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            【視点・愛梨→〝泰介〟】


 「――ッッ!!? 愛梨さん!? どうしたの、その〝手〟は!!?」

 ――屋上。

 お姉ちゃんを除く、部活のメンバー……鏡さん、ゆりちゃん先生といっしょに、その場所で愛梨さんがくるのを待っていたボクは、瞬間、甲呀に肩を支えられながら現れたその姿を……巻かれた布越しにもはっきりと分かるほど、多量の血がにじんだその右手を見て、思わず声を上げた。

 「安心しろ、泰介……」

 と、甲呀がそれを説明した。

 「これはアイリサンが自分でやったものだ。血こそ多く出てはいるが、爪が剥がれてしまっただけだ。時間が経てば治る」

 「つ、爪が剥がれただけって……ッッ!! 十分重傷じゃないか!!」

 答えた甲呀に向かってボクはそう叫んだけれど……しかし甲呀は真っ直ぐにボクの眼を見つめたまま、微動だにしない。

 うくっ! と、ボクは見慣れているはずのその鋭い眼光に怯み、よろり、と後ずさった。

 ……分かっている。ボクにはもう、そんなことを気にしている余裕すらありはしなかったのだ。――愛梨さんに〝伝えなければならない事実〟がある……それが分かっているからこそ、ボクは……弱いボクの心は、文字どおり逃げる口実を探してしまっていたのである。

 「……ごめん」そう呟いて、ボクは一度、後ろにいた鏡さんとゆりちゃん先生の表情を肩越しに確認し、頷いたのを確認してから、改めて真っ直ぐに愛梨さんの方をしっかりと見つめて、言い放った。

 「――愛梨さん。ボクはキミに……キミに、〝謝らなくてはならないこと〟があるんだ」

 「…………あや……ま、る……?」

 力なく答えた愛梨さん……たぶん、いや、絶対に、教室で何かがあったのだろう。学校に着いてあの掲示板を見せられた後、すぐに甲呀にこの場所に連れてこられたボクには、それがいったいどういったものだったのかは想像もつかなかったけれど……しかし、普段あんなにも元気で明るい愛梨さんがこんな状態になるだなんて……〝相当のできごと〟だったに違いない。

 それを見た――瞬間だった。ボクは考える前に地面に両手両ひざを擦りつけ、額を……それこそケガをしてしまうことも気にせずに、コンクリートの床にそれを叩きつけた。

 「――っ!? 泰介さん!?!」

 〝土下座〟……ボクのその行為を見て、愛梨さんは声を上げた。それからすぐに甲呀の手から抜け出し、ボクの目の前でひざをつく。

 ……優しい愛梨さんのことだ。おそらく、自分がひどい目にあったのにも関わらず、目の前にいるボクのことを心配してくれているんだろう。その証拠に……額を打ちつけているために表情こそ見ることはできなかったけれど、心配そうに愛梨さんは、

 「だいじょうぶですか、泰介さん!」

 と……何度もボクに向かって言葉を投げかけてくれたのだ。

 ……〝だから〟、だ。その言葉を聞いたボクは……正直、〝恐怖〟した。

 ――次のボクの言葉は、そんな優しい彼女の心を〝酷く傷つけてしまう〟ことになる……それがはっきりと、ボクには分かってしまっていたからだ。

 ……だけど、それでもボクは言わなければならない。

 ボクにはその義務が……いや、〝責任〟が、あったのだ。

 「愛梨さん、実は……」

 ボクは……言い放った。

 上げることのできない頭を、床に擦りつけたまま……。


 「〝ボク〟のせいなんだ……愛梨さんの〝秘密〟をみんなが知ってしまったのは、〝ボク〟のせいなんだ…………っっ!!」






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