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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
ナンバーズ・シックス
7/406

the sixth girl

 ―――通り魔事件が解決した後の土曜日の午前中。

 特にする事もなく、今週のドタバタで疲れ切っていた俺は部屋でゆっくりする予定だった……のだが。


 コン、コン。


「ねえ、少しいいかしら?」

「……いいけど。」


 ドアをノックして俺の部屋に入ってきたのはミレーユ。

 見た目は人間の美少女なのだが、その正体は地獄の悪魔であり、俺が以前命を落としかけたのを助けてくれたのだ。

 その見返りとして契約を交わす事になり、今週はそのミッションを果たすため俺達は奔走していたわけだが。


「で? 一体どうしたんだ?」

「実はこの前から、学校の友達に部活入らないかって言われているのだけどどうしたらいいと思う?」


 部活、ねぇ。

「入ってもいいぞ」と言いたいところだが、部によっては放課後だけでなく土日も活動がある。

 そういう部活動に入られてしまうと、今後のミッションに支障をきたす事は明白だ。


「入るのは構わないが、ミッションはどうするんだ?」

「そこなのよね。一応断ってはいるんだけど、何処の部活にも入っていない状態だから色んな人からの誘いが多くて。」


 俺も部活に入ってないけど、誘われた事なんて一度もないぞ?

 ……なんか自分でも虚しくなってきた。

 コイツはトンチンカンなところもあるが、見た目や運動神経は文句なしだから人気者なんだろうな。


「中でもD組の六角ろっかく 朱音あかねっていう子がしつこいの。彼女は陸上部員なんだけど、私が体育の時間の短距離走で同じクラスの陸上部レギュラーの子に勝った事が部内で話題になってるそうでね。そこで次期部長候補と言われている彼女が私に目をつけたそうよ。」

「なるほど。で、それをこうして相談してきたって事は、俺に何とかしてくれって事なのか?」

「ええ。何かいい方法がないかしら?」

「そう言われてもねぇ……。」


 自分で言うのもなんだが、俺は今まで女の子とあまり縁がない。

 せいぜい幼馴染の美鈴、玲香の二人+ミレーユくらいだ。

 その幼馴染二人も今はもう引っ越してしまい、それ以来ずっと会えないままだしな。

 なので、そういう経験が不足している俺では女の子からの誘いを上手くやり過ごすような手法は思いつかない。

 いや、でも……今回の場合なら、なくはないか。

 割とありがちな方法ではあるけど。


「う~ん……じゃあさ、今度その六角っていう子とお前で勝負してみるっていうのはどうだ?」

「勝負? 何を競うの?」

「足の速さを、に決まってるだろ!」


 授業中の様子を見る限りでもおそらく頭は良いはずなんだが、どうしてこう肝心な所が抜けているのか。

 気を取り直して、俺は更に続ける。


「今度、放課後にでもお前と六角っていう子で短距離走の勝負をするんだ。」

「貴方も知っていると思うけど、悪魔の身体能力は人間より高いから私が勝ってしまうわよ? 勝負して勝てばいいの?」

「違う違う。わざと負けるんだよ。まあ、あまりあからさまに手を抜くと前に授業でレギュラーの子に勝った事を突っ込まれてしまうから、力の抜き加減は慎重にしないといけないけどな。お前が上手に負ける事で、相手に『あのレギュラーの子に勝ったのはまぐれだった』と思わせる事が出来れば、勧誘もなくなるはずだ。」


 俺の提案を聞いて、暫く考え込んでいた様子のミレーユだったが


「そうね。他にいい方法も思いつかないし……それでいきましょう。」


 と、一応は納得してくれたようだった。


「よし、これで相談は終わりだな! 俺は疲れてるからこの土日はゆっくり……」


 そう言いかけたのを遮って、ミレーユが話題を切り替えてきた。


「じゃあこれから、一緒に街に出ない?」

「俺、この土日はゆっくりしたいんだけど。」

「でも、私の生活用品とかでまだ足りない物あるし。」


 この前友達と買い物行った時にまとめて買わなかったのかよ。

 「ハァ……」とため息をつき


「わかったよ。もうすぐお昼だし、昼食済ませて午後から出る、って事でいいな? あと、明日の日曜日こそはゆっくりさせてくれ。それが条件だ。」

「OKよ。じゃあ、午後からはお願いね。」


 そう言って、ミレーユは俺の部屋を出て行った。

 やれやれ……俺の休日はどうやら明日にお預けのようだ。


 昼食の後、それぞれ自分の部屋に戻って支度をしてから、リビングで合流する事になった。

 先に準備を済ませて俺がリビングで待っていると、ミレーユが入ってきた。


「お待たせ。あの、この服……どう? 似合うかしら?」


 若干顔を赤らめつつ俺に尋ねるミレーユ。

 髪型はいつものポニーテールだが、今日の服装は初めて見るものだ。

 黒い服の上に薄手の上着を羽織り、短めの白いスカートを穿いている。

 正直、とても似合っていて可愛かった。


「あ、ああ……に、似合ってる、ぞ。」


 しどろもどろになりながら俺がそう答えると


「ありがとう。」


 ミレーユは顔を赤らめたまま微笑み、そう返したのだった。


 ――――――――――――――――――


 街に出た俺達は、生活用品が置いてある店などを回った。

 無表情に近い顔をしているが機嫌の良さそうなミレーユとは対照的に、俺は居心地が悪い思いをしていた。

 というのも


「あの金髪の子すげぇ可愛くね?」

「隣の男は別にそこまでかっこいい訳でもないのに、何でなんだよ!」


 ……などと、かなり目立っているからだ。

 やっぱり来ない方が良かったんじゃないかと俺が若干後悔し始めた時、ミレーユが突然俺の腕に自分の腕を絡ませて密着してきた。


「お、おい! 急に何やってんだよ!」

「い、いいじゃない。だってその……きょ、今日はデートなんだし!」

「デ、デート!?」


 いきなり大胆な言動を取ったミレーユに、俺はどぎまぎしつつも突っ込むが、どうやら俺から離れてくれる気配はなさそうだ。

 俺達が密着したのと同時に、周囲が一層ざわついたのがわかる。

 どうしたものか……いっそ開き直って、今日はこのまま買い物するしかないのか。

 そう思ったその時。


「あれ? ミレーユさん?」


 ふと、ミレーユに向かって声がかけられた。

「なんだ?」と思い、声のした方へ俺達が振り返ると、一人の少女が立っている。

 茶髪の少し長めのツインテールに、クリッとした目が特徴的な童顔。

 身長は150半ば程度といったところだろうか。

 服装は、白っぽいパーカーにミレーユと同じくらい短めのスカート。

 全体的にスレンダーなのはミレーユと同じだが、ミレーユと違って体のとある部分もスレンダー……壁というべきか崖というべきか。

 しかしながら、総合的にみれば充分に美少女だといえる、愛らしい容姿の持ち主だった。


「六角……さん? どうしてここに?」


 六角って……この子が今朝話してた六角 朱音か!

 そう思い至った俺を横目に、ミレーユと六角の話は続く。


「本当に偶然だね。あたし、今日は一人で買い物に出てきてたんだ。ミレーユさんは、もしかして噂の婚約者とデート中だったの?」

「え、ええ、そうよ。」


「噂の婚約者」って……よそのクラスにまで転校初日にミレーユがやらかしたあのデタラメ発言は広まっているのか。

 軽く鬱になりそうな気分に俺が浸っていると、そこで六角は俺の方へ目を向け


「初めまして。あたしはD組、陸上部所属の六角 朱音! これからミレーユさんと仲良くさせてもらう予定だから、よろしくね!」


 元気の良さそうな笑顔と共に、俺に挨拶と自己紹介をしてきた。

 というかセリフの後半部分から察するに、本当にミレーユを勧誘する気バリバリのようだな。


「こちらこそ初めまして。俺はA組の一ノ瀬 和也だ。あと俺はコイツの婚約者でも何でもないから誤解しないでくれ。ところで、さっきの『ミレーユと仲良くさせてもらう予定』というのは、陸上部の勧誘の事でいいんだよな?」


 こちらも名乗り返しつつ、誤解も解きつつ、六角にそう尋ねてみる。


「ええ~っ! 一ノ瀬君って婚約者じゃなかったの!?」

「だから違うと言ってるだろ! それよりも、勧誘の事についてなんだが。」

「何?」

「その……ミレーユも困ってるみたいだし、出来れば諦めてくれないか?」


 まあそんなあっさり引くわけはないよなと思いながらも聞いてみるが、案の定


「諦められるわけないでしょ! せっかく足速いのに陸上やらないなんて勿体ないじゃない! ただでさえ、うちの部は他の学校に比べて弱小とか言われてるんだから、どうしてもミレーユさんは必要なの!」


 ……うん、そう返してくると思ってた。

 仕方ないなと思いミレーユの方をちらりと見ると、ミレーユは俺を見てコクリと頷き


「六角さん。残念だけど、私そんなに足速くないのよ。この前クラスの陸上部員に勝ったのだってまぐれみたいなものだし。どうしてもというなら、私と勝負してくれない? 貴方が勝ったら、私が陸上部に入ってあげるわ。」


 今朝立てた作戦通り、ミレーユは六角に入部を賭けて勝負を持ちかける……ってあれ?

 作戦通り?

 いや、待て待て待て。

 今朝の作戦ではミレーユはわざと負けて、「実は足速くないんだ」というのが本当だとアピールして諦めてもらうという算段だったはずだ。

 今ミレーユが提案した条件だと六角に負けたら入部しないといけなくなるし、勝った場合でも余計に「足速い」アピールをしてしまう結果になって勧誘がしつこくなるだけでは?

 何やってんだよこのポンコツ悪魔は!

 早く訂正しないと!

 そう思い、即座に突っ込みを入れようとするが一歩遅かった。


「わかったわ。じゃあ明後日の月曜日の放課後にうちの部に来て。そこで勝負しましょ? 言っとくけど、あたし絶対負けないからね!」

「望むところよ。」


 ミレーユと六角がお互いに宣戦布告した後、「じゃあね」と言い残して六角はこの場を去って行った。

 ああ……もうダメだ。

 本当にどうするんだよ、これ。


 ――――――――――――――――――


 その後、俺達は何とか無事に買い物を済ませる事が出来た。

 さっきの件について、ミレーユに「どうするんだよこれ!」と問い詰めてみたのだが、俺が指摘するまで本人は何が悪かったか全くわかっていなかったようだ。

 ミレーユが勝った場合の条件を設定していなかったので、「ミレーユが勝ったら勧誘を諦めてもらう」という条件を追加すれば問題ないのだが……後出しの条件追加を六角は認めてくれるだろうか?

 もし仮に条件追加を認めてくれて、ミレーユが無事賭けに勝利したとしても、大人しく条件に従ってくれるだろうか?

 ―――いや、悩んでいてもしょうがないか。

 翌日の日曜日、「ゆっくりしたい」という俺の要望通りにミレーユは静かにしていたので、この件はひとまず置いておきゆっくり休む事にしたのだった。

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