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(上)

 この扉を開けて外に出たら、わたしは死ぬ、かもしれない。

 新品のパンプスをはき、普段は持たないような可愛らしい小ぶりのハンドバッグを抱えたまま、わたしは玄関で立ちすくんでいた。いやいや。死ぬなんてことがあるものか。たかが、外に出ただけで。

 単なる思い過ごしか。それとも楽観しすぎか。

 我ながら馬鹿馬鹿しいと思える考えを払い落とすように、わたしは頭を振る。それでも嫌な予感はまとわりつき、消えはしなかった。

 それにしても、一体どうしてこんなことになってしまったのか。わたしはただ、おとなしく部屋にこもって、誰も読んだことのない新しい物語を紡ぎだそうとしていただけだったというのに。事の起こりは一か月前。わたしはその日も、パソコンの前でひたすらキーボードを叩いていたんだっけ。


 甲冑のきしむ音。

 怒号、銃声、悲鳴、軍馬のいななき、進軍ラッパの音。血と火薬のにおいが、上空を飛ぶわたしのところまでも伝わってくる。

 戦場。見下ろす景色を一言で表現するならそうなる。敵も味方もない、屍の山が築かれる。無謀にも投擲されたトマホークの、弧を描く軌道をわたしは軽々とかわした。わたしを手斧で狙ってきた敵の兵士の装備はお粗末なもので、おそらく農民兵だろうと思った。反撃するのも哀れになっていると、その男はボーガンの矢を受けて倒れてしまった。

――こんな戦いをしてなんになるの。

 わたしは、白銀の飛竜ワイバーンを駆り戦場の空を越えていく。古代語しか解さないこの気高い竜に乗れるのは、竜巫女シャーマン一族の生き残りであるわたしだけだ。止めるべき相手はここにはいない、陰で戦いを操っている者がいる。わたしの考えが正しければ、その者の居所は――。

 突如、風を切って漆黒の飛竜ワイバーンが現れ、わたしの前方の進路をふさいだ。しかしおかしい。飛竜ワイバーンは、シャーマンがいなければ飛ぶことができないはず。その背に誰かが乗っている。一体誰が。

「姫様、どちらへ行かれるのですかな?」

 よく知っている声。わたしは自分の目を疑った。

 漆黒竜を操っているのは、わたしの後見人としてずっと助けてくれていた男、ジュリアスだった。

 わたしはやっとすべてを理解した。この戦いを、いや、全ての諸悪の根源をつくったのは、この男だったのだ。なぜ気づかなかったのか、わたしは自分の愚かさを呪った。

 もう遅すぎるのかもしれない。けれど、まだ可能性がある限り、わたしは戦う。たとえ、唯一の同胞であり恩人である男と刺し違えることになったとしても。わたしは、白銀竜へ禁断の呪文をささやいた――。


『この物語はすでに書かれています。既成作品との最大一致率:97.5% 類似作品数:24』


「ええーっ、これも既出なの? 勘弁してよ」

 わたしはモニターに映し出された残酷な結果を見て、ごろりと後ろに寝転がった。一週間かけて練ったシナリオを一晩かけて梗概に起こしたのに、類似する物語がすでに発表されていたとは。しかも、ひとつふたつではない。一致率が96%以上の物語だけでも軽く二十を超えている。これまでで最悪の結果だ。

「まあ、確かに、いろいろとベタな設定だとは薄々思ってたけどさ……」

 わたしは床に転がったまま大きく伸びをした。ずっとキーボードを打っていたおかげでひどい肩こりだ。いくら湿布薬を貼っても、マッサージに通っても、焼け石に水。わたしは無駄と知りつつも、肩をぐりぐりと回した。

「だから散々言っただろ、一族の生き残りとかは地雷設定だって。恩人がラスボスってのも古いんだよねぇ」

 わたしに話しかけてきたのは、三次元デスクトップアクセサリだ。止まり木にとまったフクロウの姿をしていて、名前をマイクという。パソコンを起動している限り勝手にしゃべる。中身はもちろん人工知能だ。

「古いとか言わないで。王道でしょ王道」

「でも、もう散々書かれているんだったら、意味ないじゃん」

 マイクは片足を上げて、首のあたりを爪でカリカリと掻きはじめた。退屈なときの動作である。

「そうなんだけど、例えば飛竜をべつの何かに変更すれば、まだ通用するかもしれないし」

「べつの何かって?」

「べつの……ほら、魔獣とか幻獣とか」

 自分でもいい加減な返事だとは思ったが、マイクに馬鹿にされっぱなしでは気分が悪い。ここ最近は特に、マイクはわたしが考えたシナリオに興味も示してくれなくなってきた。

「なんだか曖昧だなあ」

「いちおう調べてみるわね」

 あくびをするマイクをよそに、わたしはむくりと起き上がりキーボードに向かった。シナリオの『飛竜』の部分を『*』に変更してふたたび検索してみる。こうすると、飛竜の部分がペガサスだろうが喋る戦闘機だろうが、何でも検索に引っかけてくれるのだ。


『この物語はすでに大量に書かれています。既成作品との最大一致率:99.2% 類似作品数:182』


 わたしは落胆のため息をつき、ふたたび床に転がった。これだけ似た作品があるということは、一部をすげ替えたところで新しいものにはならない。マイクが、ほらみたことか、とか色々言っていたが、耳に入らなかった。今回のシナリオは気に入っていたが、もう手の施しようがない。温めていたアイディアは尽きてしまった。このままでは次のファンタジー小説の新人賞に間に合わないだろう。

 パソコンをシャットダウンするのも面倒くさくなって、放っておいた。退屈になったマイクは一人で羽づくろいの動作を始めていた。睡魔が襲ってくるのに任せ、わたしは眠りに落ちていった。


 2010年代から日本で徐々に盛り上がっていった創作活動ブームは、2020年頃にピークを迎える。漫画家、小説家、ゲームクリエイターなどの創作家志望者が世の中にあふれ、また発表の場も整っていたことから、毎日のようにおびただしい数の創作物が産みだされ続けた。

 しかし、2030年代に入ってその動きは失速する。創作物が飽和し始めたのだ。

 このころになると、新しいジャンルのゲームは登場しなくなり、斬新な設定の漫画もめったに見られなくなった。創作を志すものはみな血眼になって新しいものを探し求めた。テレビ放映されるアニメやドラマの多くは、古典的傑作の焼き直し版がほとんどで、ゆえに大ヒットする新作というものはほとんど生まれなかった。

 2039年、特に、文章のみで表現しなくてはならない小説ジャンルでその傾向は顕著であった。

 困っていたのは新人作家を目指す者たちばかりではなく、新人賞を選考する立場の、いわゆる下読みと言われる仕事をする人々もそうであった。世の中にあまりにも膨大な作品が出回っているため、盗作やネタかぶりを発見するのが困難になったのだ。

 そこで、主要出版社や大手電子小説サイトなどが連携し、各社共通のデータベース検索システム「アカシア」を開発した。それには、過去の文芸作品、漫画、映画から舞台脚本など、著作権の発生したあらゆるシナリオというシナリオが、データ化されてすべて収められている。応募作品本編や、あるいは梗概でもよいのだが、これにかけると、瞬時にして新しいものかどうかが判断できるようになっていた。

 現在では、ライトノベル系の文学賞の応募要項には必ずといっていいほど「原則として、アカシア検索にて、一致率96%未満の作品であること」との条件が定められている。「原則」とあるのは、実質的にはそのような新しい物語はほとんど産みだせなくなっているからである。

 もちろん、王道をまるっきり無視して荒唐無稽な物語を作ってしまえば、検索に引っかからないこともある。しかしそのようにやけっぱちで作った物語は、ほぼ例外なくつまらなかった。


 その月曜日は朝からいい天気で、わたしは車庫から自転車を引っ張りだして跨った。

 涙がにじむほど大きなあくびをひとつして、こぎ出したペダルは心なしか重く感じた。最近、バイト先への往復以外には部屋にこもってばかりいるから、運動不足になっているのかもしれないと思った。両肩は相変わらず石のように凝り固まっていた。

 晴れてはいるが、まだ風は肌寒い。薄手のスプリングコートを羽織ってきたけれど、夕方帰宅するときには寒いかもしれないな、とわたしは少し後悔していた。金曜まで日中を仕事に拘束されることを思い、わたしは憂鬱な気分になった。

 きっといつかは人気作家になって、曜日や時間に縛られず、お気に入りのお洒落なカフェなんかで仕事してやるんだ。あるいは、執筆専用のアトリエとして部屋をひとつ借りるのもいい――。

 そんな妄想がいつものように、わたしの頭の中を支配していった。誰かが決めたマニュアルに従って、大勢で同じものばかり作るような仕事なんて、つまらないと思うからだ。

 しかし、肝心の応募作品が書けないのだから話にならない。わたしは焦っていた。

 どうしよう。ファンタジー以外のジャンルに挑戦するべきか。

 いまのところ、比較的アカシアに引っかかりにくいのが純文学ジャンルだ。しかし、純文学には人並み外れた文章力とたぐいまれなセンスが必要であって、ろくに文章の勉強をしてこなかったわたしにはとても手が出せない。

 SFやミステリー、ホラーなどのエンタテインメントも、やはりアイディアが出尽くしていて、ファンタジーと厳しさは似たり寄ったり。奇をてらってやたら残酷な描写が一時流行ったりもしたが、わたしはそういうのは御免だ。恋愛ものにはまったく興味が湧かない。物語の一要素として描くならともかく、メインにもってくるのはわたしには無理だった。

 この時代、まったく新しい空想の世界で、自分のキャラクターを活躍させるのは、もう無理なのだろうか?

 そんなことを考えているうちに、仕事場に到着した。

 わたしはいつものように、自転車を駐輪場におさめ、従業員用出入り口から更衣室へ向かう。ロッカーにある従業員用の制服に着替える。始業のチャイムが鳴れば、わたしはその他大勢に混じって、見劣りしないよう仕事をしなくてはならない。そこには個性も創造性も必要とされない。代わり映えのしない一週間がまた始まる。

 

 そもそも、わたしはどうして、こんなにファンタジー小説にこだわっているのだろう。作家になるのなんてあきらめて、普通に働いて、普通に結婚して、子供を産んで育てて……。そういう人生を送ったとして、一体何が不満なのだろう。


 夕方、推進力がぎりぎり確保できる程度の低速で、よろよろと自転車をこぎ帰宅すると、小学校の同級生のヤギサワと名乗る女性から電話があったと親に言われた。メモされた電話番号へかけてみると、受話器の向こうから元気のよい声が聞こえてきた。

『あー! 瑞穂ちゃん? 久しぶりねえ。元気だった?』

 わたしは八木沢結衣の小学校時代の姿を思い出した。走るのが早くて、確か陸上クラブに所属していたっけ。誰にでも明るく接して、クラスではいつも友人たちの輪の中心にいるような子だった。結衣の声は、大人になってもそのままの親しみやすさを感じさせた。

「結衣ちゃん、久しぶり。こっちはまあ元気かな」

 わたしの記憶が確かなら、最後に連絡をとったのが中学一年のときで、それ以来ということになる。こういうふうに昔の知り合いから突然連絡が来る用件というのは、たいていの場合、何かのセールスか、選挙がらみかである。しかし、わたしの警戒をよそに、結衣は底抜けに明るい声でこう言った。

『小学校の同窓会やることになったの!』

 わたしはいままでに、中学からも高校のクラスメイトからも同窓会の連絡というのをもらったことがなかった。同窓会なんて、それこそドラマか小説でしか起こらないことなのかと思っていたくらいだ。――ああ、同窓会ね、同窓会……。

 懐かしいとか楽しみだとかいうよりも、わたしは複雑な気持ちになっていた。

『日にちは詳しく決まっていないんだけど、ゴールデンウィーク中にやるつもりなの。瑞穂ちゃん来られそう?』

「うーん、まだ分からないや」

 とっさにそう答えてしまった。実際には連休中に遠出する予定もないから、確実に出られるのだが。

『ああ、そうだよねえ。いま、みんなの都合のよさそうな日にちを聞いているとこなんだ。ざっくりと多数決にしようと思って。瑞穂ちゃんは、どの日なら出られそう?』

 わたしはカレンダーを見た。確認するまでもなく、どの日だろうが出られる。しかしなんだろうこの気の重さは。わたしは、うーん、と考えているようなふりをして、勿体つけてから答えた。

「わたしのほうはまだ分からないから、みんなの都合を優先させていいよ」

『そーお? じゃあ、決まったらまた連絡するね! あ、わたし幹事だから、何かあったら電話ちょうだいね』

 電話を切ってから、思わず重いため息をついた。わたしは、大人数の集まりとか飲み会は苦手だった。

 ああ、同窓会。どんな服装で参加すればよいのだろうか。おしゃれな女子たちがいまのわたしを見たら、どう思うだろうか。わたしは服のセンスにも体型にも自信がないのだ。化粧にも興味がないし上手ではない。男子も参加するのだろうけれど、下品な男性になっていて不快なことを言われたりしたらどうしようか。あるいは、お酒を飲み過ぎて、うっかり男性の同級生との間になにかの間違いが起こったら――。

 考えているうちに、どんどん行きたくなくなる。できることなら参加したくないが、人の誘いを断るのは難しいものだ。


 わたしは自分の部屋に戻り、いつものようにパソコンを立ち上げた。丸まって眠っていたマイクは起き上がり、片方の翼と、それと同じ側の足を後ろに大きく伸ばした。カサカサと風切り羽が擦れる音がする。その動きを左右両側で行い、最後に両方の翼を頭上に持ち上げて、ぐんと伸ばすのが朝の体操らしい。まあ、夕方だけれど。

 マイクがウォーミングアップをしている間に、わたしは押入れで探し物を始めた。

「おはよう。何やってんの」

「あったあった。小学校の卒業アルバム」

 わたしは見つけ出した冊子のほこりを吹いて払い、厚紙のケースから取り出した。

「へえ。なんでまた」

「同窓会があるんだって。あまり気乗りしないけどね」

 表紙から順番にめくっていく。学年の全体写真、クラス写真、個人写真と続き、卒業時の作文が載っているページになった。おそるおそるわたしの作文を探して読んでみると、中学校に進んでも目標を持って勉強を頑張りますといった、当たり障りのない内容の文章が書かれていた。もっと変なことを書いていたらどうしようかと思ったのだが。たとえば、将来はファンタジー作家になるぞ、といった恥ずかしい意気込みとか。

 あれから年月が過ぎ、わたしもみんなも二十八歳になった。他のみんなは、どんな仕事についているんだろう。結婚した人や、子供をもった人もいるかもしれない。わたしなんて、まだ何もつかんでいないのに。

「あーあ、わたしも普通に結婚して子供でも産めばいいのかなぁ」

 何気なく漏らした独り言に、聞き捨てならんとばかりにマイクが反応する。

「その『普通』だって結構大変だと思うぞ。何の努力もしないで、自然に家庭を持てるなんて考えは甘いんだって。はやくしないとあっというまに高齢出産だぞ」

 このフクロウ、ちょっぴり毒舌タイプなどという性格設定にしたものだから口が悪い。しかも時々痛いところを突いてくる。普通に執事タイプとかの性格にしておけばよかった、とわたしは後悔した。

「余計なお世話よ、本気で婚活すれば大丈夫なんだから! 生意気な鳥め、電源切ってやる」

「やめてくれ、旗色悪いからって卑怯だろ!」

 マイクは全身の羽を逆立てて、くちばしを開けて威嚇した。起動したばかりで眠らせてしまってはさすがにかわいそうなので、本当に電源を切ったりはしなかったけれど。

 さて、とわたしは考えた。この頃にはまだ、小説家になりたいとは思っていなかったのだろうか。一体いつから小説にこだわるようになったのだろう。わたしはある考えを思いついた。

「そうだ、マイク、わたしの出生時からの人生を、一人称小説みたいにして書いてみる。なにか創作のヒントがつかめるかもしれないし、これぞ世界にひとつしかない物語よ」

「まあ、正真正銘オリジナルな物語には違いない。たまにはいいんじゃないの」

 マイクの賛同の言葉も聞き終わらないうちに、わたしはすぐに文章エディタを立ち上げ、キーボードを叩き始めた。

 市内の産院で産まれ、やや弱い体質ながら健康に育ち――、ああ、心臓の中にちいさな穴が空いていて、親を心配させたのだった。それは成長するに従い塞がるから心配ないとお医者さんは言っていたけれど、念のため子供のころから激しい運動は避けてきた。わたしは室内で本を読んで空想にふけることが多かった。誕生日プレゼントには、図鑑や児童文学の本を欲しがった。

 わたしはたぶん、お友達とはうまく一緒に遊べなかった。自分の気持ちを伝えるのが苦手で、何でも言いなりになってしまうことが多く、それがいやなときは一人ですみっこにいた。その癖はきっと大人になったいまでも抜けていないのだ。

 わたしは休むことなく文章を打ち込み続けた。夜は更けていき、声がうるさいマイクは途中からスリープさせた。わたしは夢中で、幼いころの記憶を順番に紐解いていった。

 小学校低学年、中学年、高学年、そして中学校――。不思議なくらい滞りなく筆は進んだ。高校を卒業し、地元の専門学校も卒業し、これといったキャリアも身につかないまま、いまは小説家を目指しながらアルバイトをしている。

 そこまで書いたとき、もう明け方が近くなっていた。

 既に物語は現在に追いついている。

 わたしは、この物語をアカシア検索にかけてみるつもりでいた。きっとわたしみたいに、人付き合いが苦手で、それでいて創作で悩む人がほかにもいるはずだ。みんなはどうやって試練を乗り越えているのだろう、あるいは、あきらめていくのだろうか。それに興味があったのだ。

 検索にあたって、ひとつ問題がある。あれは、完結した物語でないと、うまく一致率を判定してくれないことがあるのだ。わたしの人生といえば、現在とても中途半端なところにあり、これといった挫折も成功も経験していない。物語を終わらせるにしたって、ちょうどよい区切りなど見つからなかった。

 禁じ手だが、こうなったら主人公に死んでもらおう。普通、安直に主人公を殺してはいけないというのがセオリーなのだが、誰に読んでもらうわけでもないので構わないだろう。

 わたしは物語の最後に、こう付け加えた。


『同窓会に出席するために夕方家を出たわたしは、渋滞でバスが遅れて、遅刻しそうで急いでいた。わたしは信号が青の横断歩道を当然のように渡りはじめたけれど、周囲にもっと注意を払うべきであった。

 蛇行する速度超過のスポーツカーが突っ込んできて、わたしは避ける間もなく、跳ね飛ばされ宙を舞った。時間の流れが急にゆっくりになり、走馬灯ってほんとうにあるんだなあと人ごとのように考えた。アスファルトの地面に叩きつけられる、と思ったけれど、衝撃も痛みもなにもなくて、ただ閃光がそこらじゅうを駆け抜けていった。そのあとは、音のない真っ暗な世界に一人ぼっちになった。なんとなく、死んだおばあちゃんが迎えにきてくれるんだろうと思って、わたしは安心して最後の眠りについた。』


 いくら作り話とはいえ、自分が痛くて苦しい死に方をするはごめんだった。まあ、こんなもんで、アカシア検索で判定してくれるだろうか。

 テキストファイルを検索システムに読み込ませ、エンターキーを叩く。

 すぐに結果が表示された。


『この物語はすでに書かれています。既成作品との最大一致率:99.9% 類似作品数:1』

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