1-12改 一話目終わり。
「え? ウソ、知り合い?」とか何とか、周りが騒いでいるような気はしたけれど、今はそれどころじゃなかった。ボクはそれから、何だかちょっぴりうれしく思いつつも、すぐに……しかしなるべく、顔を見ていなかったために〝おしり〟で判断した……などということがバレてしまわないように、ポピュラーなほめ言葉を練り込んでその返事を返した。
「いや~……一瞬分かんなかったよ! だって昨日はもうかなり暗かったし……明るい所で見ると、キミってばこんなに〝美人〟さんだったんだね!」
「び、〝美人〟って……そんな……」
えへへ、と女子生徒は恥ずかしそうに頬をかいた。それを見て内心、ボクは、よし! とガッツポーズをとった。まさに会心の返し言葉だったようだ。
「――あ、そ、そんなことより!」
と、テレ隠しか、女子生徒はボクの方に手を伸ばし、改めてあいさつをしてきた。
「私、小出 愛梨って言います! 〝小さい〟に〝出る〟。人を愛するの〝愛〟に、果物の〝梨〟で、小出 愛梨です! ――みんなは私のことを、愛梨、って呼ぶので、よかったらそう呼んでください!」
「愛梨…さんか。ボクは緒方 泰介。えっと、へその緒とかの〝緒〟に、方向の〝方〟。泰平の世の〝泰〟に……〝すけ〟? 〝すけ〟はえっと……か、カタカナの〝へ〟と〝ル〟を左右逆にしてくっつけたみたいな漢字……って言えば分かるかな? ――と、とりあえずボクのことはみんな……〝あ〟!」
くす、愛梨さんは笑った。そりゃそうだ。何しろボクのことはみんな、〝変態〟って呼ぶのだから。
それを知っている愛梨さんは、一度伸ばしかけて引っ込めたボクの手を取って、握手をした。
「――じゃあ、私のことも名前で呼んでもらえたので、あなたのことも……その……た……〝泰介〟…さん……って呼んでもいいですよね? ――て、てゆーか! もう決まりです! これからよろしくお願いします!」
「うわっと!? よ! よろ! しく……!」
ぶんぶん! と見た目以上に力強く握った手を振ってきたものだから、正直びっくりしたけれど……それでも、それ〝以上〟に、ボクはこの学校で初めてまともに会話ができる友だちができて、ものすごく、〝うれしかった〟。
よろしく! よろしく! と、先ほどの驚きはどこへやら? ――もはや泣きそうだ。ボクは感動のあまり、今度は逆に、そんな愛梨さんの手を強く振り返した。
「わ! わ! ――あ! と、ところで! ……何だかきた時から、上着のポケットから、〝ビニール〟のような物がはみ出てますけど……それって何ですか?」
「え……? ――あ! そうだ! 忘れてた!」
言われてようやく思い出したボクは、愛梨さんから手を離し、すぐさまそれをポケットから引っ張り出して、愛梨さんに渡した。
――瞬間、なぜか愛梨さんは笑顔のまま、硬直してしまう。
「…………え? あ、あ…の……こここ、〝これ〟……は、なん……ですか……???」
ギギギ、と……何だか油の切れたロボットのようだ。
――そんな変な動きを見せる愛梨さんを見て、首を傾げながらも……ボクは、愛梨さんが言う〝これ〟のことについて、愛梨さんに説明した。
「何って、〝パンツ〟だよ。昨日忘れて行ったでしょ? だから届けようと思って……」
……あれ? と今度は、あんぐり、と口を開けたまま動かなくなってしまった愛梨さんを見て、ボクはまた首を傾げてしまった。
……はて? いったい、愛梨さんはどうしたというのだろうか?
――あ! そうか! ……と、ボクはようやく〝そのこと〟に気づき、急いで説明した。
「〝洗濯〟のことだったら大丈夫! 色物だったから洗濯機には入れないで、〝手洗い〟したから!」
「ててててて!! 〝手洗い〟!!!!??????」
うん。もちろん! ――ボクは続けた。
「匂いの方もばっちりだよ! 〝元からあった匂い〟を邪魔しないように、ウチでいつも使ってるほのかな花の香りがするやつを選んだから。〝何回も嗅いで〟確認したから完璧さ!!」
「〝何回も嗅いで〟ぇぇぇっっ!!!!!????????????」
「え……あ、うん。あと、しわにならないように、アイロンもちゃんと……」
「アイロ……っっっ!!!!!!??????????????????」
「……」
……いったい、どうしたというのだろうか? さっきから、何だかものすごく〝全力的〟な反応のしかただ。……ひょっとして、そんなにうれしかったのかな?
なんて、そんなことを考えていた――その時だった。
ひそひそひそひそひそひそ……と、何だかクラス中が妙に騒がしいな? と思って、ボクは前を向くと、そこにはメガネをかけた、制服姿の女の〝鬼〟が……
…………え?
「……てぇぇぇめぇえええええ!!!!! 愛梨に何しやがったぁあああああ!!!!!」
「………………え……あの……どちら様……でしょう…か……???」
「問答むよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおうッッッ!!!!!!!!!!」
――ぐしゃ、ばき、どか、べきき、ぼきん、どばっ、ずどど、めしゃぁ……。
……いったい、何が起こったのだろうか?
薄れ行く意識の中、ボクの耳に聞こえてきていたのは、そんな、普段聞き慣れないような、奇怪な〝効果音〟たちだった。
……本当にいったい、何が起こったのだろう? ぐるぐる、としかし、何の感覚もなく回り続ける視界……本当に意味が分からない。――だけど、なぜか〝一つだけ〟、そんなボクにでも理解できるものがあった。
それは、〝拳〟……そう。眼前に迫りくる、それはもう見事な、きれいな〝正拳突き〟――
パアアァァンッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!