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あくまでもヒロインは悪魔です  作者: 紅烏
fire and devil
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風紀部

 ―――週明けの月曜日の昼休み。

 先週と同じく俺とミレーユ、朱音の三人で空き教室にて昼食をとっていた。

 先週は朱音の事件の作戦会議でここを利用していたのだが、今回は別件だ。

 別件というのは、先週の土曜日に朱音に悪魔の存在を知られてしまった事。

 俺とミレーユは何とか誤魔化そうとしたのだが失敗し、仕方なく一通りの事情を話したのだが、まだ他に聞きたい事があるという朱音のためにわざわざここに来たのだ。

 そして朱音からの質問も全部終わり、雑談に入ったところでミレーユが部活の話題を出した。


「朱音は今日からまた陸上部に復帰するの?」


 朱音が窃盗の疑いをかけられた先週の事件では、朱音の疑いを晴らすための活動や会議で放課後集まっていたため、陸上部に顔を出していなかった。

 もっとも、放課後の活動や会議がなかったとしても顔を出せるような状況ではなかっただろう。

 とはいえ朱音は陸上部のエースなんだし、当然今週からは堂々と復帰するものだと俺達は思っていたのだが。


「復帰しないよ。あたしも、あれから色々考えてね。陸上部を辞める事にしたの。今朝顧問の先生に退部届出してきたばかりなんだ。」

「ええ!?」


 俺は思わず驚きの声を上げる。

 ミレーユの方も声は出さなかったが驚いている様子だ。

 あれだけ熱心に陸上を続けていたのに……と思いながら、俺は辞めた理由を尋ねた。


「色々って、どうして……?」

「ん~……そんな大した話じゃないけど。今更戻ったところで、結局ぎこちない雰囲気になって部がギスギスしたらイヤだし。それに、この前の悪魔の話とか聞いて、あたしにも出来る事があったら協力したいって思ったの。」


 朱音は弱々しい微笑みを浮かべながらも、そう答えた。

 だが俺としては、せっかく事件を解決したのに朱音が本当にやりたかった事が結局出来ないまま終わった、というのはどうしても納得できなかった。


「でも、だからって何も辞める必要なんて……」

「いいの。あたしがそう決めたんだから。あたしが今本当にやりたい事が、こっちに変わっただけ。だから、和也君達が気にする必要なんてないよ。」


 今度はさっきよりもはっきりした笑顔で、何かを吹っ切るように朱音は言い切ったのだった。

 というか、朱音は俺達のミッションに協力してくれるつもりなのか?

 そこでミレーユが、ふと何かを思いついた様子で口を開き


「あ、それなら……私達、悪魔の契約を履行するための部活動を作りたいのだけど、部の創設に部員が三名必要みたいなの。もし朱音が入ってくれたら、部員が三人になって部を創設できるのだけど、良かったら入ってくれないかしら?」


 そう言って、ミレーユが朱音を部活に勧誘し始めた。


 ふと思い返せば、朱音とミレーユの出会いは朱音が熱心に陸上部に入らないかとミレーユを勧誘したのがきっかけだった。

 それが今、勧誘する側とされる側が入れ替わっている。

 人と人の縁というのは……いや、この場合は違うか。

 人と悪魔の縁というのは、不思議なものだな。

 そうしみじみ思いながら、俺は二人のやり取りを見つめていた。


「入るのは構わないけど、どうして契約の履行に部活動が必要なの?」

「私が部活に入っていない状態だと他の部活からの勧誘がしつこくて。他の部活に入って放課後とかの時間を取られると、ミッションが出来なくなるのよ。」

「なるほどね。要は、前のあたしみたいな人の勧誘から逃げるための口実なわけだ?」

「身も蓋もない言い方をするわね、朱音。まあ、言ってみればそういう事よ。どうかしら?」

「いいよ。あたしみたいなただの人間が何処まで役に立てるかどうかはわからないけど……でもあたしも、協力できる事は協力したいから。」


 朱音がミレーユの提案を受け入れた事で、部活の創設が決定した。

 それから俺達は昼休みが終わるまで、部活の名前や創設届けに記入する活動内容、顧問の先生などの以前保留にしていた件について話し合ったのだった。


 ――――――――――――――――――


 放課後、俺達三人は職員室に部活の創設届けを提出しに行った。

 昼休みの話し合いが時間内に終わらず、放課後もその続きをして紆余曲折を経ながらも、一応の結論が出たのだ。

 下校時間が迫っていたが「善は急げ」という事で今日中に提出する事になった。

 俺は話し合いで多数決の結果決定した内容に不満があったので、届けを受け取ってチェックをしている先生が申請を却下する事を祈っていたのだが、そうはならなかった。

 良くも悪くも、部の創設条件が緩い学校だったのが災いしたのだ。

 ちなみに、何故俺が不満を持っていたのかというと。


 まず一つ目。

 創設する部の名前が「風紀部」。

「学内外を問わず悪を取り締まる」部なんだから、という理由で朱音が提案したものだ。

 俺は「風紀委員会と被ってるだろ! 紛らわしいし風紀委員から目をつけられたらどうするんだ!?」と反対したのだが、多数決で賛成2(朱音とミレーユ)・反対1(俺)で押し切られてしまった。


 二つ目。

 活動内容が適当過ぎる。

「学内外における風紀の乱れを正すため、臨機応変に学内外で取り締まり及び奉仕活動を行う」という、抽象的な上にまたも風紀委員会と被っている内容だ。

 ちなみにこちらはミレーユの提案で、これも多数決で賛成2(ミレーユと朱音)・反対1(俺)で押し切られてしまった。


 そして最後が、顧問の先生の選択。

 この学校では部を創設する際、顧問になってほしい先生に直接お願いして、創設届けの顧問欄に先生の名前とハンコを貰わなければ届けを提出できない。

 顧問は掛け持ちできないので顧問をしていない先生を探す必要があったのだが、朱音のクラスの担任がちょうど顧問をしていないという事でお願いしに行ったのだ。

 朱音がその先生を見つけて声をかけた時、俺は思わずギョッとしてしまった。


 先生の名前は八雲やくも いのり

 20代半ばくらいの若い女性の先生で、担当科目は女子の保健体育。

 170センチ近い長身に黒いショートカットの髪が特徴のキリッとした美人なのだが、ガサツな上にとにかく口が悪い。

 何故俺が彼女についてそんなに詳しいのかというと、去年の俺のクラスの担任がこの人だったためだ。


 特に嫌な思い出として残っているのは去年の林間学校の時の事。

 クラスに友達がいなかったために旅館の部屋割からあぶれてしまった俺を、あろう事か八雲先生が強引に自分と相部屋にしてしまったのだ。

「幾ら先生と生徒とはいえ、男女が同じ部屋というのはマズいのでは?」と俺は危惧したが、そういった事は全くなかった。

 それどころか、夜の自由行動の時間に飲みに付き合わされ愚痴を聞かされたり(もちろん俺は飲酒していない)、おつまみを買いにパシらされたり、挙句寝る時も寝相の悪い先生に蹴られまくって碌に眠れないという散々な目にあった。


 そういう訳で、俺は八雲先生が苦手だったため「彼女が顧問を引き受けないように」と内心祈っていたのだが。


「部活の創設? 六角、お前陸上部辞めたのか? ……って、一ノ瀬じゃないか!」


 創設届けを眺めていた先生が顔を上げ、朱音の後ろにいる俺に気付いて意外そうに反応する。

 更に俺の隣にいるミレーユをちらっと見てから、創設届けに視線を戻し


「ほうほう、なるほどねぇ~……。正直面倒だから断ろうかとさっきまで思っていたんだが……面白そうだし、引き受けてやるよ!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 顧問を引き受ける事を了承した先生に対して朱音がお礼を述べる。


 よりにもよって、八雲先生が顧問になるとは……。

 まだ部活動を開始すらしていない段階なのに、俺は早くも目眩がしてきたのだった。


 ――――――――――――――――――


 部の創設届けを提出し終えた俺達は、下校時間が近い事もあり今日はこのまま解散する事になった。

 本格的な活動は明日から開始だ。

 俺とミレーユは夕食の食材を買いにスーパーに寄ってから自宅に向かった。

 そして自宅まであと少しというところに差しかかった時、俺の向かいの家(火事で燃えた家)の前に人影を見つけたのだ。


 一体誰だ?

 もしかして警察とかの関係者だろうか?


 そう思いながらも自宅への帰路を進むにつれて、暗くて見えなかった人影がはっきり見えるようになっていく。

 自宅のすぐ手前まで近づいたとき、その人影の正体はわかった。


「……っ! お前は!」

「あら? お久しぶり……というほど日は経っていませんわね。こんばんは、一ノ瀬さん。」


 人影の正体はエレナだった。

「ミレーユと同じく地獄から来た悪魔である彼女が何故こんな所に!?」と俺は警戒し、思わず身構える。

 そこでミレーユがやや前に出て


「エレナといったかしら? 私はミレーユ・ヴェル。貴方と同じ悪魔よ。一体何の目的があってここに来たの?」


 と緊張した面持ちで尋ねる。

 エレナは以前会った時に見せた上品な微笑みを浮かべながら


「目的? 悪魔の目的など一つしかないのではなくて? 貴方も悪魔なのでしたら、そのくらいおわかりではないかしら?」


 エレナはくすっと笑ってから、更に意外な提案をしてきた。


「よろしければ、今から少しお時間を頂けないかしら? 先日はご挨拶だけでしたし、貴方達とゆっくりお話してみたいのですわ。貴方達もわたくしの事が気になっているのでしょう?」


 そこで俺はミレーユと顔を見合わせる。

 確かに今はわからない事だらけだし、本人から直接事情を聞けるならそれに越した事はないだろう。

 彼女とそのマスターとやらが敵なのか味方なのか、早めにはっきりさせておくべきだ。

 そう判断した俺達は頷き合い


「わかった。ここで立ち話できるような話題でもないだろうし、とりあえずうちで話そう。」


 こうして、俺達はエレナを自宅へ招待する事になった。

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