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乖離戦国伝  作者: 藍上男
第5部 天下安寧への道
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243話 最終決戦5

 江戸幕府方の先駆けとなったのは、留守宗利だ。

 駿府幕府方となるのは榊原康勝であり、この両者の部隊が最初にぶつかる事になった。


 富士川のこの時の水量では、渡河は可能であり、問題なく進んできた。


 合戦が始まると、康勝が優勢だった。

 凄まじい勢いで宗利の部隊を蹂躙していく。


「やれ、やれーっ! 皆殺しにしてしまえっ」


 康勝は叫び、自ら前線に立って戦場を駆けた。

 父譲りの勇猛さで、留守宗利の軍勢を圧倒していく。


 大坂の陣では、目立った活躍が出来なかったことに不満を感じており、ここで挽回する気らしい。

 その思いは家臣達にも伝播して、士気も高い。


 そんな中、留守宗利も応戦する。


 宗利の父である留守政景は、伊達輝宗の弟。

 つまり、宗利は主君である政宗にとって従兄弟にあたる存在だった。


 それゆえに伊達家の命運のかかったこの大戦での先駆けを任されたのだが、劣勢であり、押され気味だった。


「ふん。どいつもこいつも、他愛がない!」


 榊原康勝も、自ら槍を振う。

 たった今、餌食になった伊達兵が富士川に倒れる。


 何とか勢いを止めんとばかりに、さらに兵を投入して榊原の勢いを止めようとする。

 だが、それでもまだ押され気味なのだ。


 榊原康勝の軍勢の、怒声が聞こえる。

 留守宗利の軍勢の、悲鳴が聞こえる。


 それでも、何とか踏ん張り、戦線を維持し続けた。




 そんな中、次に激突がはじまったのは、最右翼にいる前田利長、丹羽長重らの率いる軍勢と池田輝政、仙石秀久らの軍勢だった。


 前田勢の鉄砲隊へと、池田勢が迫る。

 凄まじい勢いで迫る池田勢だが、前田勢は冷静に対処する。


「もう少し引きつけろ」


 あまり自分達が突出するわけにもいかない。

 利長ら前田勢は、勢いよく襲い掛かる敵の軍勢を抑え込む事にした。


 だが、犠牲者が出ても構う事なく池田勢は迫る。


「やれ、やれーっ」


 池田勢の指揮官が叫ぶ。


 輝政も自らが前線で指揮を執る。

 そして、輝政の家臣らも、奮戦する。


 迫る池田勢に、前田勢も落ちついて対処する。


 利長も戦経験は豊富だ。

 勢いのある池田勢を見ても、慌てる様子はない。


 一方の輝政も、前線に出ながらも冷静さを保っていた。


「いけっ」


 配下の兵達に指示を出す。

 兵達も、崩れる事はない。


 ……一進一退、といったところか。


 利長が、戦場の様子を見ながら、内心で呟く。

 大きく崩されているわけではないが、逆に敵勢を圧倒しているわけではない。


 前田は、かつて二度の大戦で負けた側の陣営に属した。

 しかしそれでも、しぶとく大名としての地位を保って生き残ってきた。


 ……今度ばかりはそうはいかん。


 しかし、今回は最初から伊達政宗の勝利に賭けていた。

 これまでの消極的な姿勢が嘘のように、江戸幕府方の主軸として活動してきた。

 勝利すれば、戦後は大きく報われるだろう。

 逆にいえば、負けた場合は責任を強く追及されるだろうが。


 ……まあ、万一の時は利常もおる。


 それでも、負けた場合に備え、前田利常には駿府幕府側につく事を表明させている。


 最悪の場合でも家名は途絶えないという安心感もあった。


 そんな状態のまま、池田勢と前田勢の互角の攻防が続いた。




 高山重友の軍勢が、前へと向かう。

 重友が表舞台に出て、兵を動かすのは久しぶりだ。

 重友配下の軍勢は一部旧臣も混じってはいるが、にわか部隊といってもいいような存在だ。

 だが、キリシタンの間で伝説的な存在となった重友の元、自分達の国を手にするのだと士気は高い。


「いけ、いけー!!」


 重友ほどではないにせよ、それなりの地位にいた武士達もかなりいる。戦経験も豊富であり、何より結束力が強い。


 異様な士気の高さのまま、松倉重政の軍勢とぶつかる。


 重政はかつて、関ケ原の戦いの際での小西行長との戦いで生じた因縁もあり、キリシタン大名に対しては好感を抱いていない。

 そのため、幕府の方針とは無関係に苛烈な弾圧も行っていた。


「何が切支丹の国じゃ! ふざけおってっ」


 唾を飛ばし、怒りの形相のまま指揮を執る。


 だが、高山重友配下の軍勢も簡単には崩れない。こちらの士気も高かった。


「殿の仇をとれ!」


 この重友配下のキリシタンには、かつての小西行長の旧臣が多数いる。

 行長の旧臣にとって、松倉重政は仇だった。

 また、キリシタンを相手に苛烈な弾圧をする当主として知られている事もあり、小西旧臣にとってまさに怨敵ともいえる存在ともいえた。


 恩賞以上に、信仰に生きる者達の結束の強さを見せる。そんな相手を、なかなか崩す事ができずにいた。




 立花宗茂の軍勢は、福島正則配下の軍勢とぶつかる事になった。


 どちらも戦経験が豊富な武将であり、兵の数も近い。互角の状態となった。


「やるな。さすがは、立花宗茂だ」


 正則の顔も真面目なものへと、なる。


 ……だが、そうも言ってられん。


 戦を楽しみに参加したわけでもなければ、忠誠心からの参戦でもない。


 ……伊達政宗には義理はないが、恩賞分の働きはせんとな。


 大御所である家康に、恩はある。

 秀忠からは疎まれてはいたが、子の家光や忠長に恩もなければ恨みもない。


「ならば存分に武威を示してくれる!」


 正則に天下人になろうという野心などない。

 だが、こうなった以上はできる限り名を高め、多くの領地を確保しした上で有力な外様大名としての地位を確立しようと考えていた。


 ……まあ、それ以外にも駿府方が勝たれると困る理由もあるがな。


 かつて、弟の高晴が家臣達との間で揉め事を起こした事があった。

 その際は、正則のこれまでの実績と家康からの情もあり不問とされた。

 大坂の陣の際にも、大坂織田家との内通疑惑をかけられたりもしたらしく、福島家の立ち位置には危ういものがあった。

 正則ら旧豊臣系の大名にも甘かった家康とは違い、秀忠は容赦がない男だった。


 ……あのまま、将軍の時代が続いていたら、むしろ危なかった。ならば、伊達政宗に福島家を高く買わせてやるだけだ。


 そんな思いが正則は強い。


「叛徒共を叩けっ」


 対する、宗茂も部下達を叱咤する。


 立花宗茂としても、大恩のある秀忠への忠誠心は高い。

 家光が政宗の方についているとはいえ、秀忠政権の正当な後継組織としての色合いの強い駿府幕府につくのは当然の成り行きだった。


 ……もしあの場にいれば、上様を救えたかもしれんのに。


 かつて、家康政権の側近との仲が良くなかった事もあり、新参でありながら秀忠の側近のようによく傍らにいた時期もある。


 その際であれば、秀忠の死を防げたかもしれないという思いもある。

 もっとも、秀忠が忠直に害された状況が状況なだけに、宗茂がいたところで防げたかは疑わしいが。


 それでも、宗茂にとって後悔の思いは強かった。


「上様の喪が明ける間すらなく、このような恥知らずな行いをする政宗とその与党を叩きのめしてくれるっ」


 その言葉と共に、立花勢は福島勢と激しくぶつかり続ける。



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