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魔法使いの世。
これは、ある4人の魔法使いの物語の一部である。
村で今日も幼い二人は飽きることなく仲良く遊んでいた。
シャーナとソニア。
端から見れば、元気いっぱいのシャーナが、大人しいソニアを引っ張って遊びに連れているように見える。
しかし二人ともそれでよかった。
シャーナもソニアも楽しかった。
けれど周りの目はそうは映らないらしい。
二人が歩いていると、前方にいつもソニアをいじめてくる男子が3、4人立っていた。
シャーナはソニアと繋いでいる手を強めに握ると、無視して通りすぎようとする。
しかし、男子たちはそんな二人を見てニタニタしながら嘲笑った。
「見ろよ!ソニアだぜ?あいつ あれから全く別人になってこえぇよな!」
「泣きも笑いもしなくなったし。シャーナのお人形じゃね?」
「何考えてるかわかんないし、気持ちわりぃ」
わざとなのだろう、二人に聞こえるように言ってきた。
ソニアはチラッと男子を見ただけで無表情のまま前を向いてシャーナに引っ張っられて歩く。
シャーナは顔を伏せて、聞こえないふりして早歩きで通りすぎようとしていた。
「死ねばいいのに」
しかし、とうとう耐えられず、シャーナは足を止めソニアの手を離すと、男子に突っ掛かっていった。
「うっせーんだよ!何も知らないくせにソニアの悪口言うな!」
「うわー!」
「逃げろー!」
シャーナは男子に負けたことがない。
いつもソニアがいじめられているところを見ると、直ぐさま駆け付け男子を倒す。
ソニアのヒーローだった。
泣いているソニアを励ますと、いつも「ありがとう」と笑顔になる。
シャーナはソニアの無邪気な笑顔が好きだった。
「覚えてろよー!」
「その捨て台詞聞き飽きたわ!な?ソニア」
男子を倒し追い払い、いつものようにソニアを見た。
けれどソニアは泣きもせず、笑いもしない。
無表情のままだった。
いつもだったら男子の酷い悪口にすぐ泣くのに、今は何もなかったかのようにシャーナをただ見つめる。
「ソニア……」
シャーナはショックを受けていた。
シャーナはどんなになってもソニアと友達でいる自信はあったが、ソニアが変わってしまった事実を改めて実感した。
「ごめんね」
シャーナが悲しそうな表情をしたのだろう、ソニアが何か感じ謝ってきた。
シャーナは謝れてもちっとも嬉しくなかった。
「なんで謝るの?」
「分からない」
「あたしがなんで悲しんでるのか分かるの?」
「……分からない」
「……」
よく分からないのに謝ってるのはなんでだろう。
シャーナはソニアが分からない。
ソニアはシャーナの顔色を覗う。感情がまた顔に出たらしい。
ソニアは辺りを見渡すと道端に落ちている花を一つ摘んだ。
突然の行動にシャーナは怪訝な表情を浮かべる。
ソニアは花をシャーナに差し出した。
シャーナは花を見つめる。どこにでも咲いている白い花だった。雑草と呼んでもいいくらいに。
「え?」
「花」
「知ってるけど」
「シャーナには白が合う」
「は?」
「あげる」
「あ、ありがとう……」
「元気出た?」
「…………うん」
「よかった」
無表情で淡々と花をプレゼントされた。
彼女なりにシャーナを元気づけたらしい。
嬉しいのは嬉しいのだがシャーナは戸惑った。
ソニアは本当に自分が元気出たと思って、喜んでいるのだろうか。
口調や表情には一切出てないのに、よかったと思っているのだろうか。
「……本当に思ってる?」
「うん」
「……分かった」
思っているらしい。
無表情で感情が殆どなくなったが、ソニアも喜怒哀楽がまだあることが分かりシャーナは嬉しくなった。