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乖離戦国伝  作者: 藍上男
第5部 天下安寧への道
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249話 最終決戦11

またもや遅くなって申し訳ありません。

完結までの道筋は決まっておりますので、最後まで応援していだければ幸いです。

 伊丹城の一室。


 未だ深夜というのに、武将達が集いはじめていた。

 駿河から、急遽届いた情報を受けての緊急招集だった。


 ――富士川合戦で、江戸幕府が駿府幕府に勝利。


 小姓によって、燭台に火が灯される。

 そんな中、次々と西国大名が集まり始める。


 だが、ここに目付として送られてきた土井利勝の姿はない。


 旧豊臣系列が多いこともあり中心としているのは、豊臣秀頼である。


「島津殿や細川殿は?」


「まだ戻ってはおらん」


 誰かが訊ねると、秀頼が答える。

 金剛秀国、細川忠興、島津忠恒、鍋島勝茂といった大名は、この場にいない。

 紀伊の浅野支援に向かうといって、伊丹城を出ていっており戻ってこないままだった。

 それを留めるだけの力を持つ者は、この伊丹城にいない。


 豊臣家直属の家臣達を除けば毛利秀就、小早川秀秋、加藤忠広らといった大名が集っているのみだった。


「はじめてくれ」


 秀頼の言葉に、皆が頷く。

 まず口を開いたのは、秀頼の傍らにいた石田三成である。


「富士川合戦において、駿府方は敗れた。犠牲者は多く、逃亡兵も続出。今は、駿府城に籠っているらしい」


 場がざわめいた。


「とすると、この戦いは……」


「いや、まだ分かりますまい」


「どうかな。もう終わりじゃろ、駿府方は」


 などと武将達は、勝手な雑談が始まってしまう。


「静粛に!」


 それを沈めてから、三成は続ける。


「各々方、この情報を元に我らは行動を決めるべきかと」


「伊達政宗に従うべきだと?」


 小早川秀秋が訊ねた。


「……現状、江戸方が勝つ可能性が高いかと」


 三成はその問いに、直接答えることはなかった。


「各々方のところにも届いていよう」


 その言葉に、場が再びざわめく。

 実は、豊臣秀頼のみならず、西国大名の多くに伊達政宗から誘いの手が伸びていたのだ。

 しかし、彼らはそれに答える事はなかった。

 逆にそれを土井利勝に届ける事もなく、日和見を続けていた。


 駿府方に肩入れする気はないが、江戸方や伊達政宗に味方する気もない。そんな者たちが多く集っていたのだ。


 しかし、こうなったからには話は別だった。


「今すぐにでも、伊達政宗に味方すべきだというのか」


 秀頼の言葉に、三成が頷く。


「はい。政宗も決して好ましい相手とはいえませんが、こうなった以上は……」


「毛利殿はどう思われる?」


 ここで、秀頼は直接答える事なく毛利秀就に問うた。


「そうですな……」


 秀就は、安芸・長門・周防の三カ国を領する大大名ではあるが、輝元が歳をとってからの子という事もあり、まだ若く実権は父である輝元にある。

 経験も乏しい。

 だが、松平秀康の娘であり、今は駿府方に身柄を拘束されている松平忠直の腹違いの妹を正室として迎えている。

 心情的には、政宗寄りだった。


「毛利家としては、それでも問題ないかと思われるが……」


 それでも、消極的ながら政宗や家光につくべきと意見を述べた。

 そのせいか、江戸方に加勢すべし、という意見が強く占められるようになってきた。


「……他には」


 秀頼が、視線を動かす。

 だが、大半は意見を出し尽くした様子だ。


 なかなか決定的な意見は出てこない。


「やはり、島津殿や細川殿らの動きによっても変わってきますし……」


 誰かが呟くように言った。

 この場にいない大名達もまた、懸念材料でもあった。

 どう動くか分からない。


 紀伊の浅野家。それに、大和の織田家。今は、常真と名乗っているかつての織田信雄なども領国に留まったままだった。


 そんな中、三成が言う。


「しかし、早いうちに行動にうつさないと大坂城の織田秀信が何かしらの動きを見せはじめるかもしれん」


「あいや、またれよ」


 だが、ここで大野治長がそれを止めた。


「何か?」


「石田殿は知らなかったのか。もっとも、某のところにこの報告が届いたのもつい先ほどだから無理もないが」


「何かあったのですか?」


 三成の言葉に治長は答える。


「いや、大坂の方に放った間者から報告があった。この件でも議論すべしと思っておったのだが」


「何か大坂で変事でも?」


「うむ。出陣の準備をはじたらしい」


「何?」


 武将達がざわめく。

 治永は、そんな中、言った。


「おそらく、明朝にでもどこかに兵を向けるつもりだろうと報告がきておる」


「兵を向けるといっても、まさかここに?」


 一応はこの伊丹城に残った者達も、大坂城を攻めていたのだ。

 誰かの発言に三成が反論する。


「ありえぬでしょう。無謀すぎますぞ」


 大坂城には、今では2万数千の兵しか残っていない。

 留守兵も残す必要がある以上、出兵できるのはせいぜいが2万。あるいは1万数千といったところだろう。


「仮に、秀信が兵を動かそうとしても周囲が止めるでしょうな」


「すると、秀信の意向だけでなく、周囲の家臣連中も同意しているという事か?」


「すると、どちらに味方する気なのだ?」


「この状況で、駿府方に味方するとは思えんし……」


「いや、富士川合戦の結果を知らないのではないか?」


 武将達は、再び議論をはじめるも、結論は出ない。

 結局のところ、


「現状、結論は出せない。だが、いつでも出陣できるよう準備はしておくように」


 との結論で話は締められたのだった。







 大坂城から、1万7000の兵が京へと向かっていく。

 しかも、今回は織田秀信が総大将として出立している。


 これにより、大坂城に残った兵は1万を割った。

 いかに大坂城といえども、伊丹城の軍勢だけでも攻め落とす事も決して不可能でない数だ。

 いかに、これまで沈黙を続けてきたとはいえ、危険な判断。


 だが、それでも秀信は決断した。

 決断させたといった方が正しい。

 明石全登や高山重友によって、内藤如安を通じての工作が実った結果だった。


 ……おそらく、西国大名の連中は動かん。


 大坂城へと、西国大名が動いたら危険ではある。

 だが、如安は冷静に判断していた。

 ここまで日和見を決め込んでいた西国大名達だ。

 既に、富士川合戦での駿府方の敗北は伝わっているはずであり、こんな状態で駿府方に着く可能性は極めて低いと考えていた。


 仮に大坂城の占拠に成功したとしても、その後にどうするのか。

 今回、明確に江戸方へと加勢する事を表明した大坂織田家の本城を落とすような真似をすれば、徳川家光、そして伊達政宗を敵に回す事になる。


 駿府方を滅ぼした後は、間違いなく豊臣秀頼ら西国大名らもまとめて滅ぼされる事になるだろう。


 それゆえに、大坂織田家の江戸方への参戦を強く推した。

 それは、織田家への忠誠心というわけではなく、例え思惑があっての事とはいえ、キリシタンの国を与えるという約定によってのものであり、高山重友や明石全登からの説得もあっての事である。


「上様」


 如安は秀信に声をかける。


「……何じゃ?」


 伊達方への参戦を決めさせたものの、どこか頼りないところは変わっていない。


「このまま、京にいる幕府勢を攻め落とす。方針に変わりはありませんな?」


「無論じゃ」


 秀信は答える。

 政宗は、大坂の軍勢に京都にいる幕府勢と対峙させる気でいた。

 それに答えての出陣である。


 ……さて、伊達政宗はどうする気なのか。


 政宗は秀信に対し、大坂城を含む現時点の織田領の安堵した上で、10万石を加増するといってきている。

 大勢が決してからの参戦であり、当初から政宗についた大名達への義理立てもあり、10万石ほどの加増というのは妥当といえば妥当ではある。

 だが、大坂城をそのまま秀信の城として残すのはかなり疑問だった。


 ……何かしら、理由をつけて取り上げる気か。


 やはり、そう予想してしまう。

 大坂城はやはり天下の名城であり、日の本にとっても要所だ。

 秀信に任せるのはもったいなく感じてしまっても、無理はない。


 だが、予想はついても口にはしなかった。

 元々の織田宗家の家臣というわけではない如安にそこまでの忠誠心は、残念なことにない。


 ……いや、どの道、ここで江戸方に従わなければこの御方も織田家も終わり、か。


 江戸方の勝利が確定し、再び大坂城に攻め寄せてきたとしたら、織田家は今度こそ終わり。

 将軍横死のような奇跡は、何度も続かない。


 駿府方が逆転勝利をしたとすれば、それもまた同様。

 先代将軍である秀忠の意思を引き継いでくるだろう。


 故に、もう勝てる可能性が高い江戸方について有利な条件を引き出す程度しかやれる事はない。

 忠誠心は低く、自身の思惑もあっての事とはいえ、その程度の義理立てはする気でいた。


「京には、京都所司代の板倉勝重の配下を中心に数千の兵が残っておりますが、我が軍の方が数も多い。近江の兵も、伊達秀宗の軍勢と睨みあったまま、容易な戦かと」


「うむ」


 秀信は頷く。


「早々に叩きのめしてやるとするか」


「いえ、我が軍もかつての幕府との闘いの痛手から立ち直っておりませぬ。ここは慎重に動くべきかと」


 諫めるように、如安が言う。


「……それもそうか」


 あれ以降、秀信は戦に対して妙に憶病になったり、逆に好戦的になったりと、精神的に不安定な状態が続いていたのだ。

 それゆえに、あっさりと受け入れた事に如安も安堵した。


 大坂の軍勢は、黒田如水や後藤基次らといった多くの名将を失った。

 元々、寄せ集めの軍勢ではあったが、かつてよりもさらにまとまりを欠いた軍勢となっている。

 ゆえに、この言葉も嘘ではなかった。


 だが、真意は他にある。

 政宗からの要請によれば、京にいる幕府勢を牽制してくれればよく、それ以上の事は望んでいないとの事だった。

 おそらく、最後の美味しいところは政宗や家光の手で持っていきたいのだろう――とは思っていたが、それは口にする事はなかった。


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[良い点] 一気に読みました 各武将の描写が色々と納得がいき楽しく読めました 豊臣秀次が特に良いと感じました
[気になる点] ――富士川合戦で、江戸幕府が駿府幕府に勝利。 源平合戦の故事のこともありますし、このエピは江戸幕府の完全勝利という布石でしょうか? ということはその後の家光の運命は 乗馬中アソコを強打…
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