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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
ナンバーズ・ファイブ
25/406

the fifth attack

 ―――日曜日の朝。

 結局、昨日ミレーユが部屋から出て来ることはなかった。

 俺はミレーユの事が気になってせっかくの日曜日だというのにあまり眠れず、学校がある日と変わらない時間に目が覚めてしまった。

 二度寝もできそうにないし、起きるか……。

 そう思った俺は部屋で服を着替えてから洗面所で顔を洗い、朝食の支度をするためにリビングに入ったのだが。


「おはよう、和也君。」

「ああ、おはよう。」


 どうやら朱音が既に朝食の準備をしていたらしい。


「もしかしてあまり眠れなかったのか? それに、朝食まで作ってもらって悪いな。」

「あはは……。あたしはお泊まりさせてもらってる側なんだし、これくらいのお返しはしないとね。」


 少し気まずそうに目線を漂わせながらも、最後はまっすぐ俺の方を見て笑みを浮かべ、朱音はそう言った。

 朱音の返事を聞きながら、俺は昨日の寝る時の事を思い出していた。


 昨日、金曜日の時と同じく朱音はミレーユの部屋で寝る予定だったのだが、ミレーユが部屋に閉じこもっていたため寝る場所がない状態だった。

「朱音には俺の部屋を使ってもらって、俺はリビングのソファで寝る」という提案もしたのだが、「さすがにそういうわけにはいかないよ!」と朱音が反対したため、結局俺は自分の部屋で、朱音がリビングのソファで眠る事になったのだ。

 本人が希望したとはいえ、さすがに女の子をソファで寝かせたのは良くなかったな。

 朱音があまり眠れずに早く起きてしまったのも無理はないだろう。


 まあ、今そんな事を後悔していても仕方ないか。

 とりあえず昨日の反省はそこまでにして、俺は朝食の準備を手伝う事にした。


 ――――――――――――――――――


「ミレーユの事、どうする?」


 朝食の準備を終えたところで、朱音がそんな事を聞いてきた。

 本当は部屋まで様子を見に行きたいというのが本音だったが、昨日の事もあって顔を合わせづらいし、まだ眠っているかもしれない。


「部屋の扉に鍵とかは付いてないから、今なら多分部屋に入る事は出来ると思うけど。」

「う~ん……」


 俺の返答に対して、朱音は暫く悩んでいる様子だったが


「いや、やっぱり今は放っておこうよ。さすがに眠っている女の子の部屋に入るわけにはいかないし、きっとそのうち自分から出て来てくれると思う。」

「そうだな……。」


 確かに今ここで俺達が無理矢理何とかしようとすれば、余計にミレーユの態度が強硬になるかもしれない。

 時間を置いて落ち着くのを待つのが得策だろう。


「じゃあ、朝食はとりあえず二人で食べるか。」

「そうだね。」


 そして「いただきます」と言ってから俺達は朝食を食べ始めた。


「ねえ、今日はどうする?」

「どうするも何も、昨日の勉強の続きをやらないとマズいだろ。数学の勉強範囲はまだ残ってるし、他の理系科目も赤点スレスレとまではいかなくてもあまり良くない事には変わりないんだろ?」

「そうだね。あ、だったら、今日は外で勉強しない?」

「何で外に行く必要があるんだ?」

「『何で?』って……」


 呆れたような表情を浮かべた朱音に対し、俺は首を傾げた。

 昨日と同じように、リビングで一緒に勉強すればいいんじゃないかと思ったのだが……あっ!

 そういう事か。


「ミレーユのため、か?」

「うん、正解♪ あたし達がずっと家にいたんじゃ、ミレーユだって気まずいだろうし部屋から出て来にくいと思う。だから、ミレーユの分の昼食を今から作り置きして、それから図書館にでも行って勉強した方がいいんじゃないかな?」

「確かに、その方がいいかもな。じゃあ、そうするか!」


 こうして、今日の勉強会は図書館で行う事に決定した。

 俺達はミレーユの分の昼食を用意すると、二人で家を出たのだった。


 ――――――――――――――――――


 和也と朱音の二人が家を出た後。

 部屋から出るタイミングを窺っていた私は、リビングへ向かった。

 もう既に時間が11時近かったのでお腹がすいていた事もあり、本当はもっと早く部屋から出たかったが気まずかったのだ。

 二人が出て行ってくれたおかげで、落ち着いてリビングで食事が出来る。


 もうお昼近い時間だし、朝食と昼食を一緒に食べた方が良さそうね。

 そう判断して食事をしようとしたところで、テーブルの上の書置きに気が付いた。

 どうやら二人が既に私の分の食事を作ってくれていたらしい。

 昨日私があんな態度だったのに、わざわざここまでしてくれるなんて……って、えっ!?


 書置きの最後の部分を見た瞬間、私の少し上向きかけていた気持ちが再び沈んでしまった。

 そこに書いてあったのは。


「二人で図書館に勉強に行ってきます。夕方には戻ってくるので、今日一日ゆっくりしてね♪ by 朱音」


 朱音は私に気を遣ったつもりなのかもしれないけど、「二人で」って……。

 どうして、こんなにうまくいかないのかしら。

 私は暗い気持ちのまま、食事を始めた。


 食事をしながら、私はこれからどうするかを考えていた。

 本当なら以前のように二人を尾行したいところだけれど、この辺りにある図書館といわれてもそれが何処なのかわからない。

 第一、もし見つかって顔を合わせるような事になったら?

 そう考えれば、今日は家でゆっくりした方がいいのではないかしら?


 でも、自分の部屋にまたこもるというのも退屈だし、余計気分が沈みそうでイヤね……。

 と、そこで私はあるアイデアを思いついた。


 二人が夕方まで帰って来ないなら、大丈夫よね?


 ――――――――――――――――――


 一方その頃。

 家を出た俺達は、学校近くにある図書館に来ていた。


「和也君、これどうやって解いたらいいの?」

「これは昨日教えたやり方の応用でだな……」


 という感じで数学のテスト勉強の続きをしていたが、1時間ほど勉強したところでお昼になった。


「そろそろおなかすいたし、何処かにお昼食べに行かない? 確かこの近くにおいしいお店があるんだよ~。」

「そうだな。よし、行くか。」


 そう言って座っていた椅子から立ち上がったところで、不意に声がかけられた。


「あれ? 君は確か……」

「え?」


 朱音と俺が同時に振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。

 俺には見覚えのない顔だったが、朱音はそうではなかったらしい。


「五反田先輩、どうしてここに?」

「テスト勉強をしに来てたのよ。そちらにいるのはもしかして彼氏さんかしら?」

「えっ?」


 朱音が顔を赤くして黙ってしまった。

 だが「先輩」という朱音の発言から察するに、どうやら相手はうちの学校の先輩のようだし……。

 このまま何も喋らずに黙っているわけにはいかないだろう。

 黙ったままの朱音に代わって、俺は会話に割って入る事にした。


「初めまして。俺は2年の一ノ瀬 和也といいます。彼女とは同じ部に所属している部活仲間で、今日は一緒にテスト勉強に来てたところです。あと一応言っておきますけど、俺達は別に付き合ってるとかいうわけではないので。」


 勝手に俺なんかと恋人認定などされるのは朱音も迷惑だろうと思い、彼氏云々に対する弁解を自己紹介の最後にそう付け加えたのだが。

 さっきまで顔を赤らめていた朱音が、急にムスっとしたような表情になった。

「一体どうしたんだ?」と尋ねようかとも思ったが、今先輩の前でそんな事を聞くわけにはいかないだろう。

 俺の自己紹介を聞いて、先輩は「ふぅん……」と呟いた後、


「そう、君もあの『風紀部』の部員なのね。私は3年の五反田 舞衣。風紀委員会の委員長を務めているわ。」

「ええっ!?」


 先輩の自己紹介を聞いて、俺は思わず固まってしまった。

 この人が、あの風紀委員会の委員長?


 朱音が彼女を知っていたのは、合同会議で顔を合わせていたからだろう。

 会議の際は少し突っ込んだ質問をされたものの、思ったほど目をつけられずに済んだみたいだと朱音は言っていた。

 だが、今の先輩の鋭い眼光を見るに、間違いなくかなり目をつけられてるっぽいぞ……!


「君達、今から何処かに昼食を食べに行くとか言ってたわよね?」


 ああ、声かけられる前から見られていた上に、会話もしっかり聞かれていたんだな。

 どうやら先輩はタイミングを見計らい、偶然を装って声をかけてきたようだ。

 完全に後手に回ってる感がしないでもないが、とりあえずここは正直に返答するしかないだろう。


「はい、近くの店でお昼を取ろうかと。」

「いい機会だし、私も同席させてもらっていいかしら?」

「へっ!?」


 びっくりしたせいで不自然な声が出てしまった。


 ちょっ、それは勘弁して下さいよ!

 と言いたいところだが、上級生……特にあまり敵に回すべきではない相手からの誘いなのだから、あまり無碍に断るわけにもいかない。

 ふと横目で隣に立つ朱音と見ると、丁度目が合った。


(和也君、何とかして断ろうよ!)

(そう言われても……。ここで断ったりしたら、後でマズくならないか?)


 などと、俺達はアイコンタクトと小声で必死にやり取りしていたが。


「君達、さっきから何を二人でゴソゴソしているの? もしかして都合が悪かったかしら?」


 やばい、怪しまれてるぞ……!

 仕方ない、多少カドが立ってしまうがとりあえず断ろう!


 そう思ったのだが、あろうことか俺が誘いを断る前に朱音が返事をしてしまった。


「そ、そんな事ないですよ! 別にやましい事なんかありません!」

「そう。なら決まりね。では早速行きましょうか。」


 朱音の返事を先輩は誘いの承諾と解釈したらしく、そう言い残してすたすたと図書館の出口の方へ歩き出してしまった。

 呆然とした表情の朱音が俺の方を向き


「ご、ごめん和也君。ど、どうしよう……。」

「ここで『すみません、やっぱりやめておきます』とかいうと、後でますます目をつけられそうだしな……。」


 しかし考え直してみれば、これはいい機会なのかもしれない。

 五反田先輩が俺達「風紀部」の事をどう思っているのかなどを今聞く事が出来れば、これからの部活動も少しはやりやすくなるだろうし。

 まあ、あまり気が進まない事には変わりないのだが。


「とりあえず、今回は仕方ない。俺も先輩に確認しておきたい事がないわけじゃないし、昼食に付き合うだけならそこまで大した事にはならないだろう。」

「はぁ……。正直逃げ出したい気分だけど、あたしのミスでもあるしね……。うん、あたしも覚悟決めるよ!」


 朱音が少し弱気だった表情を改めたところで俺がふと出口の方を見ると、先輩がこちらを振り返って怪訝な表情で立ち止まっている。

 さすがにこれ以上先輩を待たせるわけにはいかないだろう。


 ―――よし、行くぞ!


 俺も朱音と同じく覚悟を決め、先輩の待つ方へ向かって歩き始めたのだった。

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