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……。
……。
……。
「……………………え?」
長い沈黙……それを破ったのは、愛梨さんだった。
愛梨さんはそのまま、困惑したような口調でボクに聞いた。
「あ……え??? 泰介さん……え??? それは、いったい……???」
「――こいつ、愛梨の〝秘密〟を撮った〝動画〟を、〝消してなかった〟んだとよ」
それに答えたのは、鏡さんだった。
鏡さんはそれから、ゆっくりと歩き、ボクのすぐ隣で足を止めて、事の成り行きを愛梨さんに説明した。
「……あたしも動画サイトに上がってたやつを見て確認したから間違いねぇんだが……愛梨、お前こいつと出会った時のこと、いつだかあたしに話したことがあったろ? 〝秘密〟を見られた、ってさ? ――こいつその時、まさかお前がそんなことをしているとは知らずに……何かヤバイ薬の取り引きでもしてんじゃねーか? とか思ったらしくてな? 証拠を残すためにスマホを使って〝動画〟を撮ってやがったんだ。……こいつ自身はそれを消した気にはなっていたようだが、実際は全く消されてなくてな。それで昨日……ほら、部活をしてた時だ。こいつ、女子にやられてスマホを窓から捨てられたことがあったろ? その時に運悪く〝長山〟っていう〝タチの悪い〟やつにスマホを拾われたらしくて……画面も開かれたままだったということもあって、簡単に〝動画〟を奪われ、それで一気に学校中に〝拡散〟させられた……というわけだ」
「ど、〝動画〟!? ……〝拡散〟!!? ――た、泰介さん! そ、それって……本当のこと……なん、ですか…………?」
「……っっ!!」
……ボクは、答えられなかった。愛梨さんのその声は震え、今にも泣き出してしまいそうだったからだ。
「……本当だ、アイリサン」
だけど、甲呀が、そんな情けないボクの代わりに答えてくれた。
……しかし、それはボクを〝助ける〟ためなんかでは、決してなかった。
甲呀は伝えなければならないその〝事実〟を、ただ正確に、何も答えられないボクに代わって愛梨さんに話したのだ。
「……現在はこれ以上動画サイトに投稿できないよう、里の者たちに協力を仰いでそれを阻止している状況ではあるが……何ぶん〝知った〟人間が多すぎた。――俺が今朝調査を行ったところ、最初はほんの〝数名〟……長山の知り合いだった生徒が、直接長山から送られてきたその動画を受け取って観ただけだったようだが……知ってしまった〝秘密〟は誰かに話したい、というのが〝人間の性〟だ。知ったその生徒たちは、そこからさらに知り合いへと動画を送り、見せ、ものの数分で遂には学校中にそれが行き渡ってしまったらしい。……これは言い訳になるが……それを広まった後で知った俺たちには、もうどうすることもできなかったんだ……すまん」
「そん…な……!! ――た、泰介さん!」
ぐいっ! ――愛梨さんは突然、ボクの肩を持ち上げ、ボクに正面を向かせた。
瞬間、見えたのは……今にも泣き出しそうな、愛梨さんの悲しみに満ちた表情だった。
「答えてください、泰介さん!」
愛梨さんはそんな表情のまま、まるですがるように、ボクに聞いた。
「〝冗談〟……ですよね? 全部、何もかも〝冗談〟……そう言ってください! 泰介さんがそう言ってくれるのなら、私……私……っっ!!」
「あ……あい…り、さん…………」
だけど、ボクは……
「――ごめん」
そう、答えることしかできなかった。
ボクはそれから、遂には大粒の涙が零れ落ち始めてしまった愛梨さんに向かって、何度も、何度も、謝った。
「……ごめん……ごめんね、愛梨さん……ごめん……全部、ボクのせいだ……愛梨さんがどれほど愛梨さん自身の〝秘密〟を他人に知られたくないか、それをちゃんと知っていたはずなのに、ボクは……ッッ!!」




