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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
ナンバーズ・ファイブ
29/406

轟音

 風紀部の廃部を阻止するために生徒会室にやってきた俺達は、生徒会長達との話し合いに臨む事になった。

「よろしくお願いします」と俺達が挨拶をした後、四条先輩は


「ええ、こちらこそよろしく。じゃあ、そうね……部の活動目的は合同会議の時にも聞いたし……。合同会議の後から今までの間で、何か活動実績はあるかしら? 風紀委員会ときちんと差別化できている事を示せる実績があるなら、それを教えてほしいの。」

「活動実績ですか?」


 朱音がそう言いつつ俺とミレーユの方へ振り返る。

 今までで実績を挙げられたと言える活動は……放火事件の犯人を捕まえた事くらいしかないな。

 通り魔の件や森先生の件は部の創設前なので、時期的に実績としてカウントするのは無理だ。

 正直放火事件は学校の部活なんかが関わるべきものではないので、それを実績としてここで言うのは抵抗がある。

 しかし、それ以外にまともな実績がないので、放火事件の事を言わなければ何も実績がない事になってしまう。

 部を創設してから2週間ほどしか経っていない上にテスト期間を挟んでいたとはいえ、未だに全く実績無しでは廃部を阻止できる可能性は低いだろう。

 アイコンタクトを取り俺達が頷き合った後、朱音は四条先輩の方へと向き直った。


「風紀部の活動実績ですが……最近この街で起こっていた放火事件の犯人逮捕に貢献した事が挙げられます。」

「えっ!?」


 さすがにこの回答は予想外だったのだろう、四条先輩は椅子から飛び上がりそうな勢いで驚いていた。

 その他の聞き役に徹していた生徒会役員達も、一様に驚いた表情を浮かべている。


「そ、それってどういう事? 詳しく聞かせてもらえる?」

「は、はい。あたし達風紀部は学校内のみならず学校外でも風紀の乱れを取り締まり、奉仕活動を行う部活動です。今回の放火事件では、最初の放火が部員の一ノ瀬君の自宅の向かいで起こった事もあって、このまま放っておくと彼の家も放火の対象になる可能性が考えられました。そこで、学校外で起こった事ではあるものの何とかあたし達で解決に向けて活動できればと考え、この事件に介入しました。最終的に、偶然犯人と遭遇する事に成功しまして、無事犯人を捕まえて警察に引き渡し、事件の解決に貢献する事が出来ました。えっと……以上になります。」


 朱音の口から放火事件の顛末を四条先輩らに報告した。

 本当は「ミレーユがナイフで刺されて大怪我をした」「部員どころかうちの学生ですらないエレナが関わった」などなど色々な事情があるが、それはここで説明できる事ではない。

 なので、細部を省略した説明になってしまったのは止むを得ないだろう。


「一応聞いておくけど、今の話は本当なのよね?」

「ええ、何でしたら警察の方に聞いてもらってもかまいません。」


 四条先輩の問いに、今度は俺が応対した。

 そう簡単に信じられないという彼女の気持ちもわからないではないが、これはれっきとした事実だ。

 俺の強気な返事を聞いて、どうやら今の話は嘘ではなさそうだと納得してもらえたのか、四条先輩は顔を引き締めた。


「あなた達の態度を見る限り嘘ではなさそうだし、とりあえず今の話を信じる事にしましょう。ただ、一つだけ言わせてもらいたい事があるわ。」

「何でしょうか?」


 朱音が、緊張した面持ちでそう問い返す。


「今回は無事に済んだから良かったけど、でも本物の犯罪者と関わるっていう事がどれだけ危険な事か、わからないわけじゃないわよね? だから、もうこんな事には関わらないようにしてほしいの。」


 それは……残念だが、受け入れられない話だな。

 俺とミレーユの真の目的を達成するためには、どうしても犯罪者と関わる事は避けられない。

 とはいえ、まだ高校生である俺達が積極的に関わるべきでないという言い分ももっともだろう。

 それに、四条先輩の今言った「お願い」をここで拒否すれば、おそらく彼女達生徒会をも敵にまわす事になる。

 とりあえずここは従うフリをして生徒会を味方につけ、廃部を免れた後で「普通の高校生らしい」活動実績を事件がない時に積み上げておくのがベストなはずだ。

 これ以降、事件に関わった事を活動実績として出さないようにすればわかりっこないのだから。


 そこまで考えて、俺は四条先輩に対して頷きを返す。


「わかりました。会長の言う通りにしたいとしたいと思いますので、何とか廃部の阻止に協力してもらえないでしょうか?」


 そう言って、俺は頭を下げた。

 一拍遅れてミレーユと朱音も頭を下げる。

 そこで四条先輩は他の生徒会役員達と顔を見合わせ、軽くやり取りをしてから俺達の方を見た。


「まあ、今回は特にあなた達が何か問題を起こしたというわけでもなさそうだし……生徒会として、風紀部の廃止には反対の立場を取らせてもらう事にするわ。」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 朱音が顔を上げてお礼を述べた後、俺達は再び頭を下げた。

 四条先輩は苦笑を浮かべながら


「そこまで気にしなくていいわよ。それに、わたし達もあなた達を利用させてもらう事になるかもしれないしね♪」

「えっと、それはどういう事ですか?」

「生徒会と風紀委員会は別の組織だからね。今までにもわたしと舞衣が衝突して意見がまとまらなかったりとかの理由で、風紀委員会の助力が必要なときにその力を借りれない事が何度かあったの。だからそういう時に、風紀委員会の代わりにあなた達の力を借りられればいいな~と思って。特に今回は貸しが出来た事だし、わたし達にとっても好都合ってワケ。」


 そう言ってウインクを返してきた。


 意外としたたかな先輩だな……。

 まあ今回は味方についてくれると約束してくれたし、多少の頼み事くらいなら引き受けても問題ないだろう。

 生徒会からの頼み事を引き受けた事自体を部の活動実績にする事も出来るし、俺達にとっても一方的な損にはならないはずだ。


 それから俺達は再度お礼を言い、生徒会室を後にしたのだった。


 ――――――――――――――――――


 生徒会に協力を取り付けた翌々日、水曜日。

 放課後、特にやる事がなかった俺達は四条先輩と約束した「普通の」活動として校内をパトロールする事にした。

 3人バラバラに別れた後、俺は適当に廊下やグラウンドを見て回る。


 これといっておかしな事をしてる奴もいないし、何もなさそうだな。

 そんな事を思いながらグラウンドから校舎に戻り、再び校内を見て回っていると。


 ―――ドォン!

 ―――パリィィンッ!


 何だ、今の音は!?

 突然大きな物音と、ガラスが割れる音がした。

 音のした方へ、俺は廊下を走り出す。

 本来廊下を走ってはいけないのだが、只事ではなさそうなのでこの際仕方ないだろう。

 暫く走って目的地の周辺に辿り着いた俺は、周りの教室を調べて音の発生源が何処だったのかを見ていくと、すぐそこにある生徒会室の扉が開きっ放しになっている事に気が付いた。


 確かこの時間は、いつも生徒会室に四条先輩がいたはず。

 ならば、今の音の事を知っているかもしれない!


 そう思い、生徒会室の入口から中の様子を伺うと。


「四条先輩!? それに、他の皆さんも大丈夫ですか!?」


 俺は四条先輩の元へ駆け寄り、そう尋ねる。

 何があったかはわからないが、生徒会室の中で生徒会役員5人全員が倒れていたのだ。

 それだけでなく、窓ガラスも割れていた。

 様子を見る限り、さっきの物音の発生源はどうやらここで間違いないだろう。


「うっ、あなたは……一ノ瀬君だっけ?」


 四条先輩が目を開ける。

 他の倒れていた役員達も気が付いたようで、呻き声と共に上半身を起こした。


「先輩、一体何があったんです!?」

「……。」


 四条先輩はまだ痛むのであろう頭を押さえながら、困った表情で、


「何があったか、わたし達にも実はよくわからないのよ。さっき舞衣が来て先日の廃部の件の話になったんだけど、『わたし達生徒会は風紀部の廃部に反対する』って伝えたら言い争いになっちゃって……。急に舞衣に怒鳴られたと思ったら、頭にまるで強い衝撃を受けたような痛みが走ったの。で、気が付いたらこの状態だったというわけ。」


 五反田先輩が?

 さっき駆け付けてきて周りを見た限りでは、五反田先輩は既にここから去った後のようだ。

 しかしあの真面目な先輩が、倒れた人を放っておいて何処かへ行くとは考えにくい。

 それにただ怒鳴っただけでこんな事になるはずがないだろう。


 一体、どういう事なんだ?

 俺が首を捻っていたところで、ミレーユと朱音、先生が2人ほど駆け付けてきた。


「どうしたの!?」


 そう問いかけてきたミレーユ達に簡単に状況説明し、それから生徒会役員達を先生が保健室に連れて行った。


 ――――――――――――――――――


 その後、俺とミレーユ、朱音の3人で部室に戻り先程の事について話し合いをする事にした。


「じゃあさっきのあれは、五反田先輩が何かした可能性があるという事なのね?」

「ああ、四条先輩から聞いた話や状況から考えてその可能性は高いと思う。」


 ミレーユの問いに俺がそう返したが


「でも、一体どうやったらそんな事が出来るの?」

「そこなんだよな……。」


 朱音からのもっともな質問に、俺は頭を抱えた。

 ただ怒鳴っただけで5人もの人間を昏倒させた挙句ガラスまで割るなんて、どう考えても不可能だ。

 とはいえ、五反田先輩が現場から逃げたのは事実なのだし、今回の件に彼女が何らかの形で関わっているのはおそらく間違いないだろう。

 怒鳴っただけで、相手にダメージを与える方法……いや、待てよ!?

 あるじゃないか!

 それを可能にする力が!


「能力者……なのか?」


 俺が思わず呟いたその台詞に、ミレーユと朱音が驚愕の表情を浮かべた。


「能力者ですって?」

「えっ、それって、五反田先輩が悪魔と契約してるかもって事!?」

「ああ。ずっと考えていたんだが、あんな事『普通の』人間には出来ない。だが、あれが何らかの能力であって、五反田先輩がそれを行使した結果ああなったのであれば全て説明が付く。」

「確かにそれなら、彼女が逃げた理由も説明できるけど……。でも、攻撃系もしくはそれに転用できる能力には厳しい使用制限がかかるのよ? ただ言い争いになったくらいでその厳しい使用制限がクリアできるとは思えないけれど。」


 ミレーユの疑問に対し俺は一呼吸おいてから、さっき導いていた推測を回答として返した。


「ああ、だがそれには『例外』があったはずだ。2人共、最近それを既に見ているだろう?」

「えっ?」


 俺が一体何を言っているのかわからない様子の朱音とは対照的に、ミレーユは俺が言いたい事がわかったらしく顔を強張らせた。


「まさか……五反田先輩は『ゴースト』だとでもいうの?」

「まだハッキリとした証拠があるわけじゃないけどな。でも現状を見る限りでは、それが一番可能性が高いと思う。」


 ミレーユと朱音がまたしても驚いた表情を浮かべたのを見ながら、俺はふと考えた。


 もし五反田先輩が使用制限のない攻撃能力を以前から所有していたのであれば、とっくに俺達に対して使っていたはずだ。

 しかし、今回の事があるまで先輩は一度も力を使った様子はない。

 また、今週に入ってから先輩には直接会ってこそいないものの、他の人から聞いた話を総合すると今までとは明らかに言動に変化があった事がわかる。

 だとすれば、五反田先輩が契約したのは先週の金曜日の午後から日曜までの間……ごく最近なのか?


 そんな事を考えながら、俺達は話し合いの続きを再開したのだった。

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