プロローグ
『world communication』
現代VRMMOゲームを上げろと言われれば、十人に九人は票を入れるだろう、発売から三年で"全世界最大"ユーザー数を誇るまでになった人気ゲームである。
しかしこのゲームを説明しろと訪ねられた場合、正確に説明できる人は少ない。何故ならこのゲームは超多目的ゲームであり、楽しみ方や遊び方はそれこそ星の数ほどあるからだ。
まず、このゲームをプレイするにはゲーム内に存在する『コミュニティ』に最低一つは入らなければならない。
これは大前提であり、初プレイした者でも一週間『初心者』と言うコミュニティに入っている。 『コミュニティ』の種類は幾多とあり、総数は不明。代表的なものは『国家』『家族』『学校』などゲーム製作者が作ったものや、プレイヤー達が集まって総合AIに申請を出して作ったものまであるのだが、プレイヤーが増えるたびに『コミュニティ』も増えていくのだ。
プレイヤーは『コミュニティ』に入る事にさまざまな恩恵や補正を受け、世界に跋扈するモンスターを退治してRPGとして楽しむもよし、『コミュニティ』間で戦略対戦するもよし。他にもNPCやプレイヤー同士で疑似恋愛や、モンスターを使役して育成ゲームとしても楽しめるし、またはゲーム内にある学校で勉学に励んだり現実では無理だった職業にゲーム内で就職も出来る。
これほど幅広いプレイスタイルを誇るゲームであるが、しかしそれだけではいくら全自動翻訳機能がついていたとしても、たった三年で"全世界"でブームにはならなかっただろう。
その理由には、発売前からある『world communication』に関する二つの噂があった。
――――曰く。このゲームは完全に個人が作った。
――――曰く。このゲームは現代科学を越えている。
VR系統のゲームが一般社会に浸透してようやく十八年。だが、VR技術を搭載したゲームのクオリティは、いまなお『world communication』以外は一世代古いゲームの方が良いと言われる程に酷いものだった。ネット評価など、このゲームが出るまでは底辺に有りすぎて逆に話題性トップに出るほどであった。
ゲーム機の性能にソフト面の技術が追い付いていなかったのだ。荒いグラフィックにノイズ混じりの音声。定型文以外には反応しないAIなど、上げればきりがないほどに――――悪い言い方をするなら、システムが雑なのだ。
しかしこの『world communication』は、裸眼よりも色彩鮮やかで見通しの良い風景に、肉声と何らかわりない明瞭で綺麗な、訛り方まで正確に発音するNPCやプレイヤーの言動、行動で幾億万にも渡る多岐な反応を示すAIに痛覚を大幅カットした上で確かに感じる感覚気管。既存するどんな企業や会社でも到底実現不可能な、解析しようと理解できないオーバーテクノロジーの域までこのゲームはリアルを再現している。
否、リアルを越えている。
そして、こんなゲームを作ったのがたった一人の個人だと噂されれば、なるほど。確かに連日テレビで特集が組まれるくらいに話題性がある。
現に噂だけで発売前の『world communication』をプレイするためにVR機材を買い揃えた者達もいる訳だから、それだけで今までのVRゲームのクオリティと『world communication』の期待度は知れるはずだ。
だがこれだけ話題になり、発売から三年経った今でも、このゲームを作った製作者は不明のままだった。
発売日当日から、いや。速いところでは噂が流れた時点であらゆる会社や組織、果てには利益を求めた国家が総力を上げて捜索するも、手掛かりは一切無かった。発注手続きや公的記録も宛にならず、まるで雲を掴もうとするように捜索手立てが無い状態なのだ。
捜索から二年経った頃には、実はそんな個人など居らず、何処かの国が密かに研究している科学兵器の産物だとか、企業が天才プログラマーを匿って利益を搾り取っているだとか適当な噂が流れる中、『world communication』に新たな噂が広まり初めた。
――――曰く。システム的に最低一つ入っていなければならないこのゲームで、一切『コミュニティ』に入っていないプレイヤーがいる、と。
さてはて初めましてー、どうも作者です。
最初に注意するなら、この作品は設定やあらすじの割に結構シリアスになります。
更にヤンデレやハーレム、時々最強設定などもあるので、苦手な方はこの分を呼んだ時点でバックしてくださいです。
では、この作品が読者の皆様の暇潰し程度になったら良いなと思いながら、本編へどうぞ。