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喜ぶ以外の言葉は出なかった。それもそうだろう。なぜなら、ずっと一人でシナリオを作ると言っていた水城がみんなで作りたいと口にしたのだ。まったく進んでいなかったシナリオを火也も心配していた。だがその心配もなくなる。つまりは完成に近づいていく、ということだ。
「本当にみんなで考える、でいいの?」
「しつけーな、そう言ってんだろ。あ、でも。あくまで案を訊くだけだ。シナリオ自体はオレが書く」
「うん! ありがとう、水城君!」
充分すぎるくらいの譲歩だ。
間髪入れずに火也が喜んでいると日野と視線が合った。すると日野は軽くウインクして、次は火也がシンを連れてくるのよと合図を告げる。
火也はにっこりと笑って頷いた。日野とアイコンタクトを取っている最中、じっと水城がこちらを見ていたが目が合うとそらされてしまい、火也は首を傾げる。
「どうしたの、水城君?」
「……別に、なんでもねぇ」
少し機嫌悪く水城は答えたが、今の火也には気にもならなかった。それよりもすることがある。火也はポケットから携帯電話を取り出して、慣れた手つきでメール画面を開いた。
日野が水城を説得してくれた。約束を守ってくれた。ならば自分もそれにきちんと応えたい。みんなのためにも、自分のためにも。
『今夜九時、学校に来て。話したい』。二十文字にも満たない文で思いが伝わるだろうかと思ったが、それ以上の言葉は浮かばない。火也は一度、文を見直して、即座に送信ボタンを押した。
迷いはない。あるのは達成を信じる心だけ。
「よし! みんなで案を出そう!」
火也はメールの送信済み画面を目にした後、携帯電話をポケットへと戻し、水城たちへ声をかけた。




