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 ――それから、ボクたちは色々なことを話した。

 最初はボクの方からだ。

 ボクの言葉を聞いて、当然……「〝変態〟???」と首を傾げてしまった彼女に、とりあえずは、と、ボクは〝朝の一例〟……そう。あの、ボクが〝スカート〟を履いて登校してきてしまったことだ。そのことを話した。

 ――すると彼女は「あ! 朝の!!」……と、悲しくも当然そのことを知っていたらしく、信じられない、という顔をした。

 ……だけど、そのことがあって以来、ボクは周りのみんなから〝変態〟と呼ばれているということ。そして、あれはただ単に〝間違えて着てきてしまった〟と弁解しても、誰も聞く耳を持ってくれなかったということ。……そんなことを話したら、彼女も何か共感できることがあったのか、自然と、うん、うん、と頷き、真剣にボクの話に耳を傾けていた。

 ――そして、そんなボクの話が終わったら、今度は彼女の番だった。彼女は、ボクがボクの話をしてくれたお礼にと、自分から彼女自身の話を語り始めたのだ。

 自分の〝性癖〟というやつにいつ頃気がついたのか? いつから、こんなことをしているのか? ……プライベートなことが多いためここではその話は伏せるけど……とにかく、彼女も彼女で、今まで色々と苦労をしてきたらしい。

 ……まあ? 無論、そんなのボクの比じゃないけどね! とボクはついつい調子に乗って、今までにしてきてしまった〝武勇伝〟というやつを口を滑らせて話してしまったけれど……今思い返してみれば、むしろそれは話してよかった、とボクは思った。なぜなら、「え~? そんなことまでしたんですか~?」――と、この時初めて、彼女はボクに〝笑顔〟を見せてくれたのだ。

 口惜しくはその笑顔が、遂には日が完全に落ちてしまい、街灯だけの明かりになってしまったせいで、はっきりとは見えなかった、ということではあるけれど……まぁ、そんなことは些細なことだ。――どの道、最初から彼女の顔を見てる余裕なんて、ボクには全くなかったわけだしね?

 ……とまぁ、そんなこんなで夜が()けて……行っては困るので、「駅まで送るよ」とボクは、ちょうど話が切れた頃合いをを見計らって彼女に声をかけ、それに頷いた彼女と共に駅へと向かった。

 ――と、その入り口に着いた辺りで、彼女はボクに声をかけてきた。

 「……もう、ここでいいですよ?」

 「え? あ……うん……」

 ホントはボクも電車なんだけど……とは思ったけど、彼女はボクがわざわざ駅まで送ってくれたと思ったらしい。ボクは空気を読んで、その場で立ち止った。

 彼女は……数歩そこから進んで、そして、くるり、とそんなボクの方を振り返り、夜の静けさを邪魔しないように、静かに話した。

 「……えっと……今日は…その……〝ありがとうございました〟。色々話を聞いてもらっちゃって……おかげで、何だか心の中がスッキリしました」

 「え……いやいやいや、そんな……ボクはお礼を言われるようなことをした憶えは……」

 「ふふ、いいんですよ。私がそう思ったんですから……それにもう二人は色々〝知ってる〟仲なんですから――」

 ――はっ! 彼女は自分で言ったことに驚いて、ぶんぶん、と両手を顔の前で振った。

 「今のなし! 今のなしです! 忘れてください!」

 「え? あ……う、うん! おーけーおーけー……」

 一瞬、場に緊張(きんちょう)が走ったけれど……それも本当に一瞬のできごとだった。

 くすり、微笑んだ彼女は、それから、ペコリ、と小さく一礼した。

 「……じゃあ、これで……」

 「あ……うん。それじゃあ……」

 ……何だか……いや、全然そんなんじゃないんだろうけれど……これじゃあまるで〝恋人〟同士の別れ方だな、なんて思ってしまった。……ま、そういうことに縁がないボクだ。たまにはこういうのもいいだろう。

 バイバーイ、とは口に出さず、ボクは小さく手を振って、そんな彼女の後姿を見送っ――

 「――あ! そうだ!」

 ――と、突然彼女は立ち止り、またボクの方に振り返った。

 「……あの、その〝ジャージ〟……ウチの学校の、ですよね?」

 「え? ……あっ!!」

 そういえばボク、今ジャージ姿だった……と、今さらながらそれを思い出し、ボクはカッコ悪くて思わず赤面してしまった。

 だけど、それは暗闇のおかげか、彼女には気づかれなかったようだ。彼女はそのまま話した。

 「もし……もし、なんですけど、学校でまた私に会ったら、今日のことは気にせず、気軽に声をかけてくださいね? ――待ってますから!」

 「え? あ――ちょっ!」

 ――それじゃあ! ……そう言って、彼女はちょうどきた電車に乗るために、駅のホームへと消えて行ってしまった。

 ……よ、弱ったな? ボク……彼女の顔、ほとんど見てなかったのに……まぁ、何とかするしか……ないよね?

 そう思う他に手がなかったボクは、とりあえず、乗る予定だったその電車が走って行くのを仕方なく手を振って見送っ――

 「――あっ!! そういえば! ……って、もう無理か」

 ――気づいた頃にはすでに遅し。ボクは今一度、仕方なくその電車に手を振った。





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