7-12
――その時だった。
微かに、しかし確かに聞こえてきた、〝困った〟、という女子生徒の声!!
ボクは慌てて聞き耳を立て、その声の主を捜すと……すぐに見つかった! ――というのも、声が聞こえたのは女子トイレの方……他に誰の姿もないその場所には、入口のすぐ脇に、ポツン、と二人だけ、女子生徒の姿があったのだ。
どうやら、と言うまでもなく、声の主はあの二人でまず間違いない。それに気がついたボクは、怪しまれないように、壁に沿うように隠れながら移動し、二人に近づいた。
――と、すぐに会話の続きが聞こえてくる。
「――たの? 何かあったん?」
「いや……それがさぁ? 今日〝アノ日〟だったの忘れてて、してこなかったんだよねぇ~? 替えもないし~?」
……〝アノ日〟??? 〝アノ日〟って……いったい今日は何の日なのだろう? 昨日の、四月二十九日なら、昭和の日、ということで話は分かるのだけれど、カレンダーを見た限りじゃ……うん、やっぱり、今日は何の日でもないよね?
ボクはスマホに入っているカレンダーを開き、見てみたけれど、そこには何のマークも出ていない……つまり、とりあえず学生にとっては〝普通の日〟ということである。
まさか夫婦の結婚記念日、なわけはないし……ここはもう少し、話を聞いてみるしかないな。
そう考え、ボクはただ静かにその様子を見守っていると、話は続いて――
「え~? うっそ! 〝危険日〟じゃ~ん☆」
〝危険日〟!?! えっ!? 今日って、何か〝危険〟が迫ってくる日なの!!?
どうやら二人はカレンダーにすら載っていない、驚愕の事実を知っているらしい! ……それにしてはどこか軽い感じだけれど……とにかく! ボクはそれに恐怖を覚えながらも、手に汗を握りながら、さっきよりもさらに身を入れて二人の会話を聞いた。
「――ちょっ! 危険日とか! やめてよそういう言い方~!」
「え~? だってホントのことじゃ~ん☆ ……で? え、何? してこなかったんだって? ぶっちゃけ、ちょ~汚れるよ?」
「ワカル~。だから困ってんだよね~? しかも今日〝白〟だし~?」
「うわっ! サイアク! もう捨てるしかないじゃん! 洗っても絶対落ちないし! ――てゆーか、保健室にもらいに行かないの? くれるよ? 普通に? アタシは今日持ってきてないよ?」
「え~? ヤダよそんなの~! なんかぁ、自分で言いふらしに行ってるみたいじゃん?」
「じゃあ……どうすんの? トイレットペーパーか何か重ねて当てとく? ハンカチとかならもっと長くもつと思うけど?」
「う~ん…………」
……???
何だろう? 危険っていう割には、そこまで危険じゃないような気が……その〝危険日〟って、トイレットペーパーとか、ハンカチで何とかなるようなものなの???
…………まぁ、いいや。よく分かんないけど、とにかく……そんなことで何とかなるようなことなのであれば、話は簡単だ。ここはボクの〝ハンカチを渡して〟……おっと! さっきの訓練のことも〝応用〟しなきゃ! それを踏まえて――いざ!!
ボクはポケットから取り出したハンカチを片手に、すぐにその困っているらしい女子生徒の方へ向かった。
――そして!!
「……うん。やっぱそれしかないよね? 授業が終わったら取り換えることにして、とりあえずは――」
「やぁ! そこのお嬢さん!」
「「……え?」」
二人が振り向いた瞬間、ボクは……〝答え〟の行動をとった。
「よかったらこれを使ってよ!」
す……差し出したのは、先ほど取り出したボクの〝ハンカチ〟。
――しかし、それだけでは終わらない!
ボクはさらに、訓練でやったことを思い出し、空いている方の腕で〝視界を隠し〟ながら、〝決め〟のセリフを言い放った。
「――大丈夫! ボクは〝何にも見てない〟よ! ……うん!」
「「…………」」
……決まった! と思った。
これ以上ないほどに〝完璧〟! その証拠に、ボクがセリフを言い終わった後も、二人は一切口を開くことができなかったのだ。
ふふふ! さすがはボクだ! 訓練で学んだことを全て発揮することに成功したぞ! だって、ハンカチは渡すだけでボクからは何もしていないし、恥ずかしさも感じさせないように視界を隠して配慮もした! 本当に本当! 今回は自信を持って〝完璧〟だと言うことが――
「あ…………」
……ん? 何? 〝あ〟??? ……あ、あ、……ああ! 〝ありがとう〟の〝あ〟か! そりゃそうか。これだけ〝完璧〟な対応をされたら、そりゃあ誰だっておれ――
「――〝ア〟タマイカレてんのかこの〝変態〟があああああああああああああぁぁぁああぁぁっっっッッッッッ!!!!!!!!!!」
「……え? ――えっ!?! なんゲホアアアァッッッッッ!!!???」
「死【 ピンポンパンポーン♪ お知らせです。 】ぇっっっ!!!!!」
「二【 この作品にR指定は付けておりません。 】ぅぅッッ!!!!!」
「も【 従ってここから先はお見せできません。 】ぁあッッ!?!?!」
「殺【 何卒、ご了承の程をお願いいたします。 】すぅぅぅ!!!!!」
「く【 また、悪いのは全て〝変態〟泰介です。 】ぉぉぉぉ!!!!!」
「ぶ【 泰介に代わり、お詫びを申し上げます。 】ベあぁッ!!???」
ぎ【 深く……深く、お詫びを申し上げます。 】ぁッッッ!!!!!!




