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閉めきっていた部屋のカーテンを少しだけ開けて、シンは外を見た。その視線の先に映ったのは火也。
「カヤちゃんか……」
さっきの呼び鈴の正体は彼だったらしい。まあ他にも二人――水城と日野――がいるので断定はできない。だが日野は家の位置を知らないだろうし、水城に関しては訪ねてくる気もないだろう。それをふまえて、先程呼び鈴を鳴らしたのは火也と思って間違いない。元より、呼び鈴を鳴らして逃げるのは火也ぐらいしかいないので、それが一番の決定打。
何か用事があったのかなんて愚問だ。火也が来た理由は分かっている。昨日も彼はその用件故に電話してきたのだから。
「ゲーム制作のことだよなー」
正直、もう水城に対しての怒りはない。しかしまた一緒にいれば衝突する可能性はある。その度に、あんな空気になるのは嫌だ。自分が辛抱すればいいかもしれないが、歩み寄る気のないやつに対して、神経をすり減らすことはしたくない。
何よりもまた衝突し、彼が制作をやめると言って、ゲーム制作自体がなくなるのは嫌だ。あってはならない。
「まあ……でもいっか」
廃部にならないために始めようとしたゲーム制作。だがシンは部活に未練も愛着もない。ちょっと絵が上手いから、あとは楽そうだったから。入部理由はそんなものだ。
シンにとって部活は何一つすることがない暇な空間をうめるための手段にしかすぎない。部活も絵も、特別好きという感情はない。はっきり言って、水城が学校の休憩時間ですら誰かと話すことなく小説を書き続けることも、シンには理解できない。
だからゲーム制作だって、どうでもいい。部活がなくなることがあっても、絵が描けなくなってもシンが生きていくことには何の支障もない。
「別にカヤちゃんたちだけでやればいいじゃん……」
ここからでも感じ取れるくらい楽しそうな火也の姿をもう一度確認して、シンは陽射しを避けるためにカーテンを閉めた。




