6-11
【視点・泰介→〝愛梨〟】
――四月二十三日、火曜日。
自分の部屋の、ベットの上……顔まで、すっぽり、と布団に包まりながら、私はずっと、画面いっぱいに履歴が表示され続けているスマホを見つめていた。
そこには、【大丈夫?】とか、【気にしちゃダメだよ!】とか、うれしいことに、親しい友だちからの励ましのメッセージが書かれているのだけれど……しかし、私は……そのどれもに、未だ一切の返事を返すことができずにいた。
……なぜ、か? それはたぶん……〝怖い〟から……だと思う。
友だちからのメッセージは確かにうれしいし、励ましにもなる……だけど、それ以上に、返信をやり取りしていくうちに、たとえ相手に悪気がなかったとしても、もし話が私の〝秘密〟の方向へと流れてしまったとしたら……それを考えてしまうと、どうしても私にはそのメッセージに返信するだけの勇気が持てなかったのだ。
……だけど、そんな中でもたった一人だけ、〝直接会って話す〟ことができる人がいた。
――〝桜花〟だ。小さい頃からの、私の一番の友だち……〝親友〟の〝桜花〟。
桜花はあんなことがあった後にも関わらず、まるでいつもと変わらない様子で普通に私のウチに遊びにきて、それで学校であった他愛もないできごとを……笑うのが大の苦手で、いつも桜花のお父さんに、『相変わらず、お前は女の子のくせに無愛想だな』と逆に笑われているのに……引きつった笑顔ながらも、さも楽しそうに話してくれたのだ。
さらに、その手に持ったカバンからは……私が休んだ分の授業のノート。それから宿題のプリントに、行事のお知らせ……本当に、まるでただ私が、風邪で休んだから、と、お見舞いにきてくれただけみたいだった。
……でも……そんな桜花の優しさを見て、感じて……〝親友〟だからこそ、私には、はっきり、と……〝わかってしまうこと〟があった。
それは――〝依然として状況は変わっていない〟――ということ。
もし状況が少しでも私にとって〝良い方向〟に進んだのなら……桜花は絶対に、私にそれを〝報告する〟……確信を持ってそう言える私にとって、桜花が何も言わないということはつまり、間違いなくそういうことを意味していたのだ。
――当たり前か。……と、それを知って、思った。
誰もが思っていること……〝自業自得〟。――知られるのが怖いくせに、その行為をやめることもできず、どころか、バレたらどうしよう? などという心の矛盾に興奮し、後先も考えずに行為を続けていた私の、〝自己責任〟……。
…………そんなことは、当然、私にも……ううん。誰よりも、私自身が一番……痛いほどにわかっていた。
――だから、だ……私はずっと〝後悔〟していた。
……自分の行為に? 違う。そんなことよりも、何よりも――
泰介さんに、〝あんなことを言ってしまった自分〟に…………。
……どうして、〝キライ〟……などと言ってしまったのだろう? 何もかも、全部自分が悪いだけのくせに。――あまつさえ、なんと私は、ずっと、悪くもない泰介さんのことを、ずっと……〝許すことができない気持ち〟でいるのだ。
なぜそんなことを思ってしまっているのか? ……それは、自分でも全くわからなかった。
そのせい……なのかもしれない。私は、桜花に……聞けば、たぶん渋りはするだろうけれど、絶対に正直に話してくれるであろう桜花に対しても、私は〝聞くことができなかった〟のだ。
〝泰介さんのこと〟を…………。
……。
…………。
………………。
……………………バカだ、私……。
頬を、涙が伝った。
私はそれを必死に手で拭いながら、心の中で何度も自分を罵った。
……バカだ。……どうしようもない、バカだ。……救いようのない……バカだ……。
……もう、どうしたらいいか……わからないよ…………。




