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第二話

~10分後~



またドアをノック、というよりはぶち抜く勢いの音が響き始める。


男が金的を喰らった時のダメージは妊婦が赤子を10人同時に痛みに匹敵するという。妊婦にも男にもなったことは無いので加減はしなかったが、それにしたってこいつは中々タフな男だ。


「タブチさん!!話だけでも!!話だけでも聞いてください!!話を聞いてくれるまで俺はここをあまり動きません!!」


あまりって何だよ。ちょくちょく動くのかよ。想像したら吐き気を催す程うぜえ。


「小学校中学校とクィディッチばかり続けていた少年で、成績なんざもう底辺中の底辺。高校は推薦で入ったものの、まさかの選手生命を絶つ右足の怪我、後は自堕落に満ちた生活でした………だがしかし!!この二年の修行を経て手にしたこの職!!俺はもうお袋に『サージはやれば出来る子』とか、親父に『昔はバレンタインのチョコとか沢山貰ってたのに今じゃタウンワークしか貰えないな』とか、妹に『………死ねば良いのに』とか言われるの嫌なんすよ!!一人の社会的弱者を救うと考えて何卒!!何卒!!!」


お前その二年間何やってたんだよ。タウンワーク貰う時点で自宅警備員だろ。


というかもう叩くな。ちょっと金具が悲鳴上げ始めてるから。辛抱ならず私は泣きの一回、仏の顔もなんとやら、の精神でドアを開けた。



目に飛び込んで来たのは、数十枚の万札をちらつかせた封筒を差し出しながら頭を下げるサージの姿があった。




「………どうすか?」


「交渉成立だ」



私は本能のまま、サージの左手とその手に握られた封筒を握りしめていた。






~~~



人間と言うのは醜い位に欲望に正直であり、故に美しい―――と何処かで聞いたことはあるが、先程の私は間違いなく醜さ100パーセントだったろう。


結局サージという胡散臭いチャラ男(中身はクソニート)に魔法少女になれと促され、上手いこと載せられて着替えたわけだが。




「あー………成る程、名目上ってだけはあるな。安心した」


「俺もこの世界のことは一通り勉強してるっすからね、『魔法少女』という言葉の意味の違いは」


サージの世界では『魔法少女』とは階級名であり、魔女という職の一段階下の職らしい。魔女は主に法治や国に携わる仕事で、魔法少女とはその補佐であったり、あらゆる庶務を任された職なのだとか。


そして私は雇われ下級魔法少女(仮免許)。これはコンビニのバイトと同じ位誰でもなれる職らしい。


つまりは国家公務員と地方公務員が存在し、更にⅠ級Ⅱ級Ⅲ級、大卒レベル高卒レベルと枝分かれしていくわけだ。


しかし位が上がると一体どんな服装で仕事をするのだろうか。今の私は一般的なパンツスーツに黒手袋という何だかSPらしき姿(これが制服らしい)なのだが、今も私の脳内では秋葉原の町を歩くコスプレイヤーが右脳も左脳も闊歩している。


「さて、一発目に仕事いっときますか。まずは大家さんにサービスでもしましょうかね」


「例えば?」


「きんぴら作ってあげたりとか、肩たたきとか、マッサージとか」


「婆ちゃんかお前は」




~~~


「どーもー……いつも貴方の慈悲深さにお世話になってるタブチでーす」


分かっている。キャラではないことなど。だがやらなければ金は来ない。ドアをノックすると若作りに必死なナイスミドルババアは即座に現れ、毒牙を剥き出しに毒突く。


「あんたさ~さっきも無駄にどんどんでかい音立てて無かった~?マジ迷惑なんですけど~繰り返し言わなきゃ理解出来ないとか何歳~?」


引っ張たくどころか腹パン喰らわせてやりたい位に不快だ。


『タブチさん、拳が完全にグーパンチっす!命を刈り取る骨格っす!緩めて!』


脳内からサージの声が響く。テレパシーで私に囁いているらしいが嬉しくない。


『私も世話になってる人を殴るほど仇野郎じゃない』


『初対面の魔法使いは別っすか?』


『別だ』


あいつから力を分け与えられているのか私もテレパシーが使えるようだ。


「でさ、そんな改まった格好して何の用~?」


「いつもお世話になっている礼を込めて、何かお困り事でもあれば何なりと」


「やだーキャラじゃなーいキモーい」


お前には一番言われたくない。


「でも~せっかくだし~なんかやってもらおうかな~とりあえず肩揉んで~」


ババアじゃねえかこいつ。実年齢何歳だ。

とは言えだらだらと文句を言っても仕方が無い。正直に大家の御希望に答える。無駄に指に力が入る。


「あー………そこ、もうちょっと肩甲骨に指を這わせるように」


無駄にエロい表現を使うな気持ち悪い。本当にこんなことで金が入るとは、もしかして私は良いように弄ばれてるピエロなのだろうか。然し金は前払いで私の懐に既に姿を潜ませている。正直に奴に従うべきところか。


「しっかしさぁ、あんたもここに来て長いよね~」


ふと、大家が私に話し掛けてくる。通学の為にこのアパートに寝泊まりするようになって3年半は経つ。


「私も3年生ですし」


「初めて会った時は『不良少女だ、危険だ』とか思ってたんだけどね~」


大体間違ってはいない。実際自分がまともな高校生活を経ていると言えないことは自分が良く分かっているし、遠方に独り身で暮らし、周りを皆敵視していた私を温かく迎えてくれたのもこのババァだ。


その頃はババァも黒髪で、今とは真逆の、酒も煙草も無縁に思える「清楚」な人だった。


「その頃はまだ、あの人もいたねぇ」


その「清楚」が失われ始めたのは、確か夫が東北に転勤した1年半前のことだった。


取り分け褒める部分があるような容姿ではないが、奥さんを大切にしている笑顔の似合うナイスミドルだった。


その旦那は転勤してからと言うもの、このババァのには一辺の連絡も入れずに今に至る。


それからのババァはというと、目に見えて堕落の道に進んでいった。酒と煙草が生活に染み付いた荒れた人間に変貌していった。

それが、今の大家。かつて私が素敵な人だと、いつかこんな人になりたいと思っていた大家。


「惨めなもんだよね~、こんなに時間空いてんのに、まだあの人のこと考えてんだよね~」


そういえば、私が大学の馬鹿達とはしゃぎ倒しているときは毎回のようにこいつは注意を促しに来る。ねちっこい言い方で、ウザったい調子で。


「………捨てられたとは思わないんですか」


大家の瞳から一筋の光が零れたのが私には分かった。調度背後を向いていたから顔は見えなかったが、それでも上から様子を覗けば、ぎゅっと握ってひざ元に寄せた両手には、雨漏りでもないのに数滴の雫が落ちていた。



彼女は夜遊びなんかはしちゃいない。


未だもって―――旦那を愛してる。


私はただ黙って、自分より骨張った肩をゆっくりと揉みほぐす。



静寂は私達二人を時間の経過とともに押し潰しているかのようだった。


ずしり、ずしりと。





~~~



「お疲れっす!言った通り単純な作業だったっしょ?前払金と一緒にこの封筒も受け取ってくだせえ」


大家の部屋から出た私を待ち受けていたのは、ヘラヘラと張り付けた下手な笑いを浮かべたサージ。


サージの差し出した封筒にはこれまた万札が何枚か。明確な発言は伏せるが一介の大学生にしてみれば指を噛んで欲しがる額だ。私はおもむろにその封筒をポケットに仕舞う。


「今後もご贔屓にしていただけたらこちらとしても感謝感激雨あられなんすけど、どうっすか?何だったらこれで食っていけるかもしれないっすよ?」


「そうか、そいつは嬉しいもんだ。それじゃあ……」



「………ちょっ………!!」



私はサージのスーツの衿元を掴み上げ、壁へと詰め寄った。身動きが取れないように片足を釘打ちのようにして踏む。


「お前、テレポートとか、出来るか」


「えぇっ?そりゃあまあ、出来るっちゃあ出来るっすけど、俺の力じゃあ半径1キロ先が精々っすよ」


「私は東北に行きたいんだ。今すぐな。行かせろ。場所は坂松ビル4F、鬼原コーポレーション東北支社×番地」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくだせえタブチさん!!いくらなんでも都心部から東北だなんて、しかも明確な場所は俺なんかの力じゃあ………」


衿元に爪を食い込ませ、更に壁に詰め寄る。サージの引きつった表情が良く分かる。


「じゃあどうしたら行ける、今すぐだ」


「えーと……そ、そうだ、対価っすよ!!対価!!!」


「対価?」


「そうだ、対価システムってのがあるのを忘れてたわ~マジ俺焦ってたわ~………あ、対価システムっつーのは力を求める希望者に対して、その力に見合った対価を要求して、それによってより強力な魔法が扱えるようになれるんです。まあレンタル制っすけど」


「今すぐ出来るのか?」


「そ、そうっす。儀式とか形式張ったものは無いんで、やりたい時に願えば直ぐに……ひっ!!!」


壁を殴った。非常に拳が痛い。


「やれ。今すぐ。金ならある。さっさとやれ。やんなきゃお前を今すぐ荒療治で女にしてやるぞ」


「は、………はい………」



手を離すと、サージは股間を抑えたままその場に座り込んでしまった。


ちょっとやりすぎてしまった感もあるが仕方が無い。私は気が短い。




意気を取り戻したサージに金を渡す。先程の給料の大半だ。そんな折、こんな質問をされた。


「しかし、なんでまた東北に?」



私は、どうしても一言言っておきたい奴がいてな、と答えた。


その瞬間、私とサージの周りを目映い光が包み込み―――







「ちょっとさ~、肩揉みしてくれたのは良いけど近所迷惑は別件なんだけど~………



あれ、いない………」


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