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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
ファースト・ミッション
5/406

special ability

 警察を出てから家に帰り、玄関の扉を開けると変な臭いが漂ってきた。

 なんだこの臭い?

 何か焦がしたような……まさか!?


 急いで台所に向かうと、案の定、先に帰っていたミレーユがいた。


「何やってるんだお前!?」

「見てわからないのかしら? 料理に決まってるじゃない。」

「料理って……今作ってるその真っ黒なモノの事を指しているのか?」

「他に何があるの?」


 こいつ……昨日「料理できない」って言ってた癖に何やってるんだよ。

 思わず呆れてしまい、どうしたものか途方に暮れていると


「もしかして……迷惑かけたかしら?」

「え?」


 ミレーユの表情がいつもの仏頂面から悲しそうな表情になった。


「昨日貴方が料理を作ってくれたから……私も貴方のために作れるようになりたいと思って、今日出来た友達と一緒に料理の本を買いに行ったの。」

「それで、その本に書いてあった料理を作ろうとしたって事か?」


 こくりと頷くミレーユ。

 いつもと違って妙にしおらしい態度になっているものだから、なんかこっちが罪悪感を感じるよ。

 仕方ないな……。


「わかったよ。じゃあ今日の夕食はそれを食べよう。」

「えっ? 食べてくれるの?」

「ああ。せっかく作ってくれたんだし、そのくらい食べるよ。」


 そう言うと、ミレーユの表情はさっきまでの悲しそうな顔からぱあっと明るい笑顔に変わった。

 くそっ……やっぱ可愛いな、コイツ。

 調子狂うよホントに。

 そうして結局、二人でミレーユが作ってくれた夕食を食べたのだった。


 が、その日の夜中、俺はお腹を壊してトイレに駆け込むハメになった。

 やっぱり食べなきゃ良かった……つか同じモノを食べたのに、何であのポンコツ悪魔は平気なんだよ!


 ――――――――――――――――――


 翌日、俺は朝から学校の机にまたもや突っ伏していた。

 理由はもちろん、お腹を壊したせいで夜中に目が覚めてしまい、あまり眠れなかったためだ。

 あいつが来てから本当にロクな事がないな……。

 そう心の中で毒づいていると、友人の宮下が話しかけてきた。


「よう、一ノ瀬! どうしたんだ朝から?」

「昨日あまり眠れなかったんだよ。少し静かにしといてくれ。」

「ふぅん……。せっかく面白い情報持ってきてやったのにいいのか?」

「面白い情報?」


 俺は顔を上げると、宮下に続きを話すように促した。


「ああ。昨日お前が言ってた例の通り魔だけどな、その正体はどうやらここらの周辺住民である可能性が高いらしいぜ?」

「……知ってる。昨日聞いた。」

「そうなのか? ああ、そういや昨日警察行くって言ってたもんな。そこで聞いてきたのか。」

「ああ。」


 期待外れな情報を聞かされてがっくりうなだれた俺を見ても、宮下はめげずに更に切り出した。


「だが情報はもう一つあるぜ! 犯人の見た目なんだが、20代前半から中盤くらいの若い男性らしいぞ。あと、今伝えた情報は絶対に誰にも言うなよ!」


 俺はそれを聞いて「え?」と疑問を浮かべる。

 確か昨日応対してくれた警官の一人である住田さんは、こう言っていたはずだ。

「現場に残された犯人の物と思しき遺留物から犯人は学生ではないか」と。

 まあ学生といっても、大学生や大学院生なら20代前半から中盤くらいの人もいるし、そもそも人の見た目と年齢が多少ズレているなんて事は珍しくないが。

 そういえば、ミレーユって一体いくつなんだ?

 見た目は俺達と同い年くらいだけど、悪魔だから見た目と年齢が一致してない可能性の方が高そうだな。

 いや、そんな事は今はどうでもいいか。

 それよりも。


「何でそんな情報をお前が知ってるんだ? 昨日俺が情報を聞き出した時は警察の人に『他言しないように』って言われたのに。」

「ああ、言ってなかったっけか? 俺のオヤジ警察官なんだよ。そんで、お前が通り魔に襲われたって話をしたら『万が一のために用心するように言ってやれ』っつー事で教えてくれたんだよ。」


 そうなのか……それは意外だな。

 と思いつつ、俺は昨日の住田さんから教えてもらった情報と今の情報の違いが気になっていた。

 住田さんと同じく警察官である宮下のオヤジさんの情報が正しいとすれば、住田さんは俺に嘘を教えた事になる。

 どうしてそんな事をしたんだ?

 やっぱり本当の事を教えると守秘義務の絡みで色々とマズいから?

 それとも他に何か……?

 そういや、昨日住田さんの話を聞いている時に感じた妙な感覚は、一体何だったんだ?


 宮下から新しい情報を教えてもらったにも関わらず、謎は余計に深まるばかりだった。


 ――――――――――――――――――


 放課後、俺はミレーユと一緒に帰宅しながら、考えていた事を話してみた。

(昼食中は他の生徒の目があるためこの話題は出せなかった)


「そうね……私が気になったのは、貴方が感じたというその妙な感覚の方ね。」

「そっち? 今回の件に、それはどう考えても関係ないと思うが。」

「ええ。もしかしたらだけど、貴方の能力が発動していたのかも。」

「能力? ……ああ、悪魔と契約したら手に入るっていうアレか。」


 ここで念のためおさらいとして説明しておくと、悪魔と契約した人間は特別な能力を1つ与えられる。

 そしてこの能力は契約した悪魔と人間の相性等の複数の要素によって決まるため、実際に発動してみるまで契約した人間にも、悪魔にすら能力の詳細はわからない。

 だが発動の仕方についても


 ①自らの意思でいつでも発動可能なもの

 ②特定の発動条件を満たしている場合に、自らの意思とは無関係に自動で発動するもの

 ③特定の発動条件を満たしている場合のみ、自らの意思で発動可能なもの


 これら3種類の方法があり、能力によってどの発動方法が適用されるのかが決まっている。

 俺は①の方法を試したが能力の発動が出来ず、残る2つはいずれも不明な発動条件がある。

 そのため、契約して3日目なのに未だに自分の能力について全くわからない状態が続いていたのだ。

 そうこう話しているうちに家に到着したので、そこで話を一旦中断し、部屋にそれぞれ荷物を置いてから話の続きを再開した。


「その妙な感覚がした時、何か気がついた事はない? おそらくそれが発動条件じゃないかしら。」

「気がついた事ねぇ……。」


 俺は頭を捻るが、これといったものは思い浮かばない。

 少なくとも俺の意思で発動したわけではないので、発動パターンはさっき紹介した3つのうちの②だという事くらいしかわからないな。


「何も思いつかないな。強いて言うなら……宮下の話を本当と仮定した上でだが、変な感覚がしたのは俺が嘘の話を聞かされていた時だったって事くらいだが。」

「嘘の話?」


 そう言って考え込む素振りを見せるミレーユ。

 暫くして急にハッとした顔になった後、真剣な顔になって話しかけてきた。


「ねえ。1つ、聞いてほしいのだけど。」

「何?」

「私、本当はね……悪魔じゃなくて、人間なの。」

「は?」


 急に何言い出すんだコイツ?

 そう思った瞬間だった。


 あれ?

 頭の中で何か響いたような……って、この感覚は!


 同じだ。

 あの時感じたモノと。

 でも、どうして?


 戸惑う俺の様子を見て、ミレーユは「やはり」という表情で口を開いた。


「どうやらその様子だと、ビンゴみたいね。まさかとは思ったけど……。」

「どういう事だ?」


 ミレーユが何を言いたいのかわからず、尋ねてみる。


「貴方が妙な感覚を感じたのは、昨日も、そして今回も、相手が貴方に嘘をついた時。つまり……それが貴方の能力。『嘘を見抜く』能力って事ね。」

「嘘を見抜く能力?」

「そうよ。でもその能力は……私の知る限り、地獄の閻魔様以外に持っている者はいないわ。閻魔様は罪人に適正な審判を下すため、その能力を持っているの。もちろん、貴方のより強力なモノよ。嘘をついたかだけじゃなくて嘘の詳細な内容まで見抜けるモノ。でも、それでも、こんな能力が使える者は他に聞いた事がないわ……。」


 ようやく明らかになった俺の能力の実態を前に、ミレーユはかなり驚いている様子だった。

 他の悪魔や、悪魔と契約した人間がどんな能力を持っているのかなんて知らない俺には、これが凄い能力なのかどうかなんてわからないけど。


「そういや、さっきの話聞いた限りだと悪魔もやっぱり特殊能力持ってるんだよな? お前の能力って何なんだ?」

「契約して3日経って、ようやく聞いてくれたのね……。まあいいわ。教えてあげる。」


 そう言ってミレーユは、彼女の能力について教えてくれた。


「と言っても、2つとも既に貴方は知っているはずなのだけど。」

「え?」

「1つは瀕死の状態だった貴方を回復させた『ヒーリング』。強力だけど使用制限が厳しくて、1日1回しか使えないわ。もう1つは、特定の物や場所を対象にする事で、対象となった物の過去を5分前まで遡って見れる能力よ。こっちは特に制限はないわ。」

「ああ、最初に会った時に説明してくれた能力か。」


 ……ってか、ヒーリングはともかくとして、最初に説明してくれたもう1つのアレはお前の能力だったのかよ。

 あの時心の中でショボいなと思ってたけど、口に出してたら危なかったな。

 そう思いながら、更に聞いてみた。


「他には? その2つだけなのか?」

「ええ、今のところはね。成長して『覚醒』した悪魔は最大3つの能力を使えるようになったり、既存の能力の一部がパワーアップしたりするのだけど、私はまだそこまで達していないわ。」

「なるほどね。しかし、俺だけじゃなくお前も、攻撃系の能力はないんだな。」

「前にも言ったでしょう? 基本的に殺傷力があるような類の能力は発生しない、って。そういった能力は使用者が意図しなくても、無暗に人や物を傷つける可能性があるから、危険なのよ。万が一、無関係な人や物を巻き込んで、能力の使用者自身が罪を犯すような事になったら本末転倒でしょう?」


 確かに、それはそうだ。

 ニュースで取り上げられてる事件なんかでも、「正当防衛だ!」という言い訳が通じないような過剰な攻撃が話題にされる事は時々ある。

 例えば警察官が犯人に対して拳銃を使用した場合なんかがわかりやすいだろうか。

 そうせざるを得ない状況だったとしても、後でマスコミやら何やらが突っ込んでくる事は少なくない。

 つまりは非常にデリケートな問題だと言えるわけだ。

 俺達は罪人の減少・撲滅を目標として活動するのだから、そういった愚を犯すような事は避けなければならない。

 実力を行使しないで済むのなら、それに越した事はないのだろう。


「もっとも、あくまで『基本的には』だから、ごく稀にだけどそういった能力の持ち主はいるみたい。ただし、非常に厳しい発動条件などの制約が課せられるから、結局はあまり使えるモノとは言えないらしいけどね。」

「そういう能力がない俺達は、犯人が武器とか持ってたらどうやって取り押さえればいいんだ?」

「それは大丈夫よ。悪魔は人間よりも身体能力が高いの。現世に出てきてる悪魔はみんな、プロの格闘家の人間くらい簡単に倒せるわ。」


 攻撃系の能力無しでもそんなに強いのかよ……。

 それなら確かに、普通の相手ならどうって事なさそうだ。

 むしろやり過ぎないか心配なくらいだが。

 とくに俺のパートナーはポンコツ悪魔だしな。


 ……と、そこで随分話が逸れてしまった事に気付いた俺は、そろそろ話を戻す事にした。


「ところで、警察の人が嘘を言っていた件についてなんだが、どう思う?」

「そうね……。色々考えられる事はあるけど、警察内部に犯人がいるのかも。」

「お前もそう思うのか。でも、どうやって犯人を捕まえる? 通り魔の正体が警察官なら、面倒だぞ。」

「作戦を考えましょう。」


 そう言って、俺とミレーユはこれからの事について話し合った。

 とはいえ、明日も学校があるのであまり遅くならないうちに話をまとめる事にしたのだが……。

 結局その日、俺達が眠りについたのは日付が変わった後だった。


 今度は……こっちから仕掛けるぞ!

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