boy meets girl of the devil
みんなは「悪魔」という単語を聞いて、どんな姿の悪魔を想像するだろうか?
例えば、ゲームやアニメに出てくるような禍々しいものだったり、昔の絵画に描かれているような羊の頭に角が生えたもの?
はたまた、人間に角や翼、尻尾などが生えただけの人間に近い外見のもの?
俺の世界に住んでいる悪魔はそのどちらでもなく、何処からどう見ても(少なくとも外見上は)人間にしか見えないものだった。
「どうしてそんな事がわかるのか」って?
何故なら……俺は、出会ってしまったからだ。
本物の悪魔に。
自分のことを悪魔だと名乗る美少女に。
俺は一ノ瀬 和也。
某県の円間学園という男女共学の学校に通う高校2年生の16歳。
勉強は得意で、学年トップをいつも争っているほどだが運動はあまり得意じゃない。
友達も決して多い方とは言えず、クラスで話す相手が数人いる程度だ。
家の方はというと、父が海外に単身赴任中(半年に1~2回くらいの割合で帰ってくる事がある)で、母は数年前に事故で亡くなっているため実質一人暮らしの状態になっている。
さて、自分の事について語るのはこれくらいにして、そろそろ俺が初めて悪魔と出会ったときの事を話したいと思う。
――――――――――――――――――
それは5月のゴールデンウィーク明けの学校帰りの事だった。
ゴールデンウィーク中に近所で通り魔に刺されるという事件が何件か発生したのだが、犯人がまだ見つかっていないらしく、帰りのHRで学校の先生が「気を付けて下校するように」と注意を促していた。
しかし、俺には一緒に帰るほど仲が良い友人は特にいない。
故に、いつも通り一人で下校する事になった。
そして、帰宅途中にある人通りのない道で、俺は不審な男に出会った。
その男は帽子を深く被り、右手にナイフを持っている。
―――まさか、こいつが例の通り魔か!?
そう直感した俺は、すぐさまその場から逃げようと走り出した。
だが運動が得意でない俺は走るのがあまり速くなかったため、通り魔にあっという間に追いつかれてしまった。
―――くっ……逃げ切れない! どうすればいいんだ!?
必死に頭を回転させてどうすべきか考えたが、それは間に合わなかった。
俺を追い抜いた通り魔が急にこちらへ方向転換し、俺のお腹にナイフを思いっきり突き刺したのだ。
「ぐあっ!!」
刺されたお腹からは血が激しく溢れ、体に力が入らなくなって俺はその場に崩れ落ちた。
逃げ去る通り魔の後ろ姿を、俺はうつ伏せに倒れた状態のまま見ていた。
しかし、視界が次第にぼんやりとし始める。
このまま、ここで死ぬんだろうか?
俺の意識が闇に沈みそうになった、その時。
「死にたくないなら、私と契約しなさい。そうすれば、貴方を助けてあげる。どうする?」
……声が、聞こえる。
女の子の、声?
助けてあげる、ってどういう事だ?
契約って、一体……?
「契約しないの? なら、貴方はこのまま死ぬ事になるわよ。それでもいいの?」
……死ぬ?
俺が?
契約しないと、死ぬだって?
どうすべきか暫し逡巡するが、あれこれ考えているうちにも段々意識は遠ざかっていく。
駄目だ、このままじゃ本当に死んでしまう!
どうせ死んでしまうくらいならいっその事……可能性に賭けるしかない!
「わかった……契約、する……。だから俺を……助けて、くれ……!」
何とか声を振り絞り、俺はそう答えた。
「了解よ。では、これにて契約成立ね。これからよろしく。」
ふと気がつくと、俺は通り魔に刺された道で倒れたままだった。
何とか立ち上がり自分の体を見回すが、刺されたところの服が少し破れているだけで血や傷などは何処にも見当たらない。
―――俺、本当に助かったのか? それともさっきのは、夢……?
「やっと気がついたのね。起きるまで待ちくたびれたわ。」
不意に、俺の背後から声がかけられた。
さっきも聞いた、女の子の声で。
後ろを振り返った俺の目に映ったのは、一人の美少女だった。
少女は鮮やかな金髪をポニーテールでまとめ、フリルのついた黒いワンピースを身に纏っている。
ワンピースのスカート部分は膝よりも少し上で、細く白い脚が艶かしい。
全体的にはスレンダーな体型だが胸は大きめで、身長は160ちょいくらいだろうか。
年齢は俺とあまり変わらないっぽい感じで、ちょうど女子高生くらいに見える外見だ。
何より印象的だったのは、ややつり気味の大きな赤い瞳。
顔自体はやや童顔に見えるが、目の印象が相まって勝気な感じがする。
外人だろうか?
それともハーフ?
そんな疑問を抱きながらも、助けてくれたお礼がまだだったのを思い出した俺は
「ありがとう。助けてくれた……んだよな? ところで、君は……?」
と質問したのだが、返ってきた答えに俺は耳を疑わざるを得なかった。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はミレーユ・ヴェル。地獄から来た悪魔よ。」
「え……悪魔?」
「そうよ、悪魔。まさかとは思うけど、私が普通の人間だとでも思っていたの? もし本当に私が普通の人間だったら、貴方を瀕死の状態から今みたいに治せる訳ないでしょう?」
「!?」
そうだ、その通りだ。
こんな事、普通の人間に出来るわけがない。
当たり前だ。
じゃあ、この少女は、本当に……!?
「そ、そういえば俺も自己紹介がまだだったよな。俺は一ノ瀬……」
混乱した頭を切り替えるため、強引に話を逸らそうとしたのだが。
「知っているわ。一ノ瀬 和也、年齢は16歳。誕生日は7月13日で血液型はAB型。円間学園の2年生。家族は父親のみだけど現在は単身赴任中だから、貴方は一人暮らししているのよね?」
「ど、どうしてそれを!?」
「悪魔が人間と契約すると、その人間の個人情報が自動的に契約した悪魔に送られるの。だから貴方の事は何でもお見通しよ。」
にわかには信じがたいが、今までの情報を整理して考えても、目の前の少女が悪魔であるという事はどうやら本当だと信じざるを得ないようだ。
そう心の中で観念した俺は、さっきから気になっていた事を少女に尋ねる。
「ところで、さっき契約とか言ってたけど、一体何なんだそれ?」
「そうね、そろそろ説明するわ。少し長くなるけど、いいかしら?」
「ああ。」
「まず契約についてだけど……悪魔と人間が契約すると、契約した人間は特別な力を使えるようになるの。」
「特別な力って? 例えば手から火の玉を発射出来るようになるとか?」
「違うわ。そうね……例えば『特定の物や場所を対象にする事で、対象となった物の過去を5分前まで遡って見れる』とかかしらね。どんな能力を得られるかについては、契約した悪魔と人間の相性などの複数の要素で決まるわ。基本的に殺傷力があるような類の能力は発生しないけどね。」
意外とショボイな……。
そう思いながらも、口には出さない。
何せ目の前にいるのは本物の悪魔なのだ。
不用意な事を言って機嫌を損ねるのはマズいだろう。
「それで? その力を使って何かするんだよな?」
「察しがいいわね、その通りよ。契約した人間に課せられるのは、罪人の減少、もしくは撲滅よ。」
「ええ!? それって……『罪人を殺せ』とかそういう事か?」
「違うわ。要は、悪意のある人間が罪を犯す前に捕まえて被害を拡大しないようにしてほしいのよ。」
「ああ、なるほど。要は犯罪の予防とかそういう感じのものか。」
「犯罪だけとは限らないけれどね。警察に罪に問われなくても悪事だって言えるようなものもあるし。」
「例えばいじめとか? まあ、とりあえず大体わかったよ。でも、何でそんな事を悪魔が?」
「そうね……貴方は地獄って、どういう所だと思う?」
質問に対して、ミレーユから更に質問で返された俺は首を捻りつつもその質問に答える。
「罪人が死後に辿り着き、閻魔様から審判を受けて犯した罪を償う所だろ?」
「まあ、人間の認識としてはそんなものかしらね。でも、100%正解じゃないわ。」
「え、違うのか?」
「地獄というのは、罪人が現世で『償いきれなかった』罪を償うための場所なのよ。例えば、3人の人間を殺した人間が現世で死刑にされたとするわ。そうすると、殺した人間は3人なのにそれに対して執行された罰は罪人1人の死刑のみ。3-1=2よね? 残り2人分の罪に対する罰は?」
「命の重さはみんな同じ。だから、残り2人分は完全に償った事にならないって事か?」
「そういう事よ。だから、その残り2人分の罰を罪人に与える必要がある。そこで地獄が出てくるわけね。」
「なるほどな。でもそれと罪人の減少・撲滅がどう関係あるんだ?」
そこでミレーユは、さっきまで無表情だった顔をしかめ、やや切羽詰まったような表情になった。
「質問ミスったかな?」と一瞬思ったが、幸いミレーユは答えてくれた。
「地獄のキャパシティが、限界に近付きつつあるのよ。このままだと、近い将来……今のペースだと後1年以内には罪人を収容できなくなるわ。だから、罪人の減少・撲滅を図ってそれを何としても回避しなくてはならないの。」
「後1年って、もうすぐじゃないか! もし回避できずにキャパシティが限界に達したら、どうなるんだ?」
嫌な予感がしつつも、質問せずにはいられなかった。
一拍置いてミレーユからもたらされた返答は、非常に深刻なものだった。
「キャパシティが限界に達した場合、罪人を地獄に収容できなくなるわ。もちろん、天国に行けるわけでもない。そうすると……行き場を失った罪人は、再び現世に戻ってくるの。生前の悪意を受け継いだまま、人間として転生するのよ。」
「な、なんだって!?」
「もしそうなったら、世界がどうなるかなんて想像つくわよね?」
俺は思わず拳を握りしめ、冷や汗をかいていた。
もしそんな事になったら、現世が地獄と化すのは明白だ。
何としても、それだけは避けなくては!
拳を強く握り締め、契約した事に対して後ろ向きだった気持ちに喝を入れると、それをまるで見透かしていたかのようにミレーユは微笑みを浮かべる。
うっ……悪魔だとわかっちゃいるけど、可愛いな。
さっきまで青くなっていた顔が今度は赤くなったのを自覚しながらも俺は答える。
「つまり、悪事を働こうとしている人間を未然に止める、既に罪を犯した人間に対してもこれ以上罪が重くなる前に捕まえて出来る限り現世で罪を償えるようにし、地獄にかかる負担を抑える……それが最悪の事態を回避する、唯一の手段って事だな?」
「ええ、そういう事よ。改めて……協力してくれるかしら?」
「正直、あまり乗り気じゃなかったんだがな。もうそこまで危機が迫ってるって事を聞かされたし、命を助けてもらったし、契約も既にしてしまってるし……とりあえず、協力するよ。」
こうして、俺、ミレーユと名乗る悪魔、そしてまだ見ぬ他のヒロインや友人達、その他多くの人を巻き込み、物語の幕は上がった。
初めまして。
今回の作品が初投稿になりますが、いかがでしたでしょうか?
割とテンプレというかありがちな感じかな?という自覚はありますが、何とかまとまった所まで書き上げる事ができました。
今後も定期的に書いていければと思いますので、もし良ければこれからも読んでやってください。