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文化系男子部  作者: 華由
第四章 三人寄れば文殊の知恵
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「え、それって本当? 二人以上の新入部員を確保と、廃部候補の部活動と協力して作品を一つ作ることって……」

 火也は携帯電話の先で顧問の先生が言ったことを復唱した。

 信じられないと言うように訊くと、電話の先で顧問の先生が「嘘ついてどうする?」と面倒臭そうに答えた。そして語尾に「春休み終わるまでに部室を片付けるように」と加えると、電話は一方的に切られた。

 電話が繋がらない時に流れる特有の擬音が応答すらさせてくれず、火也は床へ向けてだらりと腕を伸ばした。落としそうになったからか、それとも別の意図があってか、火也はぎゅっと携帯電話を握る。

「海君とシンちゃんは来ない、水城君は協力してくれない」

 言葉にしてはいけないことを口にして、火也は部屋の壁にもたれかかった。その足元には手描きの楽譜と手書きの歌詞が散らばっている。先程の電話が来るまでは絵が描けないなら他の何かをしようと、ゲーム制作に使うサウンドと歌を考えていた。だがその気力もなくなりそうだ。

 日野は大丈夫だと言った。だから火也もそう思おうとした。でも思いは容易く、脆い。ちょっとしたことですぐに壊れる、たった一つの言葉で、たった一度の行動で。それはまだ十六年しか生きていない火也に苦痛を与える。

 顧問の先生ですら廃部になることを嫌だと言ってくれない。むしろ、喜んでいるようにも見える。協力もしてくれない。ただ、廃部になることを確信したように部室の掃除を要求してくるだけ。

 このままでは、本当に廃部になってしまう。軽音部と掲げられたプレートを奪われて、部室がなくなる。あの学校で火也が唯一、大事だと思っている場所。どんなに抗うことになってもなくしたくないと思ったところ。シン――火也にとっての初めての友人――と出会った場所。女々しいとか、気持ち悪いとか言う人もいる、でも火也にとっては大切な思い出なのだ。

 ――あの部室は。

 火也は胸の苦しみによりあふれ出す雫を耐えて、握っていた携帯電話を操作した。画面に〝シンちゃん〟と表示される。火也はそのまま通話ボタンを押して耳に近づける。

 これは最後の賭けだ。これでシンが出てくれなければ、もし否定されればすべてが終わりとなる。

 もどかしく耳に響く呼び出しコールが五回鳴り、六回目となる寸前で「……はい」と大人しめの声が携帯電話のスピーカーから聞こえた。

「良かった、出てくれて」

 正直、無視されたらどうしようかと思っていた。それこそ、心が折れたかもしれない。何も答えないシン。でもそれでいい。火也は話を続ける。

「メール見てくれた?」

 火也が訊くとシンは「うん」と小さく言った。

「そっか。……あー、えっと。この間はごめん。ボクも言いすぎだった」

 シンが「……うん」とさっきよりも小さく反応する。

「一緒にゲーム作ろうよ。ボク、上手くキャラデザ描けなくて、やっぱりシンちゃんが描いてよ。ボクには無理だから」

 廃部にならないための条件を口にしてはいけない。それは卑怯だと思うから。火也がそう自分に言い聞かせていると、シンが「カヤちゃんは廃部になるのが嫌なの?」とやっと文になった声を聞かせた。久しぶりの会話。火也は即座に言葉を返す。

「イヤだよ。……シンちゃんは?」

 後方の言葉が少し震えそうになった。でも泣かないし、声も震わせない。何のプライドかは分からないが、男として嫌だと思うので、きっと男のプライドというやつなのだろう。

 火也はじっと答えを待った。しかしシンから返ってきたのは「ごめん、飯だから。切るわ」という言葉だった。

「そっ、か。じゃあ、またね!」

 できるだけ元気よく電話を切ると、火也はその場に座った。

 解答に困った時、シンは〝何かするから、またね〟と電話を切る。まだ一年しか一緒にいないが、その辺りは理解している。だから彼はさっきの質問に対して、困ったのだと火也は把握した。

 困ったということは肯定も否定もできないということ。もしかしたら一緒に作業できるかもしれない。そう火也は思った。はっきりとした性格を持つ彼を思えば、決められないということはどちらにもなる可能性があるということを示す。

 ――まだ終わってない。

 火也は床に散らばった楽譜と歌詞を手に取って、そっと胸に抱きしめる。そして大丈夫と自らを温かく励ました。


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