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文化系男子部  作者: 華由
第八章 虎穴に入らずんば虎子を得ず
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「良かったわね」

 教室内で一人、帰宅準備をしている水城を見つめ、日野は話しかけた。

 火也たちが入部してくれたおかげで文芸部は廃部を免れた。まあその代わりに校長室で火也を窒息させそうになったことはたっぷりと叱られたが。

「ああ、アイツらのおかげだ」

「……私、ダメダメよね。話を聞かずに抗議へ行った自分が恥ずかしい。私、タイピング以外に必要なかったわ」

 珍しくも沈み気味に日野が言って、水城はぴたりと動きを止めた。

 それは違う。日野はとても必要な人材だった。

 今回のゲーム制作。きっと彼女がいなければ水城は最後までやり遂げられなかった。火也の言葉も心に響いたし、シンや海斗、ヒカルの存在も大きく水城を変えてくれた。でもその後ろにはいつも日野がいてくれた。どこかずれた感覚と行動。それに苛立った時もあるが、それにまた和んだり、助けられたりした。

 だから不必要ではない。今までも、そしてこれからも。

「教師は生徒を見守るのが役目だろ。アンタはちゃんとその役目してた」

「井岡君……」

「だからオレも最後までできた。あと、……仲間もできた」

 きっと日野がゲーム制作をすると言わなければ、何の情もなく廃部を受け入れて、小説だけに没頭する日々を送り、何の思い出もなく高校生活は幕を閉じていた。でも彼女が動いてくれたことで、これからの高校生活に楽しみが生まれた。

 火也、シン、海斗、ヒカル。そして日野。この五人と関わっていくこと。きっとそれはありきたりのくせに、かけがえなく水城の物語を色付けていくのだろう。

 そう思えるようになったのも、きっと日野が頑張って水城を支えて、導いてくれたからだ。

 二人しかいない教室で水城は真っ直ぐと日野を見ると、日野もまたじっとこちらを見返した。

「その……」

 伝えないといけない言葉がある。そう思って彼女を見たのは良いが、あまりにも見返されて、水城の頬が少し染まった。頬も熱ければ耳まで熱くなってきて、水城は結局、そっぽを向いた。そのままの姿勢で言おうとしたが、それではやはりいけないと思い、目だけは日野の方へと向ける。そして、

「……ありがとう、先生」

 図体は日野よりも大きいくせに声はとても小さくて、聞き取ってもらえるか心配だったが、日野はそれを余すところなく受け止めてくれたようで泣きそうな顔で微笑んだ。

 日野は返事をしなかった。だけどそれでいい。その表情だけで十二分に伝わる。水城はもう一度、日野を正面から見て、にっこりと笑った。

 水城は自然と手を伸ばして日野の頭を撫でようとしたが、その瞬間、ドアの方から「おっとこれはまさか告白のぉ……!」という声がして、水城の眉間に皺が寄った。

 切れ長の目でそちらを睨みつけて、ドアの方へ歩み寄ると、火也とシン、海斗とヒカルがびくりと肩を震わせていた。

「テメェら、覗き見してたのか?」

 水城が訊くと火也が両手を左右に振って答える。

「あー、いや。違うよ、シンちゃんが見ようって言ったから」

「カヤちゃん、オレだけに罪をなすりつける気? てかさー、カヤちゃんだって、ノリノリだったじゃん。なあ?」

 シンが海斗に同意を求める。

「ああ。美のセンスを追求するため、告白の瞬間を見ると言った」

「ボク、そんなこと言ってないよ! ね、ヒカルん?」

「告白、しない? 残念」

 ヒカルがそう言い終えたと同時に、水城の眉間の怒り皺がさらに深くなった。

「あー、えっと。オレ、用事思い出したからさー……、帰る!」

 見たことないほどの俊敏さでシンが逃走する。

「ちょっと! 一人だけずるいって、ボクも逃げる!」

 火也がシンを追いかけるように逃げて、海斗とヒカルもそれにならって水城の前から逃げ出す。

「絶対逃がさねぇ!」

 放課後の廊下に水城の怒り声を合図に、今年度で最後となる水城の文芸部生活は幕を開けた。最高の仲間たちと共に。


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