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「――さて、〝お約束〟も無事に終わったことだし……泰介、部活を続けるぞ」
「どの辺が無事なのさ!! 八つ裂きどころの話じゃなかったでしょ!?」
――変わらず、部室(保健室)。
ボクは鏡さんに殺され、ゴッドハンド・ゆりちゃん先生のゴッドハンドにより、見事復活こそ果たしたものの、心と記憶に〝一生の思い出〟を刻み込まれてしまっていたことからそう叫んだけれど、甲呀は……。
「む? はて? どう見ても〝無事〟だが? 何かあったのか?」
この、ふざけた回答だ……もういいよ。
「――そんなことより、泰介」
と、ボクがそれを諦めた、その時だった。
まるでボクが諦めることを最初から分かっていたかのように、甲呀はタイミングよく話し始めた。
「今の訓練の内容についてだが……〝演技〟とはいえ、鏡があれほど怒ったんだ。実際に他の女子生徒に行ったとしても結果は同じだっただろう。……何が悪かったのか? 自己反省すべき点はないか?」
「へ? 〝演技〟??? 演技って――」
ごほん! ごほん! ――ボクが首を傾げたのを見て、なぜか甲呀はわざとらしく咳ばらいをした。そして、くいくい、とボクにだけ見えるよう、親指で自分の後ろを指差す。
いったい何があると言うんだろう? 気になったボクは甲呀の後ろを覗き込んでみると、そこには……あ、
「――いちゃんのために〝演技〟してくれただけ。鏡ちゃんはたいちゃんのために〝演技〟してくれただけ。鏡ちゃんはたいちゃんのために〝演技〟してくれただけ! だから〝殺し〟ちゃダメ! 絶対ダメ! 絶対、絶対……えへ、えへへへへ…………」
……テーブルの中央。そこにいたのは、ぶつぶつ、とまるでそれだけで人を呪い殺せるんじゃないだろうか? と思えるほどの驚異的な殺意のオーラを自分の内に押し止めている、お姉ちゃんの姿があった。――その対面の席では、俯いたまま、ピクリ、とも動けずにいる、この状況を自ら引き起こしてしまった鏡さんと、愛梨さんの姿があった。……ちなみに、隣に座っているゆりちゃん先生は、それを優しくなだめている様子だ。
なるほど。〝演技〟……そういうことにしないと、鏡さんが〝いなく〟なって部活ができなくなるわけか。
それを理解したボクは、ごほ! ごほ! と甲呀のマネをして咳ばらいをしてから、何ごともなかったかのように質問に答えた。
「え、えっと……ほら、鏡さんは最後に、〝脱がせるな〟、って言ったよね? もしかして、ああいう状況では脱がしちゃダメなの?」
「そのとおりだ」
カチャリ、甲呀はいつものように中指で直してから、改めてその理由を説明した。
「……考えてもみろ、泰介。人間はなぜ服を着る? その理由はべつに、暑さや寒さから逃れるためだけではないだろう? ――そう、恥ずかしいからだ。――そもそもお前に羞恥心という感情があるかどうかは知らんが、ほぼ全ての人はそれを持っている。それ故に、譬え水に濡れてカゼをひくことになっても、そう簡単に人前では服を脱ぐことができんのだ。……分かるな?」
「ああ、なるほど! そういう理由で鏡さんは怒ったのか! ……って、ちょっと待ってよ甲呀。ボクにだって羞恥心くらいあるよ? 確かにちょっとやそっと裸になったくらいじゃ恥ずかしくも何ともないけどさ!?」
「…………そうか」
まぁ、ともかくだ……甲呀はため息混じりに続けた。
「そういう理由があって脱がすことができないんだ。ならば、それが答えそのものに繋がるのではないか?」
「答えに?」
……ああ、確かに。だって、脱がすことができないのだとしたら、それはつまり、濡れた服を〝着せたまま〟対処しなければならないということ。まさに答えの一部だ。
……だけど、問題なのは〝そこ〟でもある。――服を着せたままだということは、まさかそこにアイロンをかけて乾かすわけにもいかない。そんなことをすれば大火傷必至だ。
ならば、どうする!? どうすれば乾かせる? ドライヤーなんかじゃいつまで経っても乾かないだろうし、ずっと当てていればこれもまた火傷必至だ! だったら……!!
……。
……。
……。
……~ッッ!!
ダメだっ! ――精神力の続く限り頭を回転させてみたけれど、ちっとも良いアイデアなんて思いつかない。仕方なく、ボクは応急処置の方法を答えた。
「脱がしちゃダメとなると、もう手の打ちようがないよ。仕方ないから、乾いたタオルとか、ハンカチとかで押さえるしかないんじゃない? と言ってもそれじゃあ解決には――」
「「それだ!」」「それです!」




