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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
fire and devil
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合同会議前夜

 エレナからゴーストについて話を聞いた翌日の放課後、俺は部室で朱音に昨日のメールの件について尋ねた。


「確かにお詫びとして何でもするとはメールしたけどさ。明日の晩から日曜の夕方までうちに泊めてくれというのはちょっと……」

「でも、明日の合同会議の時にあたしを置いて一人で帰っちゃうんでしょ?」


 おずおずと話を切り出すも、朱音から痛いところを突かれてしまい俺はがっくりと項垂れた。

 でも、付き合ってるならともかくそうでない女の子を泊めるのは問題があり過ぎる。

 半分諦めつつも俺はもう一度だけ反論を試みる事にした。


「いや、でもな、男の家に女の子を泊めるのは色々マズいだろ。俺達まだ高校生なんだし。」

「ん~……そうだね。だったら、ミレーユのお見舞いのために泊まりに行くって名目にしたら問題ないでしょ?」


 なるほど。

 確かにそれなら女子の友達の家に泊まるという事になるわけだし、問題ないような気も……って、んな訳ないか。

 とはいえ、朱音の方も折れるつもりはないようだ。

 まあ、妙な事にならないように気をつければ大丈夫だろう。


「わかったよ。朱音の要求通りにする。」

「ありがとう! あ、心配しなくてもタダで泊まらせろなんて事は言わないから安心して。あたし料理とか得意だから、おいしい料理作ってあげるよ♪」


 へえ、体育会系のイメージがあったから意外だったが料理得意なのか。

 確か朱音のお母さんが入院してるって言ってたし、普段から家事全般を一人でこなしてるんだろう。

 うちのアホ悪魔とはえらい違いだ。


「ああ、楽しみにしておくよ……って、そういえば土日はお母さんの入院してる病院にお見舞いに行かなくていいのか?」

「大丈夫。今週はお父さんが久しぶりに土日休みだから、お父さんがお見舞いに行く事になってるの。せっかくだし二人きりにさせてあげようって思ってたから今回は丁度良かったよ。明日の合同会議が終わった後、病院に顔出してから泊まりに行くね。」


 こうして、明日から朱音がうちに泊まる事が決定した。


 ――――――――――――――――――


 それから俺は、朱音に昨日エレナから聞いたゴーストの話を簡単に説明した。

 ゴーストが危険な能力の持ち主であるとわかった以上、朱音にもゴーストの危険性を伝える必要があるからだ。

 俺の話を聞いた朱音は、かなり衝撃を受けている様子だった。


「まさかそんな危険な相手だったなんて……。ミレーユでも勝てなかったような相手をあたし達で捕まえられるのかな?」

「俺達だけじゃ確かに難しいだろう。でも、ミレーユと同じ悪魔であるエレナが協力してくれるって言ってたし、不可能じゃないはずだ。」


 今回ゴーストを取り逃した要因の一つとして、俺とミレーユの特殊能力が戦闘時に役立つとはいえない能力であった事が挙げられる。

 以前ミレーユは「攻撃系の能力は原則としてほぼ存在しない。稀に持っている者も存在するが、通常は厳しい制約がかけられていてあまり使えるモノとはいえない」と言っていたが、俺とミレーユもその例外ではないのだ。

 俺の「嘘を見抜く」能力は、戦闘力を持たない犯人を追い詰めるのには有効だが対ゴーストでは役に立たない。

 ミレーユは身体能力がゴーストより高いというアドバンテージはあるものの、使用制限のない攻撃能力を有するゴーストの優位をひっくり返す事は出来なかった。

 となれば、こちらも何らかの方法でゴーストに対抗しうる戦闘力を得る必要がある。

 今回の放火魔のゴーストを捕まえられる可能性があるとすれば、それはただ一つ。

 エレナの特殊能力に賭ける以外にない。

 しかし、彼女の能力については俺達もまだ知らないのだ。

(放火魔の件で協力を取り付けた際に聞いてみたのだが、「他人の能力の詮索はマナー違反ですわよ!」と怒られてしまった。)

 彼女の能力は果たしてゴーストとの戦力差を埋める事を可能にするモノなのだろうか?


「和也君は明日、そのエレナさんっていう悪魔と会うんだよね? あたしも直接話してみたいんだけど、エレナさんが帰るまでにあたし間に合うかな?」

「う~ん……まあいつもエレナが帰るのは21時過ぎてからだし、多分間に合うと思うけど。」

「へぇ~……『いつも』ね。そうなんだぁ~……。」


 あれ、朱音の目が笑っていない。

 というか、ちょっと怖い。

 何か怒らせるような事を言ったのかと思ったが特に心当たりもない。

「何で怒ってるんだ?」と聞くと藪蛇になりそうな気がするので敢えて触れない事にしよう。

 そう思った俺は、何とか話を逸らして部活の時間をやり過ごしたのだった。


 ――――――――――――――――――


 部活が終わり帰宅した俺は、服を着替えてから警察署に行く事にした。

 先日ミレーユ達が放火魔と対峙した際にあった2件目の放火について情報を集めておきたかったからだ。

 万全の状態でないにも関わらずついて来ようとするミレーユを説得して留守番させ、何とか署に辿り着いた俺は住田さんに話を聞いた。


「火曜日にあった火事の詳細かい? そうだね……まず、1件目の火事の時と同じく、やはり放火の可能性が高いという事がわかっている。君達が目撃した放火魔と思しき女の特徴も、1件目の目撃情報と一致している事からおそらく同一犯によるものだろう。」

「やっぱりそうでしたか。他に何か新しい情報とかはありませんでしたか?」

「他の情報か。守秘義務があるからあまり教えるわけにはいかないんだが……まあ、あの情報くらいならいいか。」


 そう前置きしてから、住田さんは新しい情報を教えてくれた。


「1件目の時も2件目の時も、放火された家から金目の物が盗まれていたんだ。君達が出会った不審な女はナイフを複数隠し持っていたとの事だし、もし家の住人が泥棒に気付いたらナイフで殺害する算段だったんだろうね。これらの事を踏まえると、放火は窃盗及び殺人の痕跡を消すためのものである可能性が高い。私の方から教えられる情報は以上になるけど、一ノ瀬君の方は何かわかった事はあるかい?」


 こちらで把握している放火魔の情報については、この前朱音が事情聴取の際にあらかた説明しているはずだ。

 放火魔の正体はゴースト云々の話をしても信じてもらえないだろうし……いや、でも投げナイフの能力については伝えておいた方がいいか。


「例の放火魔らしき女は、投げナイフの達人だと思われる事くらいでしょうか。」

「投げナイフの達人? それはどういう事だい?」

「俺の友人が投げナイフで刺されそうになったのはご存知かと思いますが、速く、まっすぐ正確にナイフを飛ばしてきたそうで、状況から見て偶然だとは思えません。」

「ふむ……確かに、追い詰められた状況で貴重な武器であるナイフを無駄に消費してしまうような行動は普通なら出来ないだろうね。つまり、放火魔は投げナイフの腕に自信があったからそのような行動を取ったという事か。」


 投げナイフの事自体は朱音の事情聴取で知っていたのだろうが、達人だとまではさすがに思っていなかったようだ。

 まあ能力によって投げナイフをしているだけなのだから実際達人ではないのだが。

 そこで一つふと気になった事があった俺は、その疑問について住田さんに尋ねた。


「そういえば、投げナイフに使われたナイフとミレーユを刺したナイフについては回収されているんですよね? 何か手掛かりとかはありませんでしたか?」

「いや、今のところは全く。犯人は手袋をしていたみたいだから指紋は残っていなかったよ。ただ、回収したナイフは二本とも同じ製品だった事を踏まえると他にも同じナイフを大量に持っている可能性が高い。だから、近辺の店で複数本そのナイフを購入した女がいなかったか調べているところだよ。」

「そうでしたか。ではまた何かありましたらよろしくお願いします。情報ありがとうございました!」

「ああ、一ノ瀬君の方も何かあったらよろしくね。もう日も暮れているし、気を付けて帰りなさい。」


 こうして、お互いの情報交換が終わったところで俺は住田さんにお礼を言い、警察署を後にした。


 ――――――――――――――――――


 その日の夜、エレナは彼女のマスターの家でお風呂に入っていた。

 彼女はミレーユ同様、契約した人間の家に居候しているのだ。

 もっとも、彼女のマスターにはちゃんと両親がいるし、和也のところと違って親がいつも家を空けているような事もないため、エレナの居候は留学生のホームステイという名目になっている。


「はぁ……」


 湯船に浸かって自分の胸を見下ろしたエレナは思わずため息をもらしていた。

(このわたくしがあの金髪アホ女に負けているなんて屈辱ですわ……)

 金髪アホ女というのは言うまでもなくミレーユの事である。

 平均より大きめのバストを持つミレーユに対し、エレナのサイズは平均をやや下回っているのだ。

 朱音のようなほぼ絶壁とまではいかなくとも悩ましい事には変わりがない。

(で、でも! わたくしはミレーユさんのようにゴーストを取り逃したりはしませんわ!)

 沈んでいた気持ちを切り替え、自分を奮い立たせる。

 エレナはまだ「覚醒」していないため使える能力はミレーユと同じく二つだけ。

 そして「攻撃系の能力は原則としてほぼ存在しない」という例に漏れず、彼女の能力は二つとも攻撃系ではないし攻撃に転用できる能力でもない。

 だが「攻撃能力を持たない」=「戦闘で使えない」とは限らないのだ。


「本当は、マスターに協力してもらえればいいのですけれど……」


 そう独り言を呟いたところでどうにかなるわけではない。

 和也の住んでいる街からエレナのマスターの家はかなり遠いのだ。

 具体的には家のある都道府県が違うくらいに。

 彼女のマスターはまだ高校生なので遠距離まで来させるのは困難だし、エレナの能力で「移動」できるのはエレナ自身だけだ。


 ところで。

 通常、悪魔と人間の契約は悪魔の方が主、人間の方が下僕として執行される。

 なので本来はエレナがマスターであり、彼女がマスターと呼んでいる者が下僕にあたるのだ。

 であるにも関わらず、何故エレナが人間をマスターと呼んでいるのか?

 それは彼女の契約した人間の得た特殊能力が極めて強力なものだからだ。

 エレナと彼女のマスターが本気で戦えば十中八九、人間であるマスターの方が勝利するだろう。

 おまけに特殊能力以外の面においても、頭脳明晰・運動神経抜群・容姿端麗と三拍子揃っている。

 だからこそ、エレナは本来下僕であるはずの人間の方をマスターと呼んでいるのだ。


 しかし先述の理由で、今回の放火魔のゴーストの件でマスターの能力に直接頼る事は出来ない。

(ですが……念のため相談だけでもしておいた方が良さそうですわね。)

 エレナはお風呂から上がると、相談のためマスターの部屋に向かったのだった。

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