6-21
「――いんですか……?」
その時だった。長山の言葉に、俯いたままだった愛梨さんが問いかけたのだ。
「どう……すればいいんですか? いったい、私たちは……〝何を〟すれば、許していただけるんですか……?」
ニヤァ~。
その言葉を待ってました! そう言わんばかりに、長山は、くくく、と笑いを堪えきれずに愛梨さんに話した。
「くくっ……そいつはオレにはどうにも言えねぇなぁ? だって、それを言っちまったら、何だかオレが〝サイソク〟してるみてぇだからなぁ? ――だけど、ま! これは〝提案〟! あくまでも、お前らがそれでいい、っていう時の話なんだがよ~……〝慰謝料〟を払うっていうのはどうだ!? ああ! もちろん全員に、というわけじゃねぇ。そんなことを言ってたら金がいくらあっても足りねぇからな! だから……例えば! 例えばの話だぜー!? 一番メイワクを被った学校とか……それから、悪くもねぇのに悪者にされた〝オレ〟……とかによー!」
ぐッッ!! ――初めから……初めから狙いはそれだったのか!
〝考えがある〟――長山はボクが愛梨さんを引き渡すのを断った時、確かにそう言った。それはあくまでも、全てを予想して動いていたわけではなく、話の流れを何とかしてそっちの方向へ持っていく、という意味だったのだろうけれど……やられた! 予想外にも愛梨さんが現れたことによってボクは退学することだけは免れたけれど……その代わりに、長山にとっては絶好の、〝交渉の場〟、というものができてしまったのだ!
確かにこの〝場〟では、もはや〝お金による解決〟しか方法はない……いや、学校側だけで言えば、例えば迷惑をかけた罰として校門の前の清掃をする、だとか、そんな感じのことで済むかもしれない……だけど、長山はもちろんその程度では済まないだろう。――さっき自分でも言っていたとおり、(わざと)テストで赤点を採って、それで最終的に登校を拒否してしまえばいいんだ。そうすればもはや長山が何もしなくても、長山の心をひどく傷つけてしまった、〝ボクたちに責任がある〟、ということになってしまう!
なんて〝キタナイ〟! なんて〝ズル賢い〟方法なのだろう!! ――その、頭の回転の良さを、もっと人の役立つことに使えないものなのかと、逆に関心を抱いてしまうほどだった。
――だけど、とボクはあえて、怒りの矛を無理やり収めた。
なぜなら、一見〝最悪〟になってしまったと思われるこの状況だったけれど……もし、もし愛梨さんがボクのことを助けようとは思わずに、そのまま家に引きこもっていたとしたら……それを考えると、今よりももっと〝悪い結末〟になっていたのではないかと、ボクは思うのだ。
なぜか? それは、長山が最初の最初……一番最初に要求したのが、〝愛梨さんそのもの〟だったからだ。
もし愛梨さんがこなかったら……その時はきっと、長山はこう考えていたに違いない。
愛梨さんを〝脅そう〟――と。
……方法は簡単だ。ありもしないウソでも何でもいい。とにかくそれを、みんなに教えて回るぞ! と怒鳴りながら愛梨さんに言えば、心が傷ついた状態の愛梨さんは、それを阻止するために〝何だって〟しようとする……そう、ボクに〝秘密〟を知られた時、愛梨さんが自分の〝身体〟を差し出して、それを止めようとしたみたいに……。
そうならなくて、本当に〝よかった〟……そう、ボクは心から安堵した。
……お金のことだったら……確かに、あんなやつに! という悔しさは残るものの、何とかはなる……それこそ、甲呀やお姉ちゃん、鏡さんには申し訳ないけれど、二人で一生懸命バイトをすれば、いずれは解決できる程度の問題なのだ。
ボクの金欠がさらにひどくなり、愛梨さんまでもがそれに巻き込まれてしまうけれど……それでも、一生取り返しのつかないようなことになるよりは、〝百倍マシ〟というものだった。
「……分かった……払――」
「――あいや待たれよ! 罪なき若人たちよ!」




