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 ズドォオオッッ!!!!!


 その時だった。教室の入り口……そこから現れたのは、漆黒のオーラに身を包んだ、お姉ちゃんの姿だった。

 お姉ちゃんは殴ってへこませた壁の中で思いっきり拳を握り締めながら、長山を睨みつけた。

 「お前が……お前がたいちゃんをイジメたのか……許さない……絶対に許さない……!!」

 うおっ!? 声を上げた長山は、急いでお姉ちゃんから距離を取る。

 「っとと! 姉の方がお出ましか! こいつはつえーとかそういうレベルじゃねーらしいし、何より常識が通用しないことで有名だからな……逃げた方がよさそうだ!」

 おいっ! と次の瞬間だった。長山が叫んだ。

 「他のヤツらも〝巻き()え〟くらいたくなかったら逃げとけ! こいつはリアルに人を殺しにくるぞ!」

 「「「「「!!?」」」」」

 刹那、クラス中から巻き起こったのは、〝悲鳴の連鎖〟……全員が全員、我先にと、お姉ちゃんが入ってきた入り口とは反対方向から逃げ出し始めたのだ。――長山はその中に身を隠し、流れに沿()って逃げる。

 「ッッ!? ま! 待て、このっ! ……逃がさないんだから!!」

 逃げ惑う大勢の生徒……すでに長山の姿を見失いつつも、お姉ちゃんはそれを慌てて追いかけようとする。

 だけど、ボクはそこに叫んだ。

 「――やめて、お姉ちゃん!!」

 ピタリ。お姉ちゃんの動きはすぐに止まった。

 しかし……今度はボクの方に向かってすぐに動き出す。

 「……たいちゃん! 何で止めるの!? たいちゃんは何も悪いことはしてないのに、このままじゃ、たいちゃんが……っっ!!」

 「……〝したよ〟…………」

 「……え?」

 聞き返してきたお姉ちゃんに、呟くようにボクは続ける。

 「ボクは……〝悪いことをした〟んだ……あいつが……長山が言っているようなことは何もしていないけど……ボクは、愛梨さんが絶対に知られたくないと思っている〝秘密〟を、みんなに知られてしまったんだ……だから、ボクは……」

 「……っ!! ち、違う! 絶対違う! そうじゃないよ! たいちゃんは悪くないよ! だって、それは――あの子の、愛梨ちゃんの〝自業自得〟じゃない! たいちゃんは愛梨ちゃんが勝手にやってたことを、知りたくもないのに知っちゃっただけなんでしょ!? そんなの、愛梨ちゃんが悪いだけだよ!」

 「……お姉ちゃん…………」

 それに! とお姉ちゃんは続ける。

 だけど、その言葉は……。

 「たいちゃん愛梨ちゃんとは友だちでも何でもない……ただの〝知り合い〟だよって、お姉ちゃんに言ってたじゃない! だったらもう、そんなどうでもいい子のことなんか……!!」

 「…………」

 ……ごめん。ボクは俯いたまま、お姉ちゃんに話す。

 「お姉ちゃん……ボク、実はお姉ちゃんに、……ウソ〟をついていたんだ。――お姉ちゃんは、ボクが他の人と楽しそうにしていると嫌な気持ちになる……それを知ってたから、ボクはお姉ちゃんを悲しませたくなくて、ずっと〝ウソ〟をついていたんだ。……本当はボク……愛梨さんがボクのことをどう思っていたのかは分からないけど……ボクは、愛梨さんのことを、ずっと〝友だち〟だと思っていたんだ。ずっと……ずっと……〝大切な友だち〟だと、思っていたんだ……」

 「た……たい…ちゃん…………」

 ……。

 ……。

 ……。

 「…………ねぇ、お姉ちゃん?」

 途切れた会話……ボクは、静かに聞いた。

 「ボク……どうすればいいのかな……? どうすれば……愛梨さんに……〝許して〟……もらえるのかなぁ……?」

 「……ッッ!! たいちゃん……!!」

 ぎゅっ……! ――誰もいなくなった教室。お姉ちゃんは、ただ、ずっと……何も言わず、ボクのことを強く抱き締めた。





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