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#2,〝親友〟と〝変態〟。 2-1改





 ――ここは……どこだ?


 ――真っ暗な視界。

 まるで生ごみのような強烈な〝腐敗臭(ふはいしゅう)〟が(ただよ)う〝謎の空間〟の中で目を覚ましたボクは、続いて自身の身体にも〝異常〟があることに気がついた。

 それは、

 「痛っっ……!!」

 ――そう。〝痛み〟。だった。それも、思わず声に出てしまうほどの〝激痛〟……それが身体中、余すことなく隅々(すみずみ)まで広がっていたのだ。

 何なんだ? この、〝痛み〟は……! それに……はっ!? そうだ、ボク……学校は!? 確か今朝、ボクは愛梨さんに会って、それで…………。

 ――あれ!? とまた気がついた。

 ……愛梨さんに会った、その〝後の記憶〟……それが、今のボクには一切、そう全く。これっぽっちも、脳の片隅にさえも、〝なかった〟のである。

 ――ば、バカな! 会った後の記憶がないなんて……それじゃあボクは、愛梨さんと会ってその場で〝突然倒れた〟とでもいうの!!? そんなバカな! ボクはまだ若い……それこそ、五十台後半の、今にも脳の血管が、ぷっちん☆ ()きそうなメタボリッカーじゃないんだ! それなのに、そんなこと……

 「――ぐッッ!!?」

 ま……まただ! また、全身に〝痛み〟が走った……。

 くそっ! ボクはそれに歯噛みし、しかしと今一度冷静になって考えてみる。

 ……落ちつけ。落ち着くんだ、ボク! とりあえずは状況を整理してみようじゃないか!

 えーと? まずは……〝痛み〟があるってことは、これは〝現実〟……夢ではないってことだよね? ――でも、そんな現実世界にいるのにも関わらず、目の前に広がっているのは、真っ暗闇な、とても現実世界とは思えないような〝謎の空間〟だけ……。あと他に情報といえば……そう、この鼻をつく、空間と同じく謎の〝腐敗臭〟だけなんだけど…………。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……ん? いや、待てよ? 〝腐敗臭〟だって? ……え? べつにボクの身体がゾンビってる……わけじゃないよね? もちろん? ……あれ? て、ゆーことは……ボクの周りにある〝何か〟が〝腐っている〟ってことであって、しかもそれが〝生ごみ〟のような臭いだとすると…………

 『ねぇ、ママぁ~』

 ――と、その時だった。

 突然……何か〝壁越し〟に聞いているかのような、くぐもった〝小さな子どもの声〟がボクの耳に届いてきた。

 子どもは続いて、

 『ねぇ、アレな~に~?』

 ……見えなくても分かる。興味津々に〝アレ〟と言った物(?)を指差して、ママに聞いた。

 すると、ママは……

 『しっ! 見ちゃいけません! あれは〝変態〟って言うの! マネしちゃダメですからね!』

 ……〝変態〟………………


 「――ボォォクのことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっッッッ!!!!!!!!!!」


 『きゃああああああぁぁぁっっッッ!!!!!!!』

 ――瞬間、だった。辺りに悲鳴が鳴り響いた。

 気がつくと、先ほどボクを指差していたのであろう子どもが大泣きし始め、それを見て慌てたママはその子を抱きかかえてすぐに逃げ出し、さらには近くを散歩中だったらしいおじいさんまでもが、リアル死にもの狂いで、奇声を上げて全速力で逃げ出すところだった。――が、しかし! そんな〝些細(ささい)〟なこと、今のボクにはどうでもよかった。

 ズボアアァッッ!! と何かに()もれる形になっていた頭をボクは無理やり引っこ抜くと、続いて、同時に明るくなった視界……ボクは先に語った〝些細〟なことをとりあえず無視し、現状を把握(はあく)するために急いで辺りを見回した。

 ――と、すぐに見えたのは、

 「……ごみ、ステーション………………」

 ――そう。町の……学校の目の前にあるごみ置き場……所謂〝ごみステーション〟というやつだった。

 「……そうか、思い出したぞ」

 となぜかそれを見て、ボクはここに至るまでの経緯(けいい)……その全てを思い出すことになった。

 「今朝、ボクは愛梨さんに会って……それで昨日愛梨さんが忘れて行った〝パンツ〟を厚意として届けてあげたんだ。それなのにそこに突然現れたメガネの女子生徒は……〝鬼〟は、いきなりボクに(おそ)いかかってきて、それで――」

 「――必要以上に(なぐ)り、()り、そして最後は〝生ごみ〟としてごみ捨て場へ……ということだな」

 「そのとお――りっ!!???」

 ビシッ! と隣に向かって伸ばしかけた人差し指を、ボクは瞬間引っこめた。

 ――当たり前だ。何しろ誰もいなかったはずのそこには、突然……そう、本当に唐突に、だ。まるで〝最初からそこにいた〟かのように、さも当然であるがごとく立つ、ボクと同じ学校の制服を着た謎の、〝ヤサ男〟の姿があったのだ。

 「だ……誰だお前はッッ!!」

 ズザザーーーッッ!!! 靴底をすり減らしながらも、バックステップによってそのヤサ男からある程度の距離をとったボクは、続いて髪に引っ掛かっていたバナナの皮を地面に叩きつけ、〝臨戦(りんせん)態勢(たいせい)〟に入った。

 ――しかし!!

 「――ふむ。見知らぬ相手に距離をとる、というのは正しい選択だが……しかし、相手が悪かったな」

 ヤサ男が消え――否! 刹那後方からのこの声……ヤサ男はいつの間にかボクの〝真後ろ〟へと〝瞬間移動〟していたのだ。

 バカなッッ!!!???

 ボクは、その衝撃の事実に振り返ることすらできず、思わずその場で息を呑んでしまった。

 だけど……〝勘違い〟はしないでほしい。ボクは何も、ヤサ男が瞬間移動したことについて驚いているわけではないのだ!

 ――ヤサ男の〝正体〟……それに気がつき、驚いてしまったのだ。

 その、〝正体〟とは――

 「こ……甲呀(こうが)……ッッッ!!!!!!」

 「――正解だ」

 そう呟いてボクの正面に回ったヤサ男は、あごに手をかけ、そしてさながらアルセーヌ三世がごとく、ベリリ、とその〝マスク〟を脱ぎ捨てた。

 ――そこから現れたのは、ヤサ男とは似ても似つかない、まるで〝殺し屋〟のような(するど)い眼つきをした、メガネをかけた男の姿……その表情からは感情の一切が読み取れず、しかし後ろで一つに(しば)られたなびく銀髪が、いかにも近づきがたい怪しげな雰囲気を(かも)し出している。

 ……間違いない!

 ――そこにいたのは、ボクの小・中学校時代の〝クラスメート〟。


 〝変態(へんたい)〟に()れない〝変人(へんじん)〟――忍野(おしの) 甲呀(こうが)その人だった。






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