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――四月一九日、金曜日。
始発の電車に乗ってきたために、まだ誰一人として登校してきていない、朝一の無人の教室。
……もしかしたら、今日は登校してくるかもしれない。
そんな、自分勝手な、都合のいい考えを歯で噛み潰しながら、ボクは一昨日から何一つ変わってはいないその席の隣で、愛梨さんのことを待ち続けた。
――四月二十日、土曜日。
休日の学校……部活をやっている生徒の声以外、何も聞こえてこない静かな教室。
連日の休み……もしかしたら、休みの今日なら、忘れたカバンを取りにくるかもしれない。
そんな、可能性の低い……微かな希望を胸に、ボクはお昼すぎにお姉ちゃんが迎えにくるその時まで、自分の席に座って愛梨さんのことを待ち続けた。
――四月二十一日、日曜日。
「――もし、今日愛梨ちゃんに会えたとして……それで、どうするの……?」
また始発の電車に乗って学校に向かおうとしたボクの背中から、お姉ちゃんはそう問いかけてきた。
「……分からない」
……ボクはそう呟いてから、お姉ちゃんの質問に答えた。
「……分からない…けど、ボクは愛梨さんの家がどこにあるのか知らないから……それを愛梨さんの友だちや、鏡さんに聞いたところで絶対に教えてはくれないだろうし、教えてくれそうな甲呀とも……動画のことで一生懸命動いてくれてるせいか、連絡がついていない状況だから……学校でしか、ボクは愛梨さんのことを待つことができないんだ。……だから、ごめん。ボク……行くよ。ほんの少しでも愛梨さんに会える確率があるのなら……会って、とにかくもう一度だけ、話したいんだ……」
「……たいちゃん…………」
――四月二十二日、月曜日。
週明けの今日なら、もしかしたら……。
そんなことを考えながら、ボクはまた、誰もいない朝一の教室で愛梨さんのことを待っていると……そこに、お姉ちゃんが何かの袋を手に現れた。
お姉ちゃんはその袋を持ち上げて見せ、ニコリ、と控えめな、ぎこちない笑顔を作り、ボクに向かって話した。
「たいちゃん。もう〝お昼〟だよ? いっしょにお弁当……食べよ?」




