表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/172

7-7



「――さて、〝お約束〟も無事に終わったことだし……泰介、部活を続けるぞ」

「どの辺が無事なのさ!! 八つ裂きどころの話じゃなかったでしょ!?」

 ――変わらず、部室(保健室)。

 ボクは鏡さんに殺され、ゴッドハンド・ゆりちゃん先生のゴッドハンドにより、見事復活こそ果たしたものの、心と記憶に〝一生の思い(トラウマ)〟を刻み込まれてしまっていたことからそう叫んだけれど、甲呀は……。

「む? はて? どう見ても〝無事〟だが? 何かあったのか?」

 この、ふざけた回答だ……もういいよ。

「――そんなことより、泰介」

 と、ボクがそれを諦めた、その時だった。

 まるでボクが諦めることを最初から分かっていたかのように、甲呀はタイミングよく話し始めた。

「今の訓練の内容についてだが……〝演技〟とはいえ、鏡があれほど怒ったんだ。実際に他の女子生徒に行ったとしても結果は同じだっただろう。……何が悪かったのか? 自己反省すべき点はないか?」

「へ? 〝演技〟??? 演技って――」

 ごほん! ごほん! ――ボクが首を傾げたのを見て、なぜか甲呀はわざとらしく咳ばらいをした。そして、くいくい、とボクにだけ見えるよう、親指で自分の後ろを指差す。

 いったい何があると言うんだろう? 気になったボクは甲呀の後ろを覗き込んでみると、そこには……あ、

「――いちゃんのために〝演技〟してくれただけ。鏡ちゃんはたいちゃんのために〝演技〟してくれただけ。鏡ちゃんはたいちゃんのために〝演技〟してくれただけ! だから〝殺し〟ちゃダメ! 絶対ダメ! 絶対、絶対……えへ、えへへへへ…………」

 ……テーブルの中央。そこにいたのは、ぶつぶつ、とまるでそれだけで人を呪い殺せるんじゃないだろうか? と思えるほどの驚異的な殺意のオーラを自分の内に押し止めている、お姉ちゃんの姿があった。――その対面の席では、俯いたまま、ピクリ、とも動けずにいる、この状況を自ら引き起こしてしまった鏡さんと、愛梨さんの姿があった。……ちなみに、隣に座っているゆりちゃん先生は、それを優しくなだめている様子だ。

 なるほど。〝演技〟……そういうことにしないと、鏡さんが〝いなく〟なって部活ができなくなるわけか。

 それを理解したボクは、ごほ! ごほ! と甲呀のマネをして咳ばらいをしてから、何ごともなかったかのように質問に答えた。

「え、えっと……ほら、鏡さんは最後に、〝脱がせるな〟、って言ったよね? もしかして、ああいう状況では脱がしちゃダメなの?」

「そのとおりだ」

 カチャリ、甲呀はいつものように中指で直してから、改めてその理由を説明した。

「……考えてもみろ、泰介。人間はなぜ服を着る? その理由はべつに、暑さや寒さから逃れるためだけではないだろう? ――そう、恥ずかしいからだ。――そもそもお前に羞恥心という感情があるかどうかは知らんが、ほぼ全ての人はそれを持っている。それ故に、譬え水に濡れてカゼをひくことになっても、そう簡単に人前では服を脱ぐことができんのだ。……分かるな?」

「ああ、なるほど! そういう理由で鏡さんは怒ったのか! ……って、ちょっと待ってよ甲呀。ボクにだって羞恥心くらいあるよ? 確かにちょっとやそっと裸になったくらいじゃ恥ずかしくも何ともないけどさ!?」

「…………そうか」

 まぁ、ともかくだ……甲呀はため息混じりに続けた。

「そういう理由があって脱がすことができないんだ。ならば、それが答えそのものに繋がるのではないか?」

「答えに?」

 ……ああ、確かに。だって、脱がすことができないのだとしたら、それはつまり、濡れた服を〝着せたまま〟対処しなければならないということ。まさに答えの一部だ。

 ……だけど、問題なのは〝そこ〟でもある。――服を着せたままだということは、まさかそこにアイロンをかけて乾かすわけにもいかない。そんなことをすれば大火傷必至だ。

 ならば、どうする!? どうすれば乾かせる? ドライヤーなんかじゃいつまで経っても乾かないだろうし、ずっと当てていればこれもまた火傷必至だ! だったら……!!

 ……。

 ……。

 ……。

 ……~ッッ!!

 ダメだっ! ――精神力の続く限り頭を回転させてみたけれど、ちっとも良いアイデアなんて思いつかない。仕方なく、ボクは応急処置の方法を答えた。

「脱がしちゃダメとなると、もう手の打ちようがないよ。仕方ないから、乾いたタオルとか、ハンカチとかで押さえるしかないんじゃない? と言ってもそれじゃあ解決には――」


「「それだ!」」「それです!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ