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――四月一八日木曜日。教室。
『おはようございます、泰介さん♪』
……隣の席。
いつもならそう、元気にあいさつをしてくれるはずの愛梨さんが座っていない、カバンだけが静かに置かれていた席を見て、ボクは昨日から何度も、歯を噛みしめ、そして拳を握った。
【 この、〝露出狂〟が!!! 】
……誰が彫り込んだのか? 思い当たる人物はこのクラスには一人しかいなかったけれど、それを証明することもできなかったボクは、ただ……その所々〝赤黒く〟染められた〝文字〟を見て、同じように何度も、何度も……心の中で自分を怒鳴りつけた。
……なぜ…………なぜボクはいつもこうなんだ! こんなの、ただのおっちょこちょいで済まされるわけがないじゃないか! あんなにも〝秘密〟に対して強い〝恐怖心〟を抱いていた愛梨さんのことを知られてしまうだなんて……ボクはなんてバカなんだ!! ボクのバカ! バカ! バカ……ッッッ!!!
「はっ! だから言ったろ、〝変態〟!!」
その時だった。それを考えていたせいか、気づかないうちにボクの後ろに立っていたのは…………長、山…ッッ!!
「おっと! ははっ! コエーコエー! ……だけどよ~? 実際妙なことをやってたのは〝お前らの方〟だろ? 俺はそれを、〝たまたま知ってみんなに教えただけ〟なのに、何でお前は俺のことをそんなに睨みつけんだよ? お前だって、ホントはそのネタを使って小出といっしょに〝楽しいこと〟をしてたんだろ? ……悪いのは完全にお前の方じゃねーか」
「なに……をッッ!!!!!」
挑発……そんなことはボクにも分かっていた。長山はボクが怒る姿を見て、おもしろがっているのだ。――だけど、怒らないわけにはいかなかった!!
ガシィ! 次の瞬間、ボクは長山の胸ぐらを掴み上げ、そして――
「おっせーよ! バーカ!」
ドゴッ! 「ぐっ……!?」
長山を殴ろうと手を振りかぶった、その時。その手より先に、長山のひざがボクの脇腹に直撃した。痛みのあまり、ボクはその場に崩れ落ちてしまう。
「はっ! ケンカ慣れもしてねーようなザコが……あんまチョウシこいてんじゃねーぞボケ! テメーにはそうやってうずくまってる方が〝お似合い〟だぜ! あ、ちなみにこれ、セイトウボウエイってやつだからな? 殴りかかってきたのはお前からなんだから、そこんトコ間違えずによろしくぅ~♪」
「ぐぅ……くそ……くそぅっ……!!!」
……ボクは、何も言えなかった。
それは、痛みのせいではない……何も言い返せないのは、実際にボクは弱かったし、そして、何よりも〝変態〟だったからだ。
……こんな時、〝普通の人〟であれば、周りから「やめろ!」だの、「何をしているんだ!」とか、そういう声の一つがかかってもおかしくはない。
だけど……ボクの場合は、それが一切なかった。――逆に、〝自業自得〟。〝変態〟だから悪いんだ。……周りにいたクラスメートたちから浴びせられる冷たい視線からは、容易に、そう読み取ることができた。
それは……〝正しい〟。ボク自身、そう思ってしまった。
ボクが〝変態〟だから、みんなはボクのことを助けようとだなんて絶対に思わないし、
ボクが〝変態〟だから……あんなに優しい愛梨さんが、苦しむことになるんだ……。
「…………うぅ…ぐぅうっぅ……うぅ……っっ!!!」
「……あ? え、何!? オメー〝泣いて〟んの!? ははは! 何それ! マジウケる!! ははははは!」




