7-14
――今だ!! 心の中のあたしがそう叫んだ。確かに、会話が途切れたこの瞬間……〝変態〟に〝告白〟の結果を聴き出すのには、〝絶好中の絶好〟のタイミングかもしれない。
「……なぁ、〝変態〟?」
あたしはできる限り自然に、そう呟くように聞き、〝変態〟の注意をあたしへと引かせた。
それには当然、
「え? 何、鏡さん?」
と反応が返ってくる。それを確認してから、あたしは、冷静に、とにかく冷静に、言葉を間違わないように、〝変態〟に聴いた。
「……お前さ、この間……クサレ長山との決着がついた日のことなんだが……あの日、お前は愛梨に――」
「――えっ!? もしかして鏡さん、見てたの!?」
と、全てを言い終わらないうちに〝変態〟は驚きの声を上げた。あたしはそれに若干慌てながらも、すぐに言いわけを述べる。
「か、勘違いすんなよ! あたしは、ただ単に先生たちとの話が終わったから、普通に家に帰ろうとしてただけだ! その時たまたま見かけてしまってだな……!」
「そ……そうなんだ……ははっ、何だかちょっと恥ずかしいな……」
ぽりぽり、と〝変態〟は鼻頭をかき、恥ずかしさからだろうか? あたしから視線を外し、そっぽを向いた。
あたしはそれに構わず、そこに、予定していたとおりの言葉を投げかける。
「……で、その後はどうなんだ?」
「え? どうって……ああ、愛梨さんと? そりゃあ――」
……さぁ、どう答える、〝変態〟? お前の一言で〝告白〟の結果が――
「――確かに、〝断った〟けど、でも……」
――ガタンッッ!!
〝変態〟の言葉に、あたしは思わずヨロけてしまった。それにより、さっきまで座っていた椅子にぶつかり、大きな音が保健室中に鳴り響いてしまう。
「……鏡さん?」
それを見て不思議そうに、首を傾げた〝変態〟が聞いた。
「どうしたの、大丈夫?」
「あ、ああ、いやその……ちょっと、な……」
ど、動揺を隠しきれない……なぜ、〝変態〟は――いや! ダメだ! 落ち着け、あたし! 今はそれ以上考えるな! 結果を聴き出せたんだから、今はそれでいいじゃないか!
そう必死に自分を言いくるめ、あたしは急ぎ撤収の準備を――
「……何でだ?」
……あれ?
「何で、お前は……」
……お、おい、ちょっと待て、あたし! いったい何を――
「愛梨の〝告白〟を断ったんだ?」
――っっ!? 止めろ!! 止めろあたし! それ以上……!!
「――答えろこのクソ野郎ッッ!!!!!」
――それは、譬えあたしがどんなに冷静だったとしても、絶対に止めることはできはしない、〝心からの叫び声〟……まさにそういうやつだった。
それを叫び終わった後に悟ったあたしは、今さらながらも、この話を聴くことにした、その判断自体が間違いだったと気づきながら、とにかく〝変態〟に向かって〝逃げ〟の言葉を発射することにした。
――しかし、
「――す、すまん! 今のはその……だから……ッッ!!」
……頭が、回らない。そのせいで口も動かず、言葉がうまく発せられない。
逃げたくても……逃げれない……!!
ははっ、なんて情けない姿だよ、まったく……。
俯いて、あたしはそんな自分自身を罵った。
……最初は、愛梨にこんな〝変態〟は相応しくない! なんて言っていたクセに、いざその時となればどうだ? ……確かに、今でも表面上は相応しくない、とは思ってはいる。だけど、心の底では真逆……相応しく〝なってほしい〟と思っているのだ。
それを証明するのが、先ほど叫んだあの言葉……『何で、お前は……愛梨の〝告白〟を断ったんだ? ――答えろこのクソ野郎ッッ!!!!!』…………。




