしゃん! どうぞよろしくお願いしまひゅ!」
……。
……。
……。
「……噛んだね」
「……噛んだな」
「しかも二回もな」
「や~ん❤ 愛梨ちゃんかわいい~☆」
「うふふ♪ これぞ我らが部活の締め! って感じだよね♪」
「……うぅ…………」
――それから愛梨さんは、下げた頭をしばらく上げることができなかったのだった。




