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6-13




 「――そっか。小出さん……ずっと一人で、そんな〝怖い〟気持ちと戦ってたんだ……」

 ――騒ぎも静まり、再び静けさを取り戻した部屋の中。

 私はソファー代わりに使うベッドの上で……隣に座る伊東先生に、ぴったり、と肩を寄り添わせながら、呟くように小さな声で話した。

 「……はい……〝怖くて〟……〝怖くて〟……もし、今訪ねてきたのが〝泰介さん〟だったとしたら……そう考えただけで、私は泰介さんにどんな顔をして会えばいいのかわからなくなってしまって……だから、あんな大声を…………」

 「なるほど……ごめんね? 急に押しかけちゃって? べつに驚かせるつもりじゃなかったんだけど、小出さんのお母さん……先生がちゃんと、先生ですよ~。って名乗ってるのに、なかなか…どころか、たぶん今も信じてなくて……先輩、か何かとでも思ったのかな? ――とにかく、急いでいたとはいえ、先に電話の一つでも入れておくべきだったよ。……ホントにごめんね?」

 ……ああ、そういうことだったのか。

 お母さんはいつも、桜花のことは桜花ちゃん。友だちのことはお友だち……というふうに、その人が誰なのかがわかれば、ちゃんとその名前で呼ぶのだけれど……伊東先生みたいに初めて見る人が……特に伊東先生の場合、童顔のせいでせいぜいが私の先輩にしか見えないような人のことは、さっきみたいに〝お客さん〟としか呼ぶことができなかったのだ。――伊東先生が言うように、伊東先生のことを先生だと認識できていないのが、その何よりの証拠だ。

 そうとは知らず、私はなんて…………

 ……あれ? とその時気がついた。

 〝急いでいた〟。……伊東先生は今、確かにそう言った。

 それなら……急いでいたのなら、なぜ私の所になんかきたのだろう?

 気になった私は、あの……と、すぐに聞いた。

 「ところでさっき、〝急いでいた〟、って、言っていましたけど……伊東先生はこれからどこかへ向かう予定だったんですか? それなら、私に構っている余裕なんてないんじゃ……?」

 「ん? ああ、なんだ。そんなこと? それならもう〝到着してる〟から大丈夫だよ。だって先生が急いでたのは、小出さんに〝伝言〟を頼まれたからなんだもの」

 「私に……〝伝言〟???」

 いったい、誰からですか? そう聞く前に、伊東先生は、ポケットから折りたたまれた……〝プリント〟……? のようなものを取り出して、それを私に渡してきた。

 「……???」

 よくわからないまま、それを受け取った私は……ここに〝伝言〟とやらが書かれているのかな? そう思ってゆっくりと、そのプリントを広げてみる。

 すると、そこに書かれていたのは……。


 【第一回 〝変態を迎える人生〟部 対 先生 特別保健体育テスト勝負】


 「これって……! あの、伊東先生? これって、もしかして……」

 うん、そのとおりだよ! 元気に伊東先生は答えた。

 「これは、部活発足の時に、〝緒方くんに受けてもらったテスト〟だよ! ――小出さんが一生懸命教えてくれたおかげで合格することができた……ね❤」

 やっぱり……でも、

 「え? あの……伊東先生? これがその……〝伝言〟……な、わけがないですよね? このテストに、いったい何の関係が……???」

 うふふ❤ ……首を傾げる私に対し、しかしなぜかいたずらっぽく笑った伊東先生は、それから私の持っているテストを指差しながら、話した。

 「まぁまぁ、そう焦らずに……〝伝言〟を聞く前に、そのテストの〝点数〟を見てみて?」

 「〝点数〟???」

 ……もうすでに合格したテストの〝点数〟を見て、いったい何が……えっ!!?

 瞬間、思わず私は声を上げてしまった。

 「〝30点〟!!? え!? どうして、こんな……あっっ!!」

 と、すぐに気がついた。

 それは、同じ答えを続けて書いてしまったことによる、〝回答の一コ飛ばし〟……ミニ実力テストの時に〝ニコ中〟と二回続けて書いてしまったアレと、全く同じミスだった。

 「た、泰介さん……何で……何で、( )埋めしかないテストなのに、飛ばしたことに気づかないんですか……どう考えてもおかしいって、思わなかったんですか……?」

 ……あれ??? とまた気がついた。

 というか……〝30点〟……誰が見ても間違いなく〝赤点不合格〟のこのテスト……これを見て、伊東先生はなぜ、〝合格〟と言ったのだろう? いくら伊東先生が甘い性格だったとしても、さすがにこれは……。

 気になった私は、今一度伊東先生の方を見てみると……伊東先生はまた、うふふ❤ と楽しそうに笑ってから答えた。

 「どうして〝合格〟にしちゃったか、気になる? それはねぇ……そのテストに書いてある、〝一番最後の問題〟を見てみて☆」

 「〝一番最後〟……ですか??? えっと……」

 ……これもまた、何だかよくわからないままだったけれど……とにかく私は言われたとおり、再びテストに視線を戻し、〝一番最後の問題〟を見てみる。

 と、そこには……こう、書いてあった。


 【問〝31〟、一緒に勉強をした小出さんのことを〝どう思っているか〟? 緒方くんが思っていることを自由に書きなさい。】






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