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文化系男子部  作者: 華由
第七章 和を以て貴しとなす
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 その晩。日野が明日の朝には終わると言ったので、それを見届けるため、全員が水城の家に泊まることにした。そして現在、水城たちは空間を余すことなく敷かれた布団にくるまっている。ちなみに日野は隣の部屋でシナリオを打ち続けている。

「ボクらだけ先に寝ちゃってもいいのかな?」

 部屋の灯りを落としてもなお話す火也に周囲も静かに身体を起こす。

「でもさー、オレらにできることないし。邪魔せずにいるのが一番じゃなーい?」

「うわー、シンちゃんが真面目なこと言ってる」

「カヤちゃん、ひどぉ」

 じゃれ合う二人の間を取り持つようにヒカルが口をはさむ。

「寝る、無理」

 率直な意見。火也が思わず吹き出す。

「確かにね。春休み最終日がお泊りって、なんか寝れない」

「水城ん家だしなー」

「嫌なら帰れ」

「何か水城ってオレだけに冷たくなーい?」

 水城が悪態をつくと、またもシンがそれに噛みついて、火也が慌ててその空気を打ち消す。

「そんなことより、少し話してもいい?」

「あー、オレも話したい。水城が日野たんをどれくらい好きかについて」

「金澤だけ帰れ。二度とオレの家に入るな」

「おーっと、否定しないってことは事実ですかぁ?」

 うるさく騒ぎ立てるシン。だが突然、鈍い音が部屋へ響き、痛みを訴えるシンの声が部屋全体を包んだ。どうやら火也が拳介入して黙らせたらしい。だが誰も心配を口にしない辺り、火也の行動は正しい。

 静かになった後、火也は何事もなかったように話し出す。

「ボクさ。みんなで作業できて嬉しかった、ありがとう。すごく楽しかった、本当にありがとう」

「火也君、気持ち、同じ。ありがとう」

 ヒカルが拙く答えた。そこへ海斗が入る。

「オレも礼を言わせてほしい」

「オレも、オレも。最後の数日間だけしか参加してないけど、すげー楽しかったよ。ありがとー」

 口々に礼を言葉にしていて、少し恥ずかしいと水城は正直に思った。でも。

「悪かったな。オレのせいで作業が遅れて。……楽しかった、ありがとう」

 語尾へいくにつれて声は小さくなったのは照れていたから。でも誰も茶化さない。きっと全員が胸の中がこそばゆいのだろう。真っ暗で顔の見えない状況は普段より素直にさせて、心情をさらけ出させ、頬を熱くさせる。だが気にすることはない。今は暗くて誰にも表情が見えない。

 だからこそ、火也もヒカルも海斗もシンも、そして自分も感謝を口にしたのだろう。きっと光に照らされていたら誰も言わない。恥ずかしくて、くすぐったいから。

 夜の空気が静寂を守る中、やっと火也が「もう寝よう」と全員に睡眠を促して、水城は心底ほっとした。誰かがそれを言わなければ、いつまで経っても眠れない気がしていた。水城は寝返りを打ち、全員にそっと背を向けると眠りについた。

 そして次の日。彼らが起きた時には宣言通りに日野はタイピングを終えていて、春休み期間すべてをかけた恋愛アドベンチャーゲームは無事に完成した。

 日野はもちろんのこと火也やシン、ヒカル、意外にも海斗まで歓喜していて水城は驚いたが、言うまでなく、水城もまた完成を心の奥底から喜んだ。


 それからというもの、事は予想外にも淡々と進んでいった。

 始業式は毎度のごとく気だるさを残して終わり、その放課後、日野を筆頭に校長室を訪問し、廃部候補の部活動全員で作品を仕上げたことを説明した。この時、どういう反応を取るだろうかと思ったが、校長先生は頷くだけで深く反応することはなく、火也たちが少し不満そうな顔をしていた。

 その次の日は入学式があり、設けてもらえた部屋で制作したゲームをあっさりとお披露目した。ゲームは十分ほどでクリアできるので実際にプレイをする者、その光景を見る者。たくさんの入学生がいた。

 入学式当日は仮入部へ来る生徒が多かったが、次第に人数も減っていき、不発だろうかと思った。しかしヒカルがMCを務めながら火也が歌を奏でて、シンと海斗はポスターを制作し、水城はそこへキャッチコピーを書き込んで宣伝した。日野は一年の担任を受け持つことになったので、たまに様子を覗き見てよく分からない絡み方をしては教職へと励んでいた。

 その甲斐あってか、仮入部終了までたくさんの入学生が顔を覗かせにきてくれていた。海斗の芸術美学理論に聞き入っている者もいて周囲が唖然としたり、水城とシンの論争が始まってその間に火也が入っては笑いが起こったり。

 そんなこんなで仮入部期間は幕を閉じて、水城たちは帰路へついていた。

「仮入部、終わりだね」

「いやぁー、長いようで短かった的な?」

 火也とシンが先頭を歩きながらで会話を始めた。

「早い。明日、部結成」

「ああ、オレの美のセンスを分かるやつがいた。楽しみだ」

「海君って、そればっかりだね。水城君はどう思う?」

 さらっと火也が海斗の言葉を流して、水城へと話題を振った。

 作業中は今までにないことの連発で一日がとても長く感じた。でもゲームが完成した頃にはこのメンバーでいることが日常化していて、その長さは少しずつ短くなっていった。時間は全国共通で同じはずなのに、彼らがいるとそれすらも変化する。

「さあな」

 水城は夕方の空を見上げ、小さく呟いた。


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