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乖離戦国伝  作者: 藍上男
第2部 大陸への挑戦
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44話 名護屋城3

 再び、その頃の名護屋城。


 金剛秀国は、意外な人物と出会っていた。


「藤堂殿……。朝鮮におられたのでは?」


 羽柴秀長の元、第五軍として水軍を率いて朝鮮の地にいたはずの高虎と出会っていたのである。


「うむ。船を沈められてしまいましたからな。当面は、暫くはこちらで待機する事になりましてな」


「そうでしたか……」


 朝鮮水軍に率いていた水軍を沈められた、彼らは名護屋城に戻っていたのである。


「それに、亀井殿まで」


 見ると、高虎と同様に朝鮮水軍に自慢の船を海の藻屑とされた亀井茲矩までいる。


 その茲矩はやたらと怒っている。

 その理由を秀国は訊ねた。


「一体、どうされたのですか。亀井殿」


「いや、まあ……」


 と高虎が口を開けられた時、


「これが怒らずにはいられるか。某は琉球守を奪われたのでござるぞっ」


 茲矩が、唾を飛ばして怒鳴り散らした。


「琉球守?」


「ああ、それはですな……」


 高虎が、茲矩が琉球守を官位を得るに至った経緯を説明する。


「代わりに、秀吉様からは台州守の官位をいただいて納得はしたが、某は今でも心は琉球守でござる」


「はあ……」


 何と言うべきか分からず、秀国は適当に相槌をうつ。


「朝鮮の地にも、それを忘れない為に琉球守である事を証明する扇を持っていったのでござるが……」


 ここでいったん言葉を切り、憎々しげに吐き捨てた。


「その、琉球守の証を奪われたのでござる!」


「奪われた?」


「朝鮮水軍に襲われた際、持ち出す事ができずにな」


 高虎が横から言った。


「は、はあ。それは災難でござったな」


 秀国としてもそう言うほかない。


「何という屈辱……。この屈辱は百倍にして朝鮮水軍に返さねば気がすまない」


 茲矩は、怒りの為かぷるぷると震えている。


「そういえば、琉球で思い出したのだが……」


 これ以上この話題を続けては、面倒になると考えた秀国は話題を転じた。


「島津殿が、ようやく渡海されたそうでござるな」


「うむ。遅れに遅れての事でしたな」


 高虎も、茲矩にこれ以上付き合いきれないと考えたのかそれに乗ってきた。


「あそこもなかなか難儀な家でござるよ」


「そうでござろうな。後継者になるはずの、忠恒殿も森殿に負けず劣らず難儀な御方と聞きますし」


 島津家の当主である島津義久(龍伯)は既に56と高齢であり、実質的に今の島津を動かしている島津義弘もまた54と高齢だ。


 そして、島津家当主である島津龍伯に子はいない。

 いや、正確にいえばいるにはいるが女子ばかりである。

 そのため、義弘の子である忠恒に子を嫁がせて島津家の事実上の後継者にしようとしていた。


 それが、島津忠恒である。

 だが、この人物はかなりあくの強い人物だった。


「釜山に着いていきなり蹴鞠場を作ったとか。何とも、まあ個性の強い御方ですな」


 その忠恒が釜山に着いてまず、最初に手をつけた事が蹴鞠場を作る事だった。

 島津は、京文化を愛する者が多い。現在、九州征伐後は隠棲生活を送るようになった龍伯に代わり、事実上の当主としての仕事に励む義弘にそういった趣味はなかったのだが子の忠恒は違ったのだ。


 蹴鞠をこよなく愛する忠恒は、釜山に着くなり蹴鞠場の建築を指示。

 父のみならず他武将達を、唖然とさせた。


「それはそうと、金剛殿も渡海されるそうですな」


 ここで、高虎は話題を転じた。


「うむ。近いうちにな」


 秀国は答える。


「現状では名護屋城から釜山に行く航路ですら、安全が確保されているとは言い難いですぞ」


「釜山に渡海することすら、危険だと」


「うむ。その通りでござるよ」


 高虎が頷く。


「何、某の渡海予定はまだ当分先。それまでに、藤堂殿や亀井殿が朝鮮水軍を皆、海の底に沈めてくれればよい。期待しておりますぞ」


 そう言って秀国は、快活に笑った。


「いや、その前に朝鮮水軍は壊滅しておるかもしれませんぞ」


 ふふ、と高虎は笑う。


「上様は今、直属の秘密艦隊を用意しておるようでしてな。我らが、渡海する前にその秘密艦隊が朝鮮水軍を沈めてしまうかもしれませんぞ」


「そのようなものが……」


 秀国にとっても初耳であり、驚く。


「しかし、そうなれば私の復仇戦の機会が……」


 茲矩の顔には、不満の色が強く浮かんでいる。


「まあまあ、亀井殿。まだ戦いは続くのだ。仮に朝鮮水軍が殲滅されても、貴殿の活躍の機会はまた来よう」


「そうだとよろしいのだが……」


「ところで」


 ここで、秀国は話柄を転じた。


「朝鮮の地は、思いの他統治に手こずっておる様子ですな」


「む……そうですな」


 高虎が、苦々しげな顔をする。


「かの地では、あまり街道も整備されておらず行軍にすら苦戦するありさま。それに食糧を持って逃げ出した村もあったせいで、兵糧の調達にすら苦しんでおります。今のところは、九州からの補給で何とかなっておりますが、朝鮮水軍の妨害が続くとなると」


「苦戦は免れませんか」


「はい。そうですな」


「それだけではありませんぞ」


 茲矩が口を挟んだ。


「義勇兵を名乗る反徒共に活動が活発になったせいで、各地に点在する軍の連携が難しくなっております。そのため、指揮系統に乱れが生じております」


 義勇兵を名乗る民衆達の妨害活動によって、各地を行き来する武器や兵糧の輸送が困難になっていた。

 だが、各地に送られる指令書を持った者まで襲われるようになっていたのだ。

 そのため、各地を平定する織田軍は、他の者が担当する箇所の現状を正確に把握するのが難しくなっていた。


「そうなのですか……」


 秀国の顔が歪んだ。

 どうやら、思った以上に深刻な状態らしい。


「上様の渡海で、その乱れも立て直す事ができればよいのですが……」


「あまりにも進軍が確実にいったゆえ、戦線を広げすぎたのも原因としては大きいですがな」


「ここでなんとか、立て直す必要がありますな」


 そう言って三人は頷きあった。


 順調に見えた、朝鮮征伐にも少しずつではあるが綻びが見えてきた。

 だが、彼らの関心は完全に朝鮮の方に向けられてしまっており、別の場所でも大きな火種が燻っている事に気づく事ができなかった。


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