6-10
――昼休みの屋上。
ボクとお姉ちゃん以外、誰の姿も見えなかったその場所で、お姉ちゃんは持ってきた黄色い花柄のシートを広げ、そこに座るようボクを誘導した。
それから自身もボクの目の前に座り、袋から色々取り出しながら話す。
「はい、たいちゃん。――お姉ちゃんはたいちゃんみたいにお料理はできないから、全部コンビニで売ってたやつだけど……サンドイッチに、おにぎりに……あ、ほらこれ! たいちゃんの好きなハンバーグのお弁当も買ってきたんだ! ……って、ちょっと買いすぎちゃったかな? あはは……」
「…………」
「う……あの……ほ、ほら! たいちゃん……あーんして、あーん❤」
「……いらない」
「……え?」
ギリリ……ボクのことを想い、必死に励まそうとしてくれているお姉ちゃんにすらそんな態度を取ってしまう自分にイラ立ちを覚えながら……しかしそれでも、ボクはもう一度はっきりと言い放った。
「……ごめん、お姉ちゃん……せっかく買ってきてくれたのに……でも、ごめん。ボク、今はとてもじゃないけど、ご飯なんか食べたい気分じゃないんだ……」
「き、気分じゃないって……だ! ダメだよたいちゃん! そんなこと言って、このところずっと、まともにゴハン食べてないじゃない! このままじゃたいちゃん……〝死んじゃう〟よ……っ!」
……〝死んじゃう〟……か…………。
お姉ちゃんのその言葉を、心の中で繰り返してから……ボクはゆっくりと、呟くようにお姉ちゃんに聞いた。
「……ねぇ、お姉ちゃん……? 実際、本当にボクが〝死んだら〟……〝いなくなった〟としたら……愛梨さんはボクのこと……〝許してくれる〟かな……?」
「――っ!? たいちゃん、何を!?」
ぽた……ぽた……ぽた……。
……いつの間にか流れ出していた涙をそのままに、ボクは続けて話した。
「ボク……分かんないんだ……どうしたらいいのか、全然……思い、つかないんだ……だから、それなら……いっそ……!!」
「――たいちゃんっっ!!」
ガバアッ! ――お姉ちゃんはボクに覆いかぶさるように、必死に、ボクのことを抱き締めながら……ボクと同じように涙を流しながら、叫んだ。
「そんなこと……! そんなことをしたら、お姉ちゃんが絶対許さないから!! ううん! その前にお姉ちゃんが絶対、そんなことさせない! お姉ちゃんが代わりに死んででも、絶対にたいちゃんのことを止めてみせる……!!!」
「お姉ちゃん…………でも、じゃあ……それならボクは、どうすれば……?」
「……………………」
長い沈黙……だけどお姉ちゃんは、ぎゅっ、とボクのことをしっかりと抱き締めながらも、ボクの問いに答えた。
「……ぐす……おねえ、ちゃん、にも……わかんない…………だけど、そんなに悩んでるのなら……もう全部、何もかも……〝忘れ〟ちゃお?」
「……え?」
今……何て……?
聞き返す前に、お姉ちゃんは続けた。
「――そ、そうだよ! もう全部、何もかも〝忘れ〟ちゃえばいいんだ! だって……そうでしょ? たいちゃんが今回のことをどう思っていたとしても、実際にはたいちゃん、何も悪いことはしていないんだもの! ……確かに、たまたま……そう、〝たまたま知った〟愛梨ちゃんの〝秘密〟を、今回はみんなに知られてしまったけど……でも……もし、だよ? もしも最初に〝秘密を知った〟のがたいちゃんじゃなくて、あの〝長山〟っていう悪い子だったとしたら? そうしたら愛梨ちゃん、今頃どうなっていたと思う? たぶん……ううん、絶対に、〝今よりひどいこと〟になっていたと思うの! ……遅かれ早かれ、そんなことをしている時点で愛梨ちゃんはこうなる〝運命〟だったんだよ! だから、たいちゃんがそんなことで悩むのはおかしい……絶対におかしいよ!!」
「……お姉ちゃん…………」
…………。
……そう……かも、しれない…………。
「……え? たい…ちゃん……???」
聞き返してきたお姉ちゃんの耳元で、ボクは……呟いた。
「……分かったよ、お姉ちゃん……ボク、〝忘れる〟。……何もかも〝忘れて〟、それでまた一から…………」
「! たいちゃん……!! ……うん! そうだよ! たいちゃんはこんなにも……こんなにもがんばったんだもの! たいちゃんは何にも悪くないよ! だから、誰もたいちゃんのことを責めたりなんかしない! ……それに、もしまたあの長山っていう子にイジメられても、お姉ちゃんが守ってあげる! 必ず、守ってあげるから……!!」
「……うん……ありがと、お姉ちゃん……」
――でも……。
……ボクは、お姉ちゃんの肩に手を当て、その顔がしっかりと見えるようにお姉ちゃんのことを引き離してから、はっきりと言い放った。
「だけど、お姉ちゃん……お姉ちゃんは、〝何もしないで〟。今回のことは、ボクが自分一人だけで解決するから。……そうしないと、ボクは……もう自分一人では、何もできなくなっちゃう……そんな気がするから…………」
「…………そう。――うん。分かったよ。お姉ちゃんはたいちゃんのことを信じてる……だから、約束する。お姉ちゃんはたいちゃんのことを信じて、〝何もしない〟。……あ、でも、応援くらいは……してもいい……よね?」
「……うん。ありがと、お姉ちゃん。ボク、がんばるよ。がんばって、そしてまた――」




