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乖離戦国伝  作者: 藍上男
第1部 天下人の誕生
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16話 関東征伐5

 信忠が小田原城を包囲するべく駿府城を発したのとほぼ同時期に、柴田勝家率いる北陸勢が上野方面へと侵攻。

 上野に存在する、北条の支城の攻略に移った。

 その上野方面軍にとって、最初の障害となったのは沼田城だった。


 守るのは、猪俣邦憲、真田昌幸ら北条勢2000だった。

 攻めるのは、柴田勝家、上杉景勝、前田利家、金森長近といった北陸の有力大名達。兵の数も数万。

 簡単に落ちると思われたが、意外にも抵抗は激しかった。


(うーむ……)


 柴田勝家が、悩むように顎に手を当てている。

 勝家は、「鬼柴田」の異名を持ち織田家に長く仕える猛将。

 当初、信長に当主の器にあらずと反旗を翻した事もあるが、信行謀殺後は信長の忠臣として仕え続けた。

 佐久間信盛失脚後は、名実ともに織田家の筆頭格となった家老である。

 越前の一向一揆討滅後は、越前の統治を任され、北陸方面の総司令官にまで任命された。

 数多くの武功を持つ人物だが、内政にも優れた人物であり、「越前国掟」などを制定するなどして、荒れ果てた状態となっていた越前を見事に統治してみせた。


 その勝家の読みでも、この沼田城の抵抗は予想以上なのである。


「何かいい案はないのか?」


「力攻めでは余計な犠牲が出ますしな。かといって、兵糧攻めでは時間がかかりすぎますな」


 発言をしたのは、「槍の又左」などの異名を持つ前田利家だ。

 こちらも、織田家では古参の部類に入る人物で、勝家の与力武将だ。

 信長の小姓として仕えるが、ある時に拾阿弥という信長の異母弟にあたる茶坊主を切り捨ててしまった事が原因で、一時は切腹寸前まで追いやられた。その後、柴田勝家の取り成しにより最悪の事態こそ避けられたものの、責任を取る形で出奔。

 が、浪人となってからも桶狭間合戦や美濃攻略などで武功をあげ、織田家への復帰を果たした。

 以後は、柴田勝家の与力として武功を重ね、北陸方面軍の重鎮としての地位を築いている。


 その利家の発言をきっかけに、金森長近や佐々成政といった面々も次々と口を開く。だが、なかなか有効と思われる策は出ない。


「うーむ……」


 軍議は膠着し、勝家は鬱屈そうな表情になる。

 織田軍幹部達の意見が出尽くしたのを、待ち構えていたかのように声があがる。


「一つ、よろしいでしょうか?」


「何かな、直江殿」


 発言の主は、下ったばかりの上杉景勝の臣・直江兼続だった。


「某に、一つ提案が」


「提案?」


「はい。内部の者を調略してはいかがでしょうか?」


「ほう、誰か心当たりでもあるのか?」


「はい。猪俣と共にこの城を守っている真田という武田の旧臣がいるのですが、北条家での処遇に不満があると聞いております。条件次第では乗ってくるかと」


「ふむ……」


 勝家はその提案を興味深そうに聞いている。


「なるほど。その真田とやらがこちら側につけば、間違いなく城は落ちるであろうな」


「はっ」


「おもしろい策だ。やってみよ」


 勝家は、猛将のイメージが強い人物だが、謀略も用いる。

 越前の一向一揆討滅の際には、巧みな策略で一揆の首謀者達を謀殺した事もあるのだ。


「はっ……」


 実は、本能寺の変の直後、武田の旧領を徳川・北条・上杉で草刈り場にしていた時に、兼続は昌幸と何度か書状のやり取りをしていた。

 状況次第では、上杉に寝返らせる機でいたのだ。

 結局、上杉は旧武田領から全面撤退する事になったものの、その後も二人の関係は続いていたのだ。


 そして、兼続の策が実行される事になる。




 実行は、それから三日後だった。

 にわかに沼田城の城内が騒がしくなる。


「何事だっ!」


 城の守りを任されている猪俣邦憲が叫んだ。


「そ、それが……」


 声をかけられた家臣が言いよどむ。


「ね、寝返りですっ!」


「寝返っただと? どこのどいつがだ!?」


「さ、真田ですっ! 真田昌幸が寝返りました。奴らの兵が、城門を……。すでに、二の丸にまで敵兵がなだれ込んできておりますっ!」


「何だと!?」


 邦憲は目に驚愕の色を浮かべる。


 そんなところに、話にあった真田昌幸が自らが現れた。

 傍らには、屈強そうな男達がいる。おそらくは、昌幸の部下だろう。


「真田殿、これはどういうつもりだっ!」


 怒り狂った邦憲は、昌幸に詰め寄った。


「どういうつもりもない。見ての通りだ」


 冷たい眼差しを昌幸は向ける。


「見ての通りだと……!?」


「北条家はもう終わりだ」


 同時に、昌幸の周りの屈強な男たちが抜刀した。


「貴様……っ!」


 ここで、邦憲も明確に悟った。


「この裏切り者がっ!」


「ふん、まあそういう事だ。短い間だったが世話になったな」


「表裏者がっ! 北条の恩を忘れたか」


「あいにくだがのう、北条に属してまだ1年も経っておらんし大した恩を受けた覚えはないのう」


「この……っ」


 そう言って昌幸は身体を背けた。

 同時に、周りの男たちが邦憲の前に立ちふさがる。


 その男たちの目的を理解し、邦憲も抜刀する。


「この、北条を裏切った不忠者めっ!」


 だが、それよりも先に昌幸の配下によって邦憲はその命を奪われた。

 傍にいた邦憲の家臣達も必至に抵抗しようとするが、昌幸の部下達にあっさりと斬って捨てられた。

 邦憲とその家臣達の死体が、昌幸の足元に転がる。

 その死体を昌幸は冷たく見下ろした。


「北条はこれで終わる。終わりなのだ」



 邦憲と、その家臣達が昌幸によって斬られた事は城内の北条軍に瞬く間に伝わった。

 指揮を執る者もいなくなった事もあり、北条軍は混乱。その大半が討ち取られ、城は織田軍に占拠された。

 これで沼田城は陥落。

 寝返った真田昌幸は、そのまま織田軍に下った。


 織田の上野方面軍は、投降した昌幸の配下も加え、さらに北条の支城を攻略していく事になる。

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