表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/172

6-7




 ――四月一八日木曜日。教室。

 『おはようございます、泰介さん♪』

 ……隣の席。

 いつもならそう、元気にあいさつをしてくれるはずの愛梨さんが座っていない、カバンだけが静かに置かれていた席を見て、ボクは昨日から何度も、歯を噛みしめ、そして拳を握った。


 【 この、〝露出狂〟が!!! 】


 ……誰が彫り込んだのか? 思い当たる人物はこのクラスには一人しかいなかったけれど、それを証明することもできなかったボクは、ただ……その所々〝赤黒く〟染められた〝文字〟を見て、同じように何度も、何度も……心の中で自分を怒鳴りつけた。

 ……なぜ…………なぜボクはいつもこうなんだ! こんなの、ただのおっちょこちょいで済まされるわけがないじゃないか! あんなにも〝秘密〟に対して強い〝恐怖心〟を抱いていた愛梨さんのことを知られてしまうだなんて……ボクはなんてバカなんだ!! ボクのバカ! バカ! バカ……ッッッ!!!

 「はっ! だから言ったろ、〝変態〟!!」

 その時だった。それを考えていたせいか、気づかないうちにボクの後ろに立っていたのは…………長、山…ッッ!!

 「おっと! ははっ! コエーコエー! ……だけどよ~? 実際妙なことをやってたのは〝お前らの方〟だろ? 俺はそれを、〝たまたま知ってみんなに教えただけ〟なのに、何でお前は俺のことをそんなに睨みつけんだよ? お前だって、ホントはそのネタを使って小出といっしょに〝楽しいこと〟をしてたんだろ? ……悪いのは完全にお前の方じゃねーか」

 「なに……をッッ!!!!!」

 挑発……そんなことはボクにも分かっていた。長山はボクが怒る姿を見て、おもしろがっているのだ。――だけど、怒らないわけにはいかなかった!!

 ガシィ! 次の瞬間、ボクは長山の胸ぐらを掴み上げ、そして――

 「おっせーよ! バーカ!」

 ドゴッ! 「ぐっ……!?」

 長山を殴ろうと手を振りかぶった、その時。その手より先に、長山のひざがボクの脇腹に直撃した。痛みのあまり、ボクはその場に崩れ落ちてしまう。

 「はっ! ケンカ慣れもしてねーようなザコが……あんまチョウシこいてんじゃねーぞボケ! テメーにはそうやってうずくまってる方が〝お似合い〟だぜ! あ、ちなみにこれ、セイトウボウエイってやつだからな? 殴りかかってきたのはお前からなんだから、そこんトコ間違えずによろしくぅ~♪」

 「ぐぅ……くそ……くそぅっ……!!!」

 ……ボクは、何も言えなかった。

 それは、痛みのせいではない……何も言い返せないのは、実際にボクは弱かったし、そして、何よりも〝変態〟だったからだ。

 ……こんな時、〝普通の人〟であれば、周りから「やめろ!」だの、「何をしているんだ!」とか、そういう声の一つがかかってもおかしくはない。

 だけど……ボクの場合は、それが一切なかった。――逆に、〝自業自得〟。〝変態〟だから悪いんだ。……周りにいたクラスメートたちから浴びせられる冷たい視線からは、容易に、そう読み取ることができた。

 それは……〝正しい〟。ボク自身、そう思ってしまった。

 ボクが〝変態〟だから、みんなはボクのことを助けようとだなんて絶対に思わないし、

 ボクが〝変態〟だから……あんなに優しい愛梨さんが、苦しむことになるんだ……。

 「…………うぅ…ぐぅうっぅ……うぅ……っっ!!!」

 「……あ? え、何!? オメー〝泣いて〟んの!? ははは! 何それ! マジウケる!! ははははは!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ