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乖離戦国伝  作者: 藍上男
第1部 天下人の誕生
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23話 四国征伐2

 阿波白地城。

 位置的には、阿波にあるが讃岐・伊予とも近い位置にあるこの城に、四国征伐軍の総大将を務める織田信雄は本陣を置いていた。

 織田軍の、四国征伐軍は順調に長宗我部の支城を落とし続けており、阿波・讃岐・伊予のほとんどをすでに制圧してしまった。

 次の目的地は、長宗我部の本拠ともいうべき土佐だ。三方面から大軍勢で土佐へと攻め込もうとしていた。


 そんな中、信雄の本陣に訪ねてくる者がいた。

 信雄の弟である織田信孝である。


 弟ではあるが、信雄の方が遅く生まれていたが母親の家格の差から、信雄が兄となったともされる。

 だが、どちらにせよ信雄の方が織田家での序列では上回る。

 そのため、信雄の口調も上から見た物言いだった。


「一体、何用だ?」


 しかも、見た事もない従者を伴っている。


「そちらは?」


「こちらは、私が新たに登用した者です」


 じっ、と信雄はその従者を見つめる。

 その従者は、顔面に白い布を巻いており顔がまるで見る事ができないのだ。


「以前、戦で顔面に大火傷をしてしまったらしいそうです。今は、声を出す事もできないそうです」


 この時代、顔や体に欠損があるものも珍しくない。

 指が全部揃っていないもの、片目が潰れているものなど多くの戦を乗り越えた武者達にはそのような傷があってもおかしくないのだ。


「まあ、そんな事はどうでもよいではありませんか」


 信孝は、信雄の従者への興味を強引に断ち切った。


「兄上の采配、見事というほかありませぬ。この分ならば、遠からぬ未来で四国平定はなる事でしょう」


「う、うむ……」


 信孝の真意が読めぬまま、信雄は頷く。

 元々、四国征伐を担当するはずだったのは信孝だ。その役割を奪われて憤っていると思っているだけにこの言葉は意外なのである。


「ですが、その為には我が軍にそれなりの犠牲を強いる事になるでしょう」


「そうは言っても、すでに四国の四ヶ国のうち、三ヶ国はすでに制圧しておる。残っているのは実質的に土佐一国のみなのだぞ」


「しかし、兄上。長宗我部は未だ2万ほどの兵を残しております。2万の軍勢が、決死の覚悟で立ち向かえば、こちらの被害も相当になりますぞ」


「む……」


 長宗我部は、当初4万の兵を動員していた。

 そのうちのおよそ3万を、各方面へと向かわせていたがこれまでの戦いで織田に討ち取られた者、寝返る者、逃亡する者などが続出した為に2万ほどの兵は失われ、土佐に帰る事ができたのは1万ほどだったのである。

 土佐に残っていた1万の兵を足しても、現時点での長宗我部の動員兵力は2万ほどだった。


 だが、決死の覚悟で立ち向かう相手というものは侮れない。

 信雄は、かつて行われた伊賀攻めの手痛い失態によりそれをよく学んでいた。


「それで、どうするというのじゃ」


「私に、お任せください」


「お前にか?」


 信雄は怪訝そうに目を細める。


「はっ。私にお任せいただければ、長宗我部を織田に下るよう説得してみせます」


「説得じゃと?」


「はい。土佐一国のみを安堵するといえば、長宗我部も無駄な抵抗はいたしますまい」


 開戦前、信忠は長宗我部が下るという場合は土佐一国のみならば安堵してもいいと指示が出ていた。

 あくまで抵抗する場合は、四ヶ国全てを滅ぼす気で戦えともいわれていたが。


「だが、一度はその条件で使者を送っておるのだぞ」


 以前、土佐一国を条件に下るように使者を送った事があったが相手にされる事なく追い返されていた。


「ですので、今回は私に交渉をお任せください。必ずや、期待に応えてみせましょう」


「うーむ……」


 じっと、信雄は弟を見つめる。

 その瞳からは、まるで真意は読み取れない。


「……兄上は、何と言っておるのじゃ」


 この場合の兄上は、信雄ではなく信忠の事だ。


「やれるならやれ、と。許可はすでに出ております」


「……左様か」


 嘆息したように、信雄は言う。


「では、やってみよ。駄目で元々じゃ」


「はっ……」


 信雄の言葉に頷き、信孝は土佐へと向かった。




 ――信孝が、一体いかなる交渉をしたのか。


 長宗我部が織田に下るという内容の書状を携えた使者と共に、信孝は帰ってきた。


「……これは、まことか?」


 すぐには信じられず、その書状を持ちながら信雄は震えた。


「はい。長宗我部は、土佐一国と家臣一同の助命を条件に織田に下ると言っております」


「……」


 信じられない。

 その思いが信雄を支配した。


 信孝に、それなりに軍事的才能はあるものの、こういった外交術に才能があるなどという話は聞いていない。

 にも関わらず、見事に交渉を成功させて見せた。


「一体、いかなる手を使ったのじゃ」


「いえ、誠心誠意、説得しただけでございますよ、兄上」


 言葉は丁重だが、顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 こんな簡単な事もできなかったのか、とでも言わんばかりな嘲りの色が強い。


「……」


 それに気づいた信雄は不快に思うが、同時に疑問にも思う。


 ……何故、このような傲慢な態度を取る人物が長宗我部を説得できたのだ。


 その疑問に関する答えは、この場で出る事はなかった。

 不快な気持ちはあったものの、長宗我部が下るというのならばそれを受け入れる気でいた。


 やがて、長宗我部から当主の元親が息子の信親を引き連れて、白地城に赴き、正式に臣下の礼を取った。

 そして、そのまま大坂城へと向かう事になった。


 大阪城で、改めて長宗我部は織田家への忠節を誓い、長宗我部は土佐一国の大名として存続を許される事になった。

 残り三ヵ国に関してはというと。

 信忠の裁定の結果、伊予半国は毛利輝元に。毛利領とならなかったもう半国は信忠直轄となった。羽柴秀吉は、阿波を加増。讃岐は丹羽長秀に与えられた。


 これで、四国征伐は完了し、四国の長宗我部も織田に下る事になったのである。

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