#7,〝告白〟と〝変態〟。 7-1
【視点・泰介→〝桜花〟】
――私を! 泰介さんの〝彼女〟にしてくださいっっ……!!!!!
――四月二十三日火曜日。……つまり、愛梨と〝変態〟を陥れようとした、あのクサレ長山との〝決着〟がついた日のことだ。
クサレ長山のことを〝変態〟の姉ちゃんといっしょにフルボッコにしてしまったせいで先生たちに呼び出され、結果当事者である愛梨たちよりも帰るのが遅くなってしまったあたしが目にしたのは、そんな、今までの人生の中で最も、と言っても過言ではない、〝衝撃的な現場〟だった。
まったく、何であたしはよりにもよってこんなタイミングに……などと思っているヒマはもちろんない。まさに反射的に、だ……とっさにあたしは、その場から〝逃げ出して〟しまっていたのである。
……情けない話だ。とは、逃げた先である本屋の前で思ったことだ。
はぁ、はぁ、と……本来であれば有り得ない。たかだか数十メートルの距離を走っただけで息を切らしてしまったあたしは、そのままもたれかかるように目の前にあった郵便ポストに手を突き、整えようとしても一向に戻る気配のない呼吸を、必死に戻そうとしながらも、ずっと考えていた。
――なぜ、あたしは〝逃げて〟しまったのか……?
親友の〝告白〟という現場に遭遇して、気まずかったから?
……違う。あたしは〝知っていた〟のだ。愛梨の……〝変態〟に対する〝気持ち〟を。
――そう。愛梨は〝変態〟のことが〝好き〟だったのだ。最初から……あたしが知る限り、愛梨が〝変態〟と初めて出会ったその日から、ずっと……。
理由は、あたしが〝変態〟を〝試した〟次の日。昼メシを食べている時に愛梨自身が語ったこと――〝変態〟は愛梨の〝秘密〟を知ってもなお、それを他人にバラそうとするどころか、むしろ愛梨のことを〝励まし〟、想いを〝共感〟した。――そのことからだろう。
やれやれ、とんだお人好しもいたもんだ。――などと思いつつも、それを知っていたからこそ、あたしは〝怖かった〟のである。
〝親友〟である愛梨にもしも好きなやつができてしまったら……あたしと愛梨の、〝親友〟という関係は、いったいどうなってしまうのだろう? と…………。
…………。
「……バカバカしい」
ふぅー……ようやく戻った呼吸。あたしは最後に大きく息を吐き出して、郵便ポストから手を離した。
……こんな無駄なことを考えるのは止めよう。愛梨は愛梨だ。小さい頃からのあたしの友だち……〝親友〟。
〝親友〟っていうのは、そんな些細なことで揺らぐような存在同士ではない。譬え愛梨が本気で〝変態〟のことを好きになったとしても、あたしたちは今までどおり、何も変わることなく〝親友〟であり続けることができる。そう断言できるほどの〝信頼関係〟が、長年いっしょにいたあたしたちにはあるのだ。
……まぁ、もっとも? 問題なのはその〝好きになったやつの方〟……なんだけどな?
自覚なき〝変態〟……こんなに〝危険極まりない〟やつはそうはいないことだろう。
姉ちゃんとのこともあって、〝変態〟自身、愛梨の身体には一切の興味はないようだからまだいいようなものの、それでも普段の言動が〝アレ〟だ。……あんなのが愛梨の〝彼氏〟だと学校中に知れ渡ってしまったら……今日のことで〝露出癖〟が完全にバレてしまった愛梨が、〝変態〟と同じような目でみんなから見られてしまうんじゃないだろうか? それだけが非常に心配だ。
「…………ん? いや、待てよ?」
と、あたしは今さらながら、そのことに気がついた。
何に? とは――
「そういや……愛梨の〝告白〟に対する、〝変態〟の〝答え〟って…………?」




