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文化系男子部  作者: 華由
第六章 案ずるより産むが易し
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8

 春休み十日目の午後一時。水城たちは昼食を取り終わった後、そのまま居間のテーブルにてシナリオ会議を行なっていた。メンバーは火也、ヒカル、海斗、日野、そして水城の五人。もうずいぶんと見慣れてしまった顔ばかりで、その中に新顔はない。

「内容、決定。あと、井岡先輩」

「黒木の言うとおり、あとは井岡が頑張るだけだな」

 顔を見合わせていうヒカルと海斗に対して、水城は「ああ」と答えつつも、テーブルをはさんで正面にいる火也を気にした。

 火也は話をしながらも携帯電話をチェックしたり、時計へと目を向けてみたり。今日は落ち着きがない。だからと言って、その行動を諌めることや理由を問いつめるという野暮なことはしない。それに訊かずとも、理由は分かっている。

 水城がテーブルに散らばっている設定資料などを集めていると、突然、訪問者を伝えるチャイムが鳴り響いた。その瞬間、火也がばっと立ち上がる。

「ボクが出る!」

 ここはオレの家だ。水城はツッコミを入れそうになったが、火也の満面な笑みを見るとそれも言えなくて、素直にその役目を彼に頼んだ。火也は水城の頼みを聞くと大きく頷いて、猪のように玄関目がけて走っていった。

 それを見て、思わず猪突猛進というフレーズが水城の頭に過った。でも口には出さないでおこう。と思ったのにヒカルが「猪突猛進?」と首をかしげたので、耐え切れなくなり、水城はそっぽを向いて小さく笑った。

 水城がこっそりと笑い終えるとバタバタと居間へ向かってくる二つの足音が響いた。そしてドアが開く。

「シンちゃん、遅刻だから。もうシナリオ会議終わったよ?」

「だって時間知らなかったんだから仕方ないじゃん?」

 ドアを開けながら会話を繰り広げているのは火也とシン。

 シンは全員の顔を見るなり、軽いノリで「よ!」と片手をあげた。レインコートで顔の見えないヒカルがシンの側へと走り、彼の訪問を喜び、海斗も滅多に見せることない微笑みを浮かべていた。

 日野もまた嬉しそうにシンの側へと駆け寄る。

「来てくれたのね、金澤君!」

「まぁねー。カヤちゃんに泣かれちゃったし?」

「泣いてないでしょ」

 火也が強めの平手をシンの背中へ入れ、シンがびくりと背を反る。

「冗談だってば。いたー。昨日からマジでオレ、痛いことばっかなんだけどぉ?」

「金澤先輩、大丈夫? 背、痛い?」

「ヒカルンは優しいなあ。ほら見てよ、これー。昨日、カヤちゃんが狂暴化して、オレのこと傷つけたんだよ!」

 昨夜、火也の拳が当たった部分をヒカルに見せつけると「誰が悪いんだか?」と火也が意地悪っぽく笑った。それにつられてヒカルも静かに笑い、日野と海斗は微笑むようにシンを見つめる。

 水城はその光景を眺めていた。

 これで当初の予定人数が集まった。シナリオもシンを除く全員で考えて、何とかなりそうで。最初は嫌がっていたゲーム制作も今日を含め残り五日となった。この数日でゲームが完成するかどうか。そんな心配はまったくない。ゲームはきちんと完成し、最高の形で物語も完結する。根拠はないが、この光景を見ればそれは簡単に分かる答え。

 水城の頬がゆっくりと緩もうとしたその時、ふいにシンが水城の方へと距離をつめる。

「あー、そーそー。水城、昨日の言ってたことって、どーゆーこと? えっと、仲良くするとかぁー」

「うるせぇ、それは忘れろ。二度と聞くな」

「あれー? やっと来てくれたメンバーに対して何ですかぁ、その態度は」

 水城が横を向き、シンがそれに関してまた文句を口にして。でも以前のような不快感はない。交わされる論争も知らないうちに穏やかなものへとなっていた。それが蛇のように心を締め付けていたわだかまりがすっかりとなくなったのだと水城に告げる。その証拠に心へと手をあててみると今までにないくらい温かい鼓動を刻んでいた。

「ようやく全員だね! あと数日しかないけど、頑張ろう!」

 大きな論争に発展することなく終わった水城とシンの間へと火也は入り、全員に聞こえる声で言った。

「今日も頑張るわよ!」

 日野が元気よく答えると、海斗が頷き、それを見てヒカルも首を縦に振った。火也も嬉しそうに笑って、シンへと視線を投げた。シンもまた満面の笑みで応えて、日野へと視線を返す。そして四人の視線を受け取った日野が真っ直ぐと水城を見る。

「ああ、必ず完成させる」

 水城は日野へと強い決意を言葉で返した。そして水城を先頭に、全員がゲーム制作へと姿勢を正した。


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