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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
fire and devil
17/406

暗雲

 ―――ミレーユが怪我をした翌日。

 久しぶりに一人で登校した俺を見て、宮下が話しかけてきた。


「あれ、今日はミレーユちゃんは一緒じゃないのか?」

「あ、ああ。ちょっと怪我してしまってな、今日から暫く休む事になったんだ。まあ入院とかしてるわけでもないし、大丈夫だろうとは思う。」

「そうなのか。まあ、大丈夫そうなんなら心配ねえか。怪我してるんだからちゃんと大事にしてやれよ、婚約者さん。」

「だから婚約者とか言うのはやめてくれ!」


 笑いながら俺をからかう宮下に俺は突っ込んだが、宮下はニヤニヤした表情を崩さないままだ。

 と、そこで二人で話していた俺と宮下の会話に高橋が入ってきた。


「ミレーユちゃんが怪我したって今言うてたけど、一体何で怪我したんや?」


 怪我の原因を尋ねられてしまったが、正直に答えてもいいのだろうか?

 放火魔らしき女にナイフで刺された事を言ってしまうと余計な騒ぎになりそうな気がした俺は、とりあえず適当に誤魔化す事にした。


「いや、ちょっと、部活中にな。まあ、単なる事故だから気にしなくていい。」

「部活ってゆーと……風紀部の事なんか?」


 高橋はどうやら、俺達がつい先日に風紀部を創設した事を既に知っていたようだ。

 さすが、校内屈指の事情通を名乗るだけの事はあるな。

 俺が感心しているのをよそに、宮下が頭に?を浮かべているような表情で


「風紀部? 一ノ瀬、お前いつの間にそんな部活作ったんだよ?」

「2日前、かな? メンバーは俺とミレーユと朱音の三人で、顧問は八雲先生だ。」

「三人か……そりゃちょっとマズいんじゃねえの?」


 はて、何がマズいのだろうか?

 部活の創設条件である「部員三人以上」というのは一応満たしているわけだし、問題ないはずだ。

 事実、創設届は問題なく受理されているのだから。

 頭を傾げている俺を見て、高橋が呆れたような顔で宮下の代わりに理由を解説してくれた。


「部活作る時に校則とかチェックせえへんかったんかいな……。月一回、金曜日の放課後に生徒会主催の各委員会・部活動の合同会議があるんは知ってるか?」

「ああ、知ってるけど。」


 高橋の言っている合同会議とは、各委員会や部活動が前月の活動報告をしたり、各々の要望を出して話し合ったり、備品や予算の申請をしたりするためのものだ。

 出席するのは生徒会メンバー全員、各委員長・部長と先生が一人。

 今まで委員会にも部活にも入っていなかった俺にとっては縁のないものだったのだが、何かあるのだろうか?


「その合同会議が、今週の金曜日にあるんや。風紀部の部長は朱音ちゃんやから出席は問題ないとしても、創設して一週間経たずに活動できるメンバーが二人しかおらんっちゅーのはマズいで。しかもミレーユちゃんが怪我した原因は部活中のものなんやろ? オマケに部の名前やら活動内容やらが風紀委員会と被っとるから風紀委員長に目つけられるかもしれへんし、会議で吊し上げされかねへんで。」


 言われてみれば確かに、会議で吊し上げを喰らいかねない要素があり過ぎるな……。

 ようやく宮下や高橋が何を心配しているのか理解できた俺は、その日の放課後まで悶々とした気持ちで過ごす事になった。


 ――――――――――――――――――


 放課後、部室で俺は朱音に合同会議の件を話した。

 このままいくと風紀部の部長である朱音が会議で吊し上げを喰らう事になる。

 それを避けるために、何らかの対策を立てておく必要があったためだ。


「そっか……。ミレーユがいない間、あたし達二人で何とかしないとね!」


 合同会議の件を聞いて多少心配そうな素振りを見せたものの、いつもの元気な笑顔で朱音は答えてくれた。

「あたし達二人で」の部分が強調されていたように感じたのは俺の気のせいだろうか?

 とはいえ、俺達二人だけで何とかするのは難しいと考えた俺は、遅れて部室に来た八雲先生にも相談する事にした。


「ふむ、確かにそりゃマズいな。だが、何とか出来ない事もないぞ?」


 ニヤリと笑みを浮かべた八雲先生に、俺と朱音は顔を見合わせる。

 どう考えてもそんな簡単に何とか出来るような問題でもない気がするのだが、何か策があるのだろうか?


「なに、難しい事じゃない。現状の活動可能なメンバーが二人だけだと言わなければいいのさ。怪我の事がバレたとしても、その原因を部活中のものだと正直に言わなければいい。どうせわかりっこないし、要はその合同会議さえやり過ごせば問題ないんだからな。風紀委員会の方も大丈夫なはずだ。こうして創設届は受理されているわけだし、他に落ち度がないと誤魔化せられれば、風紀委員長も強くは出られないだろうさ。」

「それって、要は嘘の報告をしろって事ですよね?」


 俺がジト目で「本当に大丈夫なのかこの先生は」と思いながらそう尋ねるが、八雲先生はそれを気にする様子もなく


「嘘をつくわけじゃない。事実を言わないだけの事さ。」


 駄目だこの先生……早く何とかしないと。

 そう思うも、他に代案があるわけでもないし……乗るしかないのか、この案に。

 不安を覚えつつ、ふと俺は朱音の方を見た。

 朱音もさすがに呆れた様子だったが、彼女も他に案がない事は重々わかっているので特に反論をするつもりはないようだ。


「仕方ないですね。他にいい方法も思いつきませんし、それでいきましょう。和也君もそれでいいよね?」

「ああ。」


 朱音が八雲先生の案に乗る事を表明し、俺もそれに賛同した事で合同会議における部の方針が決定した。


 ――――――――――――――――――


 結局今日の部活は合同会議の件の話し合いで丸々潰れてしまい、昨日の事件の詳細を全く聞く事が出来なかった。


 昨日はミレーユがあんな状態だったから今日朱音に話を聞くつもりだったけど、今ならミレーユから話を聞く事も出来るしな。

 そう思い直して帰宅した俺を、ミレーユが玄関で出迎えた。


「お帰りなさい、和也。」

「ただいま……って、起きてて大丈夫なのか?」

「平気よ。少し歩くくらいなら問題ないわ。」


 今日一日、一人で留守番させた事が心配だったのだが、どうやら杞憂だったようだ。

 ひとまず俺は自分の部屋に荷物を置いてから、リビングに向かうと。


「あら、お帰りなさいませ、一ノ瀬さん。」


 なんとリビングのソファに、エレナが座っていたのだ。

 おそらくミレーユが出したのであろう紅茶のカップを手にしながら、帰宅した俺に挨拶をしてきた。


「エ、エレナ!? どうしてここに!?」

「どうして、とは失礼ですわね。先日、火事の件で協力してもらえないかと尋ねてきたのは貴方でしょう?」


 そういえば、確かにそんな事を依頼したなぁ。

 本当に協力してもらえると思わなかったからすっかり忘れていた。

 確か今回の火事が事故ではなく事件で、且つマスターとやらから許可が下りた場合には協力してくれるという約束だったはずだ。

 そこまで思い出した俺は


「そ、そうだったな。すまん。こうして来てくれたって事は、協力してくれるって事でいいのか?」


 そう言いながらエレナの対面のソファに俺が腰かけると、一緒について来ていたミレーユが俺の隣に密着するほど距離を詰めて座った。

 正直俺はここで距離を取って座り直そうかとも思ったが、怪我人を邪険にするのも気が引けたので今回は放っておく事にする。

 ところが、ミレーユが俺の隣にほぼ密着状態で座ったのを見て、エレナの目つきが一瞬だけ鋭くなった。

 この前「わたくしはいいのですけれど」と言っていたけど、それなら関係ないはずなのに何故なんだろうか?


「マスターから貴方に協力してあげてほしい、と言われていますから。大方の事情は既にミレーユさんの方から伺っていますわ。ミレーユさんが放火魔を取り逃したという事も、ね♪」


 仕返しと言わんばかりに台詞の最後でウインクするという挑発的な仕草をしたエレナに対し、ミレーユがイラッとしたような不機嫌なオーラを漂わせる。

 前回会った時もこの二人はケンカしてたし、相性が悪いんだろうか?

 だがここでまたケンカされては話が進まなくなってしまう。

 俺は不機嫌な態度のミレーユをスルーして、話を進めることにした。


「まあ、今回の相手は手強いみたいだし、協力してもらえるのはありがたいんだが。これからどうする?」

「そうですわね……。わたくしもこちらに毎日来られるわけではありませんし、それに……ミレーユさんのお話を伺った限りでは、今回の相手はゴーストである可能性が高いようですから。」


 ん? ゴースト?

 ゴーストっていうと……幽霊?

 もしかして放火魔の正体は幽霊だとでもいうのだろうか?


「エレナ、今『ゴースト』とか言ってたけどそれって『幽霊』って事か?」

「違いますわ。わたくし達悪魔の間で使われる『ゴースト』という言葉が指すのは、人間と悪魔の中間者の事です。」

「人間と悪魔の中間者? 一体それはどういう事なんだ?」

「話せば少し長くなるのですが、構いませんかしら?」

「ああ、頼む。」


 今回の放火魔を捕まえるためには、その「ゴースト」とやらが何なのかはっきりさせておく必要がある。

 そう考えた俺は、多少話が長くなってでもきちんと聞いておきたかったのだ。


 少し間を置いてから、エレナは真剣な表情で語り始めた。

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