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<<Chrono Drive Online>>(仮)  作者: Wizadm
2Chapter//VR Research Club
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11.深海の児戯 後編



「ふむ、なるほどな。確かにそれならあそこまで跳べるかもしれん…だが、卿はどうするつもりだ?」


何とか絞り出すように考えた案を全員に話してみたところ、意外と常識人だったユーリスにそんなことを聞かれた。


「それもそうですね。おに…ゲフンッ。リュートさんは、どうされるおつもりですか?」


それにミィも便乗してくる。

誰も突っ込みを入れないのは、ある種、暗黙の了解的なものなんだろうか…


「あの高さだ。落ちたら即死だぞ。ある程度抑えられてるとは言え、向こうの肉体に多少のフィードバックが起こるはずだ…本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫かと聞かれると難しい所だな…一応案はあるんだけど、失敗したら確実に俺だけ死に戻りすると思う」

「そらみろ、なれば許可できん。我がソウルメイトに苦痛を味あわせて、我らだけが残ってしまう様なものは認めん!」


少し怒った様にそっぽを向くと微妙にこっちを睨んでくる。

一瞬、子供っぽい癇癪だなとも思ったが、言っていることは仲間思いのいいセリフなので茶化すのは止めておいた。

何より、自分のことを心配してくれているのにそれを茶化すのは、正直嫌だった。


「じゃあ、他にいい案がある?」


できるだけ怒らせないことを意識して、ゆっくり話す。


「そ、それは……ない。ないが…」

「それで?成功確率は、どれぐらいになるのかな?」


ツッキー♪が言いよどんだユーリスに代わり話を続ける。


「ツキ姉ぇ!?何で!まさか、やらせるつもりなの!!」

「千代こそ、いつまで駄々を捏ねている…」

「…えっ」


ツッキー♪――いや、天戯会長が見たことがないくらい冷たい目をしていた。

出会ってまだ数日しかたっていないが、ここまで冷たい目をしている会長は初めて見る。

それも、いつもまるで妹の様だと言っているユーリス――千代部長に対してだ。


「君は、彼が今どんな気持ちでその作戦を立てたと思っているんだ?…みんなの為に、自分を犠牲にしてでもやってやろうというその決意を、君は認めないというのか?」


その迫力にその場の全員が押し黙る。

そして、ユーリスが黙ったのを確認してから、ゆっくりとこちらを向いた。


「すまない…君の決意を汚すようなことをしてしまって。ユーリスに代わって謝らせてほしい」

「い、いえ、そんな…気にしないでください?ね?」

「そんなわけにもいくまい…本当にすまない」


深く頭を下げられ、ものすごく困る。


(い、言えない…そんなこと全然思わず、「別に死に戻りしてもいいや。報酬も微妙だし」なんて考えてたことは。死んでも言えない…)


冷汗がツーっと、背中を流れる感覚が、ばれたときの恐怖を助長していた。

もう笑って誤魔化すしかないだろう。どう頑張っても、苦笑いにしかならないが…


「さ、準備を始めてしまおう」


会長の一言でみんなが一斉に動き出す。

その言葉は、日ごろから人を動かしている人物のそれだった。

それこそ、俺みたいなにわかとは違って…





side 天戯 菜月(ツッキー♪)


「ツキ姉…」

「心配するな。私が全部引き受ける。そう言っただろう?…それより、例のプログラムの痕跡は?」


責めるような、それでいて心底申し訳ないような、そんな顔で、千代――今はユーリスだったか?が私の名を呼ぶ。

そんな顔をしないでほしい…この子には笑顔でいてほしい。

むしろ、さっきの…クエストのクリアの為に、彼に死んで欲しいと言った私が責められるべきなのに…


そんな思いを胸の奥に押し込んで千代に活動の進展を聞く。

もちろん部の活動ではなく、私たちの目的の方、つまり、部室でこの子が言った()になること《・・・・・》の方だ。


「うん、あったよ…やっぱり、このクエストを進行させればさせるほど痕跡が見つかってる。おそらくはクエストをクリアすれば追跡が可能だと思うよ」


やはりこの子は天才だ。この子の両親の血を確実に受け継いでいる。

私みたいなのとは…欠陥品なんかとは違うのだと、強く意識してしまう。

だが、私はこの子が好きだ。大好きだ。それこそ、何を犠牲にしてでも守るぐらいには…


…いけない、どうも感傷的になっているようだ。


「それにしても――」


そう呟いた私を千代が不思議そうに覗き込んでくる。

その行為にわずかな微笑を浮かべ、こう答える。


「いつもその口調だったら私も楽なんだがな…」


すると千代は、何を言っているの分かっていない顔をした後、急に「しまった」と言った風になって、口元を隠してしまった。

その様子を見て私は思うのだ。


――あぁ、やはりこの子は可愛らしい。


side out





「さて、じゃあ始めようか?」


準備を終え、俺は全員に確認を取る様に告げると、帰ってきた言葉は全て「是」だった。

すぐにレイドの全員が所定の位置に付く。




俺が考えた作戦と言うのはこうだ。


先ず、俺が長めのロープを持つ。


次に、そのロープの反対側をユーリスの『地属(アース):大砲』の砲弾に巻き込むように砲弾を作ってもらい、撃つ。

そうやって普通のジャンプじゃ届かない所まで打ち上げてもらう。

しかし、それだけではStr.の低い俺は、途中でロープを離してしまってあのガラスまではとても届かないだろう。


そこで、一つ目の難題。

魔法による吹き飛ばし、もしくはノックバックで飛ぶ。もっと言えば吹き飛ばされる。と言うのを体験する。


『エクスプレッション』という水圧で攻撃する魔法で吹き飛ばしてもらう。

一応、攻撃力の一番低い水魔法で押し上げてもらう予定だが…打つのがドジ子さんだ。

まぁ、一度もドジなんてしていないし、ただの言いがかりに等しいわけだから信用してるけれど。

人間が打ち上がるほどの威力で打つわけだから…まぁ、ね。


そして、次の難題。

そのままガラスを斬る…これが一番難しい。

不安定な空中で、しかもノックバックしている。

もしノックバックがガラス付近に到達しても切れなかった場合、打つ手無しで俺は地面に落下することになる。


それで、他のメンバーはと言うと…




「落下してきても絶対受け止めてやるから。…できるだけゆっくり落ちて来いよ?」

「落ちてきたら初めて会った時の意趣返しをしてやるですよ!…あの恥ずかしい思いを思いしれです」

「ボクはどうしよっかな~…フフフ」




落ちてきたときの救助要員なのだけど…

心底怖い。特にあの3人は要注意だろう。


「では、打ち上げるぞ?」


砲台を設置したユーリスが、最後の確認とばかりに心配そうに見上げてくる。


「ああ、やってくれ…」


意気込み、ロープを持つ手に力を込める。







しかし、いつまでたっても打ち上げてくれない。

怪訝に思って振り向けば、ユーリスは俯いていた。


「…別に、やめてもよいのだぞ?」

「それはさっき終わった話だろ。いいから撃ってよ?部長」


さっきまでと同じ問答の繰り返しになりそうだったので、俺の決心が揺らがないうちに打ち上げて貰おうと催促のつもりで言ったのだが、部長が首を縦に振ることはなかった。


「怖くはないのか?みんなが勝利を噛締める場に自分だけがいないなんて…嫌じゃないのかっ!?私はな?こんなのでも『部長』なんて役職なんだ。最近までおまえに友人が居なかったこ


とぐらい知っているんだ…せっかくできた友人なんだろう!?勝ったときにみんなで一緒に居たいはずだろうっ!?」


それは真剣に俺のことを考えて言ってくれた言葉だった。

おそらく、まだ短い俺の人生の中で聞いた言葉の中で、一番俺のことを考えてくれてることがわかる言葉だ。

聞きたくても聞けなかった、親にかけて貰いたかった『言葉』そのものだった。

すごく嬉しいし、心の底から暖かい気持ちになった。

でも、


「――それでも、打ち上げてください」

「っ!?なんでだ!?なんで…おまえも…ツキねぇも…」


ユーリスの顔が一気に苦虫を噛み潰したようになる。

その言葉に気持ちが揺らがなかったわけではないし、正直もういいんじゃないかとも思ったけど、そう言った。


「やりたいんだ」

「…なにを」

「俺が、やりたいんだ。ほとんど人の役に立たなかった俺が、友達の為に何かできるんだから…やりたいと思っても、いいでしょう?」


全く…そんな辛気臭い顔されたら、決心が鈍りそうになるじゃないか…


「それに、俺は犠牲になる気なんて一切ないですよ。だって、落ちてきたら受け止めてくれるんでしょう?」


信じてますから。そう言い切って、発射台で待つ。


「もう、いい」

「へ?」


俺が間抜けな声を上げた次の瞬間には、


「…何処へなりとも、とんでいけぇぇぇ!!」


砲台が発射音を大きく反響させて、俺は空中へ放り出された。

いきなり打ち上げられて、俺にはよく見えなかったけど。




彼女がすっきりした顔だったのは、きっと見間違いじゃないだろう。










「うっ……っ………ぁっ…」


空気の流れが速すぎてうまく息ができない。

正直、ここまでとは思っていなかった…

何もここまで創り込むこと、無いだろう。

腕が千切れそうだ…


(は、は…、流石に、もう、無理…)


パッと手を離して、落下する。

このまま何事もなければ、下を見れば『水属性』の青色の魔法陣が見えるはず…なん、だが…


だがしかし、俺の予想は全くの的外れ。斜め上方向に

いや、魔法陣はあるんだ…魔法陣はね。

ただ、なぁ…あれならない方が、良かったかもしれない。


なぜなら、俺の眼下に見えるのは()()()()魔法陣だったから…









Side ドジ子


ど、ドジ子じゃないですぅ!?

あ、あう、ついさっきのことを思い出してしまいました。

あのリュートさんという方は酷いです…


今日は――あ、いえ、今日もドジをしていないというのに、私をドジ子…ドジ子と…

何故に私がドジ子なのですかぁー!?


「よし!成功だな!」


ミィちゃんが声を上げています。きっとリュートさんが作戦に成功したのでしょう。

良かったのです。


…………………

…………

……


ということは…私の出番ですぅ!?

は、早くしないと落ちてきてしまいます!

え、えぇ、あ、えと、エクス…エクス…


「エ、『エクスプロ―ジョン』!!」


や、やりました。落ちる前に唱え切りましたよ、ミィちゃん!!

て、え?あ、あれれぇ~?みなさんそんな怖い顔して、どうしたんですかぁ…?


も、もしかして…また、私、やらかしたのですかぁぁぁ…!?


Side out





結果的に言おう。

俺はまだ生きてはいる…爆炎と呪文を聞いたときは死んだと思ったが。

てか、『エクスプレッション』と『エクスプロージョン』を間違えるか?普通…


「水虎のローブのおかげだな…無かったら死んでたわ…流石だわ。木端微塵なめてたわ。」


自身のHPバーを見れば減っていなかったはずのそれが、その辺のゴブリンに小突かれたら死んでしまいそうな量に減っていた。

暑さを何とかするために着ていたのが、功をそうしたらしい…


「さぁて?来ちまったなぁ…吹っ飛んでシャンデリアに引っかかるなんて、俺の運も捨てたもんじゃない」


意外と広いシャンデリアの上を見渡してふと、スキルスロットに入れっぱなしの幸運のスキルを思い出した。

…俺の運じゃなくて、これのおかげっぽいな。

下ではドジ子さんがみんなに怒られている。…いや、ツッキー♪とユーリスがみんなから少し離れたところにいる?どうかしたんだろうか?


まぁ、今はいい…俺はどうにかしてこれを壊せばいいんだ。

鞘から剣を抜き、目の前の標的に叩き付ける様にふるった。

思いのほか、ガラスは脆かったらしく簡単に砕け散った。


「クエストクリア…」

「ええ、本当にありがとう…」

「うわっ!?…本当に亡霊だったのな。ディータ」


振り向けばディータが目の前に浮いていた。

嬉しそうな顔をしているが、どこか悲しい感じが抜けないようだ…


「みんなも喜んでいるみたい。さっきから嬉しそうな声がやまないんだぁ」


つられて周りを見れば黒っぽい光が、少しずつその色を落としながら輝き、動き回っている。

さながら光がワルツを踊っているみたいだ…光同士が交差して…


「綺麗、だな」

「うん」


月並みな感想しか言えない俺だけど、きっと今はこの表現が正しいだろう。

だって、それ以外にこの光景を言い表す言葉を、俺は知らないんだ。


「ねぇ、おにぃちゃん?おにぃちゃんの名前って、何て言うの?教えてよ。あ、ちゃんと本名だよ?」

「ああ、いいよ。俺の名前は『リュ――いや、俺の名前は、『琴見 影斗』だ」

「そっか。影斗おにぃちゃんかぁ。えへへ…私、ここで待ってるから…また会いに来てね?絶対だよ?」


コロコロと無邪気な笑顔を振りまきながら、幼女は小指を出す。


「それも約束か?」

「うん、そうだよ。約束してくれないと取りついてやるから」


それに小指で返してやると、さらに笑顔が深くなった。


「本当に、ありがとう。…私の勇者様」


それだけ言うと、幼女の亡霊は俺の頬にキスして消えた…

うん。ちょっとドキッとしたのは秘密だ。

俺はロリコンじゃないからな。

そんなことを思って、うんうんと一人で頷いていると、下から叫び声が聞こえた。


「ね、ねぇ!!外!外、見てみんな!!」


外?海だよな?と、外を見れば――


「ははは…、ホント何でもありだな」


――太陽に照らされた、美しい街並みが覗いていた。













――第1次フェーズ 移行条件 ヲ 満タシマシタ


――第1次フェーズ ニ 移行 ヲ 開始 シマス


――移行予定時間 ハ 残リ 2日 デス





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