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8-4




「――さん。ねぇ、愛梨さんってば?」

「……はっ!」

 ばばっ! 突然のその声に気づき、私は慌てて辺りを見回すと……すでに三時間目の授業は終わり、休憩時間に入ったクラスメートたちが、パラパラ、とトイレや友だちの席へと散って行くところだった。

「……どうしたの、愛梨さん? さっきから何か変だよ?」

 と、そんな私の様子を見て、泰介さんが先ほどの授業中よりももっと大きく首を傾げた。

 それに対し、私は……

「あ、いえ、そのぅ……な、何でもないですよ? 気にしないでください!」

 ……という、ウソ。

 やっぱり、いくら泰介さんが優しいからって、こんなに大変なことは頼めない。――予定がない可能性が高いというのは、どこかに出かける可能性が低いというだけであって、泰介さんにだって家事とか、何かしら色々やることはいっぱいあるのだ。

 ここはもう諦めて、素直におじさんに謝ろう。そうすればおじさんだって、きっとわかってくれるはず……だよね?

 うん、そうしよう。そう決めた私は、出していたノートをしまい、次の授業の――


「――もしかして、悩みごと……?」


「え――あっ!」

 パタタンッ!

 ――ふいの言葉。予想外にも泰介さんから放たれたその言葉に慌てて、私は手からノートを滑らせてしまった。急いで床に手を伸ばす。

 だけど、

「――はい。どうぞ」

 先に拾ってくれたのは、泰介さんだった。

 泰介さんはそれから、笑顔で話す。

「ボクじゃあんまり力になれないかもしれないけれど……よかったら話してよ。ボクにできることがあったら、何でも協力するよ?」

「……!!」

 ……。

 ……。

 ……。

 ……くす。

 思わず、笑ってしまった。それには逆に、今度は泰介さんが慌ててしまう。

「えっ!? あ、ご、ごめん! ボク、また何か!?」

「いえいえ♪」

 くすくす、と笑いがくっ付いて取れない変な言葉で、私は泰介さんに向かって、はっきりと言い放った。


「――実は、泰介さんにお願いしたいことがあるんですよ♪」


 今まで悩んでいたのはいったい何だったのか? そう自分でもびっくりするほどの、後ろめたさの一つも感じない。真っ直ぐな言葉を。







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