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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
課外活動
44/406

課外活動、終了

 帰りのバスが学校に無事到着した後、先生から改めて簡単に連絡事項が伝えられ、解散の流れとなった。


 明日は土曜日だし、今日の疲れを癒してゆっくりしようかな……。

 そんな事を考えながら、俺の左にミレーユ、右にコトネという並びになって俺達は帰路を歩いていた。


 しかし、せっかく3人一緒に帰っているというのに、いつものような雑談などは全くない。

 というのも、俺の左隣を歩いているミレーユが時折俺やコトネに向かってプレッシャーを放っているからだ。

 俺も多少気まずい思いはしているが、それ以上にコトネが震え上がっていた。

 元々気の弱い彼女にとって、ミレーユからの殺気のこもった視線はとても怖いのだろう。


「なあ、ミレーユ。いい加減、機嫌を直してくれないか?」

「……。」


 俺がそう言うと、ミレーユは視線をプイッと背けてしまった。

 こちらの言い分を完全に無視された格好だ。

 先ほどから何度か同じやり取りを繰り返しているのだが、状況は変わらない。

 どうやら相当怒っているようだ。


「はぁ……。」


 どうすればコイツは機嫌を直してくれるんだろうか。

 コトネの事とか色々話したい事があるのに、こんな状況じゃ家に帰った後もろくに話が出来ないぞ……。


「だ、大丈夫ですか、和也さん。」


 俺がため息をついたのを見て、気を遣ってくれたのかコトネが話しかけてきた。


「ああ、大丈夫だよ。心配させてごめんな。」

「い、いえ……。」


 相変わらずおどおどしてはいるものの、コトネは少し照れたような表情をしている。

 そんな彼女を見て俺が思わず苦笑したところで、コトネの反対側からまたも凄まじい殺気が放たれた。

 コトネがびくっとしたのと同時に俺もミレーユの方を振り返ると、こちらを見ていたミレーユは慌てて目を背けた。


 全く、さっきから何なんだよコイツは……。

 またため息をつきそうになったのをグッと堪え、俺は視線を前に戻した。

 自宅はもう目と鼻の先だ。

 それから俺達は無言のまま、家まで帰り着いたのだった。


 ――――――――――――――――――


 家へ到着した後、俺は早速夕食の準備に取り掛かる事にした。

 ミレーユは帰るなり自分の部屋にこもってしまい、コトネはリビングのソファに座りながらそわそわしている。


「何か食べたい物の希望とかはあるか?」


 台所に入る前に、俺はコトネにそう尋ねた。

 今日からコトネもこの家に住む事になるわけだし、その歓迎会の意味も込めて彼女の希望を聞こうと思ったのだ。


「と、特に希望はないです。」

「そうか? じゃあ逆に、苦手な食べ物とかはある?」

「え、えっと、苦い物以外なら……。」

「苦い物以外ね、わかった。これから夕食作るから、適当にテレビやそこらの雑誌でも読みながら待っててくれ。今後の事は夕食の時にミレーユも交えて話そう。」


 ミレーユの名前を出した途端、コトネの顔が引き攣った。


 なんかアイツ、早速嫌われてるっぽいぞ。

 まあ初対面から第一印象が最悪だったし、わからない事もない。

 とはいえ、これから一緒に住むのにずっとこのままというわけにもいかないしな……。

 とりあえず、夕食の時にでも何とか和解させないと。

 そんな事を考えながら、俺は台所に入って夕食を作り始めた。


 それから1時間半ほどかかって、夕食が出来上がった。

 俺が食器をテーブルに並べ始めると


「あ、あの、私も手伝っていいですか?」


 コトネがソファから立ち上がってこちらに駆け寄り、お手伝いを申し出てくれた。


「そうだな……じゃあ、頼めるか?」

「は、はい!」


 俺がお手伝いを頼むと、コトネは少し緊張気味に答えた。

 配膳をコトネに任せ、俺はミレーユを部屋まで呼びに行く事にした。


 部屋の前に到着すると、俺はいつも通りドアをノックして


「ミレーユ、夕食出来たぞ。」

「……はい。」


 一拍遅れて中から返事があり、少しムスッとした表情のミレーユが出て来た。


 とにかく、後でちゃんと話をして機嫌を直してもらうしかないな。

 そんな事を思いながら、俺はミレーユを連れて再びリビングに戻ったのだった。


 ――――――――――――――――――


 ミレーユを連れて来ると、俺達はそれぞれテーブルの自分の席に着いた。

 俺とミレーユはそれぞれテーブルの対面に、コトネは俺の隣の席に座った。

 コトネが俺の隣に座った時にミレーユが俺達の方を睨みつけてきたが、それは一旦無視する事にして。


「「「いただきます!」」」


 と唱和した後、俺は改めてコトネをミレーユに紹介しようと思い声をかけた。


「えっと、ミレーユ。ちょっといいか?」

「何かしら?」


 俺の隣にいるコトネをチラリと見た後、ミレーユは俺の方へと目を向けた。


「改めて、ちゃんとこの子の事を紹介しようと思ってな。この子はコトネ・キサラギ。年はお前の一つ年下で、俺の新しいパートナーとなった子だ。」

「新しい、パートナー……?」


 俺の言葉を聞いて、ミレーユが呆然とした表情でそう呟いた。


 あれ?

 なんでコイツこんなにショック受けてるような顔してるんだ?


 さっきまで俺やコトネを威圧していたミレーユは何処に行ったのやら、一転して俺に縋るような眼差しに変わった。

「どうしたんだ?」と俺が訝しげにミレーユを見つめると、ミレーユは目を少し潤ませ


「『新しいパートナー』って……それじゃあ、和也にとって私はもういらないの? この家から追い出されるの?」

「え?」

「もし私に悪いところがあるなら、ちゃんと直すようにするから。努力するから……だから、これからもここにいさせて。お願いします。」


 何やら俺の言葉を盛大に勘違いしたらしいミレーユが、涙目のまま頭を下げてお願いしてきた。


 はぁ……まったくコイツは。

 とりあえず勘違いを早く訂正してやらないと……って、待てよ?

 本人がせっかく「悪いところを直す」って言ってるんだし、これを機に問題行動を止めてもらえるようにした方がいいかもしれない。

 というか、このチャンスを逃したら次にいつこんな機会があるかわからないしな。

 騙すようで気が引けるが、俺はミレーユの勘違いに便乗する事にした。


「わかった。じゃあ……そうだな、まず1つ目。これからは無闇に他の女の子を威嚇したりしない事。最近段々ひどくなってきてるから、気を付けてくれ。」

「……はい。」

「それと2つ目。コトネとこれから仲良くする事。俺達よりも年下の子なんだから、優しくしてやってくれ。」

「はい……。」

「で、これが最後のお願いだけど、今度からは何か不満があったらその都度はっきりと言ってくれ。きちんと話し合いが出来ないと、不満があってもどうにもならないからな。俺からのお願いは以上だが、守れるか?」

「わかりました……。」


 しゅんとしながらも、ミレーユは俺からのお願いを受け入れてくれた。

 まあ、ちゃんと約束を守ってくれるという保証はないが……前から注意したかった事を言えただけでも良しとするか。


「じゃあコトネの方からも、改めて自己紹介してくれ。」

「は、はい。」


 コトネはミレーユをまっすぐと見つめ、自己紹介を始めた。


「あ、あの……私、コトネ・キサラギと申します。ミレーユさん、これからよろしくお願いします。」

「え、ええ。こちらこそよろしく。えっと、何て呼んだらいいのかしら?」

「よ、呼び捨てにしてもらっていいですよ。和也さんにもそう呼んでもらってますから……。」

「そ、そう。わかったわ。改めて、よろしく。」

「はい、お願いします。」


 コトネが頭を下げたのにつられて、ミレーユも慌てて頭を下げた。

 ミレーユの方が今やコトネ以上におどおどしていて、立場がまるで逆転したように見える。

 どうやら、さっきの事がかなり堪えたらしい。

 2人が頭を上げた後、ミレーユは俺の方を見て


「ところで、和也に聞きたいのだけど。和也はもうコトネと契約を済ませたの?」

「ああ。」

「それって、二重契約したって事よね? 不可能でないとはいえ、本当に成功したの?」

「問題ないはずだ。閻魔様もそう言ってたしな。」

「えっ? 貴方、閻魔様に会ったの!? 山の中で私達と別れた後、何があったの!?」

「えっとだな……」


 それから俺は、山の中でゲートを見つけて地獄に行った事・地獄で閻魔様に出会った事・コトネと契約してこの世界に帰って来た事を話した。

 一通り話が終わったところで、ミレーユは何やら考えているような表情になった。


「なるほどね。話は大体わかったわ。じゃあ、今度はコトネに聞きたい事があるのだけど。」

「は、はい! 何でしょうか?」

「山の中でゲートを開いたという話だったけど、そもそもどうしてそんな場所にいたの?」


 確かに、何でコトネはあんな場所にいたんだろう?

 ミレーユに言われるまで、俺はその事に全く気付いていなかった。

 俺とミレーユがコトネの方に目を向けると、コトネは少し緊張気味ながらも質問に答えた。


「わ、私、15歳を迎えてから半年以上経つのにパートナーいなかったですから……それで、パートナー探しも兼ねて、あのキャンプ場近くの道をたまたま歩いてたんです。そしたら、赤い瞳をした悪魔らしき人と途中ですれ違って……上手く言えないけど、その人は何かとても禍々しい雰囲気を纏ってて。私、思わず振り返って『あ、あの』って声かけたんですけど、そしたら急に走り出して逃げたんです。その人はとても足が速くて、途中で道を逸れてキャンプ場の方へ行ってしまって……。私も必死に追いかけたんですけど、最終的に山の中へ逃げられちゃって見失ったんです。」

「『山の中でゲートを開いてしまったのは、その場で急いで不審な悪魔の事を地獄に報告しようとしたから』という事なのね?」

「は、はい。」


 まさか、そんな事があったなんてな。

 それに、コトネが追いかけていた悪魔とやらの方も気になる。

 声をかけられただけなのに突然逃げ出すだなんて、どう考えても怪しいだろう。

 念のため、詳しい話を聞いておくべきだな。


「その悪魔の見た目とか、出会った場所とかを具体的に教えてくれないか?」

「えっと……見た目はよく思い出せないんですけど、場所は確かキャンプ場にある駐車場近くの道です。」

「駐車場近くって……もしかして、俺達が帰りに乗ったバスが停められていたところか?」

「は、はい。」

「その不審な悪魔を見つけたのは何時くらいだったかわかるか?」

「い、いえ。私、時計とか携帯とか持ってないので、詳細な時間はわからないですけど……でも、多分お昼前後だったと思います。」

「お昼前後か……。」


 俺達が高橋達と別れてから、北山さんの捜索に向かうまでの間辺りの時間になるだろうか。

 幸い、山の中で不審な人を見かけたという話は他に聞いていないので、うちの学校の先生や生徒とは会っていないと思うが。


 まさか……な。

 一瞬、最悪の想像が頭の中をよぎった。

 だが現時点ではまだ推測以上の意味を為さないだろうし、今は言う必要はないか。


 話が一段落ついたところで、この話についてはこれで終わりにして夕食の続きを再開した。

 ふと生じた不安を飲み込むように、俺は残りの料理を食べ始めたのだった。

今回のお話をもって「課外活動」編は終了となりますが、いかがでしたでしょうか?


普通に学校の課外活動の話をするのかと見せかけて、予想外の急展開に驚かれた方も多いのではないかと思います。

今回登場した「二重契約」は実はこの作品を書いた当初から構想していたものです。

二重契約を考えた当時は2人目のパートナーとしてエレナを想定していましたが、彼女には既に契約者がいるため新たにコトネをパートナーとして迎える事になったという次第です。

これからコトネがどんな活躍をしてくれるのか、そして和也が二重契約でどのようなパワーアップを果たしたのか……それは次の章辺りから少しずつ書いていけたらと思いますので、楽しみにして頂ければ嬉しいです。


では、今回はこれにて失礼させて頂きます。

これからもよろしくお願い致します。

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