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#8,〝バイト〟と〝変態〟。 8-1




「――もしかしたら、後で鏡さんから連絡が行くかも」

 掃除当番の仕事が終わり、私は泰介さんの様子を見に保健室へと向かうと、着いてすぐに、その泰介さんからそんなことを言われた。

 桜花が? ……いったい何の用事だろう?

 宿題のことかな? などと思い、よくわからないままにその時は適当に「あ、はい。わかりました」と答えた私ではあったけれど、夜になって――お風呂に入り終わった私が部屋で雑誌を読んでいると、泰介さんの言うように桜花から電話がかかってきて、私はやっとその全容を理解することができた。

 ――そう。桜花も知ったらしいのだ。私の〝告白〟のことを。

 ……世間一般で見れば、告白なんて珍しくも何ともない。世界中のどこでも行われている、ごく普通のことなんだろうけれど……改めてそのことについてはっきり言われると、何だかものすごく恥ずかしい。

 桜花は私のそれを察して、慌てて謝り、そしてそれを知った経緯について説明してきたけれど、私はそれを中断させ、逆に〝謝った〟。

 ……何を? そんなの、決まっている。――泰介さんに告白したことを、〝親友〟である桜花にも黙っていたことを、だ。

 ……告白を黙っていた理由は、三つ。――まず一つは純粋に恥ずかしかったからで、もう一つは余計な心配をさせたくなかったから。そして最後に、何よりこの告白は、正確に言えばまだ、


 〝成功していない〟状態だったから。――である。


 〝変態〟からの〝変態〟……当初からのその目的が達成された時に、改めて返事をもらう。などという、何とも曖昧な結果……いくら〝親友〟であっても、こんな微妙な結果は伝えられない。そう思ったのだ。

 ――だけど、それを聞いた桜花の反応は、私が考えていたものとは全く違っていた。

 というのも、


「――おめでとう、愛梨。確かに結果はまだ、だが、先んじて祝いの言葉を送っておくよ」


 ……あれ??? と私は、この応えに思わず首を傾げてしまった。

 だって……そうでしょう? 桜花の性格だ。〝露出〟という〝変態性〟から抜け出したい私が、その……言ってはすごく泰介さんに悪い気もするけれど、〝変態〟の〝代表格〟みたいな泰介さんのことを好きになり、告白までしたのだ。これでは目標に反してしまうと言っても過言ではない。だから、すごく怒られると思っていたんだけれど……?

 ……さすがに、おめでとう、と祝福の言葉を送ってくれている桜花に対し、それを何で? と聞き返すわけにもいかない……。結局、なぜ桜花が祝福してくれたのか? それは謎のままだったけれど、しかしそんなことを話し合うにつれて、改めて私たちはお互いを〝親友〟なんだと再認識することができたのだけは間違いない。

 最終的には二人共笑顔のまま電話を切り、しかしそれとほぼ同時に、私はさっきまで読んでいた雑誌の上にスマホを置き、ベッドへとダイブした。そのまま枕を抱き締め、ゴロゴロ、と転がり回る。

 ……先ほど、告白は正確には〝成功していない〟。そう自分でも言ったけど……やっぱりこれって、〝ほとんど成功したのと同じ〟なのかな? ――桜花と話したことによって……電話を切るまでは何とか耐えていたんだけれど……私の中にあったその想いが、遂に、と言っておこう。臨界点を突破して爆発してしまったのだ。

「くふっ――」

 思わず出た変な笑いを、私は顔を思いっきり枕に押しつけ、何とか声が出るのだけは食い止めた。そして、ゴロゴロ、の回転スピードを上げて自分に言い聞かせる。

 落ち着け私! まだ答えをもらったわけじゃないでしょ! 泰介さんだって考えが変わることだってあるだろうし、何より〝変態〟から〝変態〟しない限りは、この告白は成立すらしないわけだし…………。


 でも、泰介さんはあの時確かに、〝それまで待ってて〟、って私に……❤


「キャー❤❤❤」

 遂に声まで出てしまった。ちなみに、泰介さんに告白した日の夜もこんな感じだったことは言うまでもないだろう。

 ゴロゴロ、が止まらない。抱き締めた枕も、もう形が戻らないんじゃないか? というくらい大きく変形し、自分でもびっくりするくらい力強く握り締められていた。

 ……だけど、それもほんの数秒。

 ――ガツンッ! 「いったぁっ!!?」

 やると思った。と自分でも薄々思っていたけど、案の定、ゴロゴロ、の勢いが余りに余っていた私は壁に後頭部から激突してしまったのだ。

 ようやく放した枕の外。くわんくわん、と視界が回る。

 調子に乗りすぎた……そう、反省こそしたものの、「くふふ❤」ともう、変な笑いが止まらない。

 ……このままずっと止まらなかったら、どうしよう? と……若干、そんなことが心配になり始めた、

 その時だった。




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