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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
fire and devil
16/406

敗北

 警察署に到着した俺達を出迎えてくれた住田さんは、署内の空いている部屋に俺達を案内すると、早速先日の火事の情報について話をしてくれた。


「あれからわかった情報だが、火元はどうやら家の外……つまり、家の中から出火したわけじゃないみたいだ。詳細は伏せさせてもらうけどね。状況から見て、やはり放火の可能性が高いと我々は考えている。目撃情報があった怪しい女の情報については今も調査中だよ。現状で教えられる情報は以上だけど、何か質問はあるかな?」


 住田さんの話を聞いた上で各々気になった事を質問し、守秘義務に反しない限りで幾つか回答を得る事が出来た。

 得られた情報自体はそれほど多くはなかったけど、事故ではなく事件である可能性が高いという事がわかっただけでも充分な収穫といえるだろう。


「お忙しい中、わざわざありがとうございました!」

「いやいや、そんな大した事じゃないよ。君達も何かわかった事があったら教えてくれるかな?」

「はい、必ず。では今日はこれで失礼します。」


 俺達三人は頭を下げ、警察署を後にした。


 ―――その帰り道。

 俺とミレーユは朱音を家まで送っていく事になった。

 もう既に日が暮れていたし、先ほど聞いた話から考えるに放火魔がうろついている可能性もあり得るからだ。


「わざわざゴメンね。あたしの家、和也君達の家から結構遠いのに。」

「気にするな。一人で夜道を帰らせるのも心配だしな。」


 俺がそう言うと、朱音が感激したようにぱあっと顔を輝かせた。

 と同時に、俺の隣のミレーユが不機嫌そうに眉を吊り上げる。

 やれやれ……。

 出会った頃と比べて、明らかにミレーユが嫉妬しているような態度を取る事が増えている気がする。

 このままエスカレートすると、転校初日にやらかしたような事をまた繰り返しかねないぞ。

 そう密かに危惧しつつも、朱音の家の近くの道の曲がり角に差し掛かった時。


「きゃあっ!?」


 曲がり角から勢いよく飛び出してきた女が朱音にぶつかったのだ。

 俺は尻もちをついてしまった朱音に手を貸して起こしてやり


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ありがとう、和也君。」

「そうか、良かった。それよりさっきの人は?」


 ふと辺りを見回すが、既にぶつかってきた女は遠くへ走り去ってしまったようだ。

「ぶつかっておいて謝りもせずに走って逃げるなんて!」と俺は思ったが、そこでミレーユが声を上げた。


「ねえ、あれを見て!」


 ミレーユが指差した方向を見ると、少し離れたところから赤い光が見える。

 あれはまさか……!?

 今日住田さんから聞いた話だと、例の火事は放火魔によるものである可能性が高い。

 そして、現場から走り去る不審な女の目撃情報がある。

 さっき朱音とぶつかった女は、5月半ばを過ぎたというのに長袖のコートに帽子という、いかにも怪しい格好だった。

 もしかして、さっきの女は……!

 そう思い至った俺は


「ミレーユ、朱音! さっきの女を追うぞ!」

「わかったわ!」

「うん、いくよ!」


 二人が俺の呼びかけに応じると同時に、一斉にさっき女が去った方角へ走り出す。

 女の姿は既に見えなくなっており、道が分岐しているところではミレーユの能力を使って逃げた方角を割り出しながら追い詰めていく。

 暫くして、俺達は女の後ろ姿を見つける事が出来た。


「見つけたぞ!」


 俺が叫ぶと女もこちらに気付いたようで、後ろを振り返り俺達の方を見てから更に逃げるスピードを上げる。

 とそこで、ミレーユと朱音も一気に走るスピードを上げた。

(ちなみに俺は既に全速力で、これ以上速く走れずに息を切らしかけていたため二人に引き離されてしまった)


 ――――――――――――――――――


 その後、袋小路まで女を追いこむ事に成功したミレーユと朱音は


「もう逃げられないわよ! 観念しなさい!」

「あなたが放火魔ね! 大人しくしなさい!」


 逃げた女に対して呼びかけるが、応答がない。

 ミレーユと朱音は顔を見合わせ、一気に取り押さえるべく少しずつ慎重に女に近づいていく。

 だが、そこでふと振り返った女の口元には笑みが浮かんでいた。

 それに気付き、嫌な予感がしたミレーユは


「朱音! 貴方は下がって!」


 と警告したが、一歩遅かった。

 女が懐から取り出したナイフを朱音目がけて投げたのだ。

 普通に考えれば、ナイフを投げたところでまっすぐ飛ばすのは難しいし、スピードもそれほど出るはずはない。

 しかし何故か、そのナイフはまっすぐ、速いスピードで飛んできたのだ。

 運動神経抜群な朱音がどうにかそれをかわしたのを見届けたミレーユは、すぐさま女を取り押さえようと女の方へ視線を戻したが、女は既にミレーユの目の前まで接近していた。

 懐から新たに取り出した二本目のナイフで女はミレーユに切りかかる。

 それをかわしてナイフを持った腕を掴み、そのまま押し倒したミレーユは朱音の方を向いて


「朱音! 私がこのまま押さえておくから今のうちに警察を呼んで!」

「わ、わかった!」


 と指示を出したが、そこでミレーユは脇腹が妙に熱い事に気付いた。

 いや、熱いだけではない。痛い。

 ミレーユが痛みを感じた個所を見ると、そこにはナイフが刺さっていた。

 至近距離で片腕を掴んで押さえていたミレーユに対し、女がいつの間にかもう片方の手に隠し持っていたナイフを深く突き刺していたのだ。


「くっ……!」


 刺されたミレーユの力が弱まったところで、女は掴まれた腕を振りほどいてミレーユを押しのけ、朱音の脇を通り抜けてそのまま走り去ってしまった。


 ――――――――――――――――――


 ようやく現場に到着した俺は、怪我をしたミレーユを見て


「刺されたのか!? 大丈夫か、ミレーユ!」

「え、ええ……。何とか、大丈夫よ……。」


 ミレーユは弱々しい笑みを浮かべながらそう答えるが、明らかにダメージを受けている様子だ。

 身体能力は人間より高いが、だからといって痛みへの耐性も高いというわけではないのだろうか。

 ふと朱音の方も心配になった俺はそちらの方へ顔を向けるが、朱音はどうやら無傷で済んだらしい。

 ただ、目の前で起こった事に衝撃を受けたのか、棒立ちのまま固まっている。


「朱音?」

「あ、和也君……。どうしよう、あたし……ううん、このままじゃ駄目! あたし一人でも、今からアイツを追いかける!」

「駄目だ! 一人じゃ危険過ぎる! 今日のところはひとまず諦めるしかない!」


 一人でも犯人を追跡しようとする朱音を止め、改めて警察に連絡するよう指示を出す。

 それからミレーユの方へ向き直り


「ミレーユ。お前のヒーリング能力だが、お前自身にも使えるのか?」

「あの能力は自分以外にしか使えないわ。」

「そうか……。」


 ミレーユのヒーリング能力は、以前瀕死状態だった俺を完全回復させてくれたほど強力なものだ。

 だがミレーユ自身に使えないとなれば、幾ら強力でも今回は役に立たない。

 刺された脇腹にはナイフが深く突き刺さっており、出血も多い。


「悪魔でも、怪我した時の状態は人間と同じなんだな。」

「ええ。基本的な体のつくりは同じだから。でも治るのにかかる期間は、人間より短くて済むし……包帯でも巻いて止血しておけば、入院とかも必要ないわ。ただ、今回は結構傷が深いから、暫くは自由に動けなさそうね……。」


 さすがにきつくなってきたのか、ミレーユの息が多少荒くなっており、言葉も所々途切れがちになっている。

 入院はしないにしても、怪我の処置くらいは病院でしてもらった方がいいだろう。

 そう判断した俺は、朱音の連絡で駆け付けてきた警察官に「事情聴取が終わったら朱音を家まで送り届けてほしい」と依頼して、事情聴取を朱音に任せる事にした。


 ――――――――――――――――――


 朱音が事情聴取を受けている間に俺はミレーユを病院まで連れて行き、怪我の処置をしてもらってから二人で自宅に帰った。

 既に遅い時間だった事もあり、簡単に食事を作って夕食を済ませたところで、朱音からメールが来ていたので電話する事にした。


「もしもし、朱音か?」

「あ、和也君。ミレーユの方は大丈夫だった?」

「ああ、病院で処置してもらったから大丈夫だ。ただ、暫くは激しい運動とかは出来ないし、安静にしておいた方がいいとの事だ。本人は明日も学校に行きたいと言っていたが、とりあえず休ませるようにするよ。」

「そっか、大丈夫みたいで良かった……。でも、これからどうしよう?」

「とりあえず、今後の事は明日の部活の時にでも話し合う事にしよう。今日一体何があったのか、俺もあまり詳しく聞いてないしな。」

「そうだね。じゃあまた明日ね、和也君。お休みなさい。」

「ああ、お休み。」


 そう言って電話を切ってから、風呂に入った俺は湯船に浸かりながらこれからの事を考える。


 あの様子ならミレーユの方はそこまで深刻ではなさそうだけど、回復するまで暫くかかるはずだ。

 今までのミッションでは、いつも俺とミレーユが協力する事で事件を解決に導く事が出来た。

 まだそれほどミッションをこなした回数が多いわけではないけれど、今回の事件は間違いなく今まで以上に厳しいものとなるだろう。

 なにしろ今回の犯人は、悪魔であるミレーユに怪我をさせたほどの相手なのだ。

 俺と朱音の二人で手に負えないのは明白だが、他に頼れるアテがあるわけでもない。

 今回は素直にこのまま引き下がって、警察に全部任せるべきなのだろうか?


 ―――いや、駄目だ。納得できない。


 ミレーユが怪我をさせられたのに、ここでそのまま引き下がるなんて事はしたくない。

 何としてでも、俺達の手で犯人を捕まえるんだ!


 そう決意して、俺は拳を握り締めたのだった。

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