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乖離戦国伝  作者: 藍上男
第5部 天下安寧への道
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246話 最終決戦8

 脇坂安治と、鍋島勝茂の部隊が、伊達軍をかき回す。


 小勢ではあるが、不意をついた形になったため、伊達勢は翻弄されていたのだが、何とか踏みとどまらんと伊達軍の侍大将が声を張り上げている。


「狼狽えるなっ」


 怒鳴りつけるような声と共に、何とか現場を維持しようとしている。


 脇坂兵が押し寄せる。


 ……思ったより、立ち直りが早いな。


 安治が内心で舌打ちする。

 このまま立ち直ってしまえば、数で勝る伊達軍が圧倒的に優位だ。

 完全に不意をついたが、敵陣に孤立している、脇坂・鍋島勢はそのまま殲滅されるのが可能性すらある。


 だが、だからこそ弱気になるわけにはいかない。

 気を抜けば、一気に劣勢となる。


「お前達、踏みとどまれ!」


 安治も既に若くない。

 だが、それでも身体を必死に動かし、兵達を鼓舞する。


 脇坂家は外様大名だ。

 元々、徳川家に忠誠を誓っていたわけではない。

 しかし、ここで政宗を討ち取るような手柄をあげれば、外様としては破格の地位を手にする事ができるだろう。

 そうすれば、家も安泰となる。


 そんな思いが伝わったのか、脇坂勢が勢いを取り戻したかのように、伊達勢を再び押し始める。


「いけーっ」


 将兵達が、勢いよく躍り込んでいく。

 伊達勢の陣形は崩れつつあるが、それでも完全ではない。


 特に、政宗の周囲は忠誠心の高い者で固められている。

 逃げ出す事もなく、必死に脇坂勢と戦っていた。


 一進一退の攻防が続く。

 乱戦となり、血が飛び交い、怒声が行き交う。


 安治も勝茂も自ら返り血を浴びながら、戦い続ける。


 そんな中、ようやく変化が訪れる。


 もし、ここで政宗が前戦にもう少し兵を出していれば、先に息切れしていたのは伊達軍の方だったかもしれない。

 だが、この本隊に兵を多めに残していたお陰で、脇坂・鍋島勢の方が先に勢いがなくなった。

 こうなれば、多勢の伊達勢が一気に攻める。


 小勢の脇坂・鍋島勢は途端に追い詰められていく。

 敵陣の中に孤立してしまい、次第にその数を減らす。


「続け! 怯えるなっ」


 そんな中でも、安治は必死に味方を鼓舞し、奮戦する。

 安治は朝鮮や関ケ原でも活躍しており、戦経験が豊富な貴重な武将だった。

 それだけに、この圧倒的な不利な状況でも挫ける事なく、戦い続けた。


 だが、兵達は徐々に減っていく。


 何とか乱戦に持ち込み、一人でも多くの敵を倒そうと配下の兵達も戦うが、こちらが何とか一人の敵を倒したところに、他の敵に討ち取られる。

 そんな光景があちこちで、起きた。


「やれっ」


 それでも、安治は動く。

 既に、安治の肩からも出血がある。

 だが、拭う余裕もない。


 伊達兵が槍を突き出す。


「くっ」


 安治は完全に交わしきれず、その脇をかすめた。

 片膝をつく安治に、追撃せんと伊達兵が動く。だが、脇坂兵がそれを防

いだ。


 ……まずいな。


 伊達勢は、混乱から立ち直り、脇坂・鍋島勢を押し込んできている。


 安治は劣勢になった事を悟るも、逃げ出す事なく声を張り上げた。


「踏みとどまれ!」


 だが、必死に鼓舞しても脇坂・鍋島勢の勢いはさらに萎えていき、さらに伊達勢が勢いよく押し込み始めた。




 一方、留守勢と佐竹勢の戦いにも変化が訪れる。


 これまで押され気味だった留守宗利の部隊だが、ここでついに反撃に出たのだ。

 圧倒していた榊原・佐竹勢に疲れを見せて来たところに、いっせいに襲い掛かる。


 佐竹勢の旗指物が倒れ始める。


「何をしておるかっ」


 義宣の怒声が響く。


 失地回復を賭けての戦いなのだ。

 もし、二度と乱世が訪れなければ、格付けも決まってしまう。

 小大名としての地位に甘んじるしかないのだ。


「くそっ」


 苛立ちのあまり、歯を食いしばる。


 だが、敵勢の勢いに抗う事はできない。


「殿、ここはもう……」


 側近達は、撤退を提案する。

 しかし、義宣は聞く耳を持たない。


「ここが破られれば、全軍に伝播し、一気に崩れ去る! 何が何でも支えきれっ」


 幾度かの進言を退けていくが、その間にも戦況は悪化していく。


 名のある将の討ち死に報告が届き始める。

 そして、それはだんだんと広がっていき、ついには幹部級の武将にも被害が出た。


「渋江政光様が討ち取られましたっ」


 重臣である渋江政光の討ち死にを知らされ、さすがの義宣の顔も曇る。


「ぬ……」


 佐竹軍がさらに劣勢へと傾いたのだ。


「何とかせねば……」


「殿……」


 ここで、国分盛重が義宣へと近づく。

 相当な激戦だったらしく、全身が血で染まっている。ほとんどが返り血のようだが、自身の出血も含まれているらしい。

 その盛重の共達も同様だった。


「お気持ちは重々承知。ですが、これ以上の戦闘の継続は……」


「無理、か」


 悔し気に唇を歪める。


「……く」


 だが義宣もこうなっては、頷かざるをえない。


 こうして、榊原勢に続いて佐竹勢も崩れた。

 留守勢がさらに勢いづいていく。



「……そうか」


 榊原・佐竹勢を打ち破り、松倉重政を討ち取り、脇坂・鍋島勢による強襲部隊を壊滅寸前にまで追い詰めた。

 それらの報告を受け、伊達政宗はそれだけを呟く。


「福島正則殿の軍勢は、立花宗茂の軍勢と互角。松倉重政を討ち取った後も、寺沢広高の軍勢が支えようとしているようですが、それでも明石殿の優勢。上杉景勝の軍勢に、山岡殿の軍勢が押され気味であり、本多忠政に丹羽殿が苦戦しているようですが、全体としてはやはり我が軍が優位かと」


「うむ」


 各戦場から、伝令が駆けこんでくる。

 それらの報告をまとめあげる片倉重長に、政宗は再び満足そうに頷く。


 しかし、まだ何が起こるか分からない状況であり、喜ぶわけにはいかない。


 ……これは、いけるか。


 だが、それでも内心では高ぶる気持ちを抑えきれずにいた。

 この戦いで勝利すれば、江戸幕府方の優位に一気に傾く。天下人への夢が現実に近づいてきているのだ。


 ……いよいよ、か。


 政宗はつい、若い頃の事を思い出す。

 家督を相続したは良いが、その時には既に織田家による天下取りがほぼ決まっており、その時は頭を垂れ、織田政権下で生きる事を決意した。


 だが、朝鮮出兵、織田家の分裂などで順調に勢力を拡大させ、新たな天下人ととなった徳川政権下で外様としては筆頭の地位を築いた。

 そんな中で、事前準備はしてきたものの、松平忠直の暴発という幸運も手伝ってのこの戦い。

 その戦いも――終わりは近い。


 ごくり、と生唾を飲み込む。

 さすがの政宗も興奮を隠しきれない。


「殿」


 そんな中、重長が声をかけた。


「……その」


 言いづらそうな様子だ。

 何かまずい事でもあったのかと、政宗の顔色も変わる。


「どうした? 一体、何があったのだ」


「それが、松平忠輝様から使者が……」


「何だ、また婿殿か」


 政宗もさすがに呆れた様子になる。


「今度はどうしたのだ?」


「はい。敵は崩れつつある様子であり、一気に総攻撃をかけたい、と」


「婿殿はずっと後方に布陣しておったからな、結局これまでに手柄らしい手柄はないからの」


 政宗はふう、と一つ息をつく。


「どうされますか?」


「……今度ばかりは首を縦に振ってやるか」


「よろしいのですか?」


 重長が少し驚いた様子で言う。


「うむ。確かに、総攻撃をかけるのであれば悪くない。これ以上、我慢をさせて婿殿に暴発されても困るしの」


 す、と政宗は立ち上がる。

 そして、続けた。


「婿殿に伝えてこい。了承した、と。総攻撃をかけて一気に勝負をつける」







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