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<<Chrono Drive Online>>(仮)  作者: Wizadm
2Chapter//VR Research Club
23/26

10.深海の児戯 中編

大変遅くなりました…

今回前後編のつもりだったのですが、書けば書くほど増えていってしまいまして…

前中後の編成にすることにしました。

次はもう少し早く更新できるはずです。…たぶん。

突然崩れ去った、ボスだと思っていた人形に呆気にとられていたが、ハッとして、先程まで人形がいた場所を緊張感の高まりと共に見つめる。

徐々に人形を形作っていたポリゴンの砂煙が晴れ、その中心に140cm位の人影の様なものが見えてきた。

そして、全貌が明らかになって、またしても俺は呆気にとられることになる。


「女の、子…?」


ブロンドの長い髪を後ろへ流し、碧い目をした9歳程の普通の女の子だった。

補足するなら服装は先程までの人形とは似ても似つかない白のフリルの付いたドレス、頭には慎ましやかにティアラが乗っている。

唯一、何かおかしな所を抜き出せと言うのなら1つだけ…

その女の子が半透明な事だろうか。


「あ、あははは…」


乾いた笑いと共に口の端が引きつっていく。

幽霊(ゴースト)、そんな言葉が頭を過ぎったがどう見ても違う。

このゲームの幽霊(ゴースト)は、半透明の白い布が宙に浮いている様なデフォルメの幽霊(ゴースト)であって、あそこまで完全な人の姿なんて持っていない。

つまりはあれは『そういう類』の上位互換なんだと思う。

しかしそれはそれとしても、だ。


「なんて…やりにくいボスなんだ…」


今まで戦ってきた中で一番討伐の難易度が高いんじゃないだろうか?

その精神攻撃の前に、俺自身も、仲間たちの誰もが、残り25%のHPを減らすことができない。

未だに精神異常にかかったままの3人はさっきから防御の姿勢を崩さなくなった。

険しい顔を見るに、先ほどまでの人形の攻撃を防いでいるという幻を見せられているのだろう。


「グッ!?勝てない、のか?」

「この我の力を持ってしても一撃も与えられぬとは…」

「わ、私には…できない、こんな、こんなの…」

「む、む、無理ですよぅ…私には、私には…ヒック、うぅぅ…」


一人また一人と仲間たちが戦意を抱けなくなっていく。

かく言う俺も…もう…


「いったいどうしろって言うんだっ」


どうしても、どうしても攻撃できないのだ。

この精神攻撃をされて、もし攻撃をできるとしたらそいつは精神的に破綻していると思う。

その究極と言ってもいい精神攻撃の名を、世間一般の人はこう言う。


――『涙を流す』


そうだ、やつは涙を流している。

というか泣いている。

実に子供らしく、それも、俺たちに対して何故こんな酷い事をするのかと泣いている。

そんな風に嘆く女の子に、刃を突き立て、相手を殺すための魔法を放ち、倒せと…

運営のやつらは言うのだろうか。


「リュート…もう、諦めよう…俺たちには…無理だ」

「いや、駄目だ…やるんだ!何としてでもっ!!」


俺を止めようとするユースケの手を振りほどいて、震える手を押さえ込んで剣を握る。


「だけどよぉ、そんなこと言っても…」


止めを刺す…たった、たったそれだけの事だ。

事実、さっきまでのゾンビや人形は簡単に止めを刺せた。

特に何も思わず急所を狙って速さすら競った。

こっちで20年以上も同じことをしてきたんだぞ!


「なのになんで、今更、人の姿ってだけで倒せないんだよ…」


無理やり搾り出したなけなしの覚悟も、武器を握る力と共に霧散していく。

無理…なのか?


――本当に…?


諦めかけて、他の方法を探そうとしたときだった。


「…そうか。そういうことなのか」


目の前に浮かんだ可能性に純粋に笑い声が漏れた。

この理不尽なボス戦の運営なりの落とし所に合点がいったのだから。


「あは、あはははは!くははははは!!」

「そんな…リュートさんが、壊れちまってるです!」


失礼な…まあいい、それよりこっちのほうが大事だ。

文字通り目の前に浮かんでいるこいつの方が。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


イベントクエストNo.N000002


深海の亡霊都市


やはり夏と言えば、海と怪談!

これ以上無いほどの攻略難易度に恐れおののけ!

今回のお題はこれだ!


[亡霊の人形、亡霊少女ディータの撃破]


諸君がこれをクリアしない事を心の底から願っている。

※このクエストは、No.N000003と同時に受ける事はできない。


◆クエスト報酬

第一撃破者のみ

呪われし亡霊の染杖 レジェンダリ


全員

呪いの黒杖 レア

水着(ランダム) レア

先行版クラン建設認可状 レジェンダリ


このクエストを受注しますか?

Yes/No?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


クエスト表示。

ギルドやNPCから受ける事ができる依頼、つまりはクエストの詳細。

つい先ほど、諦めかけていた時に目の前に現れたこの表示を見て気が付いた。


イベント戦、だったのかもしれない。


イベント戦とは、ある一定のイベントを進めるためにする戦闘、もしくは、何らかのクリア条件を満たす事によってイベントが進む戦闘の事だ。

今回の俺が語る可能性は、後者だ。

倒せないならイベントのクリア方法自体が間違っていると仮定するのが常道だろう。

おそらくこのNo.N000002はトゥルーストーリーではなく、バットストーリーなんだ。

その根拠として、運営がクリアしない事を願うなんて書いているし、注意書きにもこのクエストがもう1つのクエストと同時に受けられない事が明記されている。


「なら当然、答えはNoだろ!」


クエストの受注に関する質問におかしくなったテンションで答える。

しかし…


「いや、何の話だよ…」

「リュート…もしかしてクラスに話し相手もいないの?ボクでよかったら話し相手位はするよ?」

「ふ、ふむ。アカシックレコードにでも接続していたのか?」

「止めてもらえる!?そういうリアクション!」


聞こえていたメンバー全員から可哀想な者を見る目で見られて、普通に傷ついた。

と言うか、部長はこっち側だろうがっ…

取りあえず、表示されているYes/No?のNoをタップする。

すると、またしてもクエスト表示が開いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


イベントクエストNo.N000003


深海の児戯


まずは一言。


『よくやってくれました』


あなた方のパーティは目先の欲を打ち破り、見事、本来のストーリーを見出しました。

このクエストには報酬らしい報酬はほとんどありませんが、あなた方ならきっとクリアしてくれる事でしょう。


さぁ、深海に囚われし亡霊達に真の安らぎを…


[亡霊少女ディータの願いを聞き、亡霊達に真の安らぎを与える]


※このクエストは、No.N000002と同時に受ける事はできない。

※このクエストの受注を拒否した場合、No.N000002を再度受けることができる。

※このクエストはサーバーの関係無く一度しか受ける事ができません。


◆クエスト報酬

全サーバーの海上都市ナグルファルの開放

水着(ランダム) レア

先行版クラン建設認可状 レジェンダリ


このクエストを受注しますか?

Yes/No?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今度こそ迷う事無く、Yesを押す。

そして、パーティリーダーの俺がこのクエストを受注したので、レイドを組んでいる全プレイヤーにその旨が表示される。

そのおかげか何かは知らないが、みんなの俺を見る目が多少マシになっていた。

…若干3名は未だに何かと戦っていらっしゃる様だが。


「え、えぇと、ディータ…?」


嘆き続ける少女(見た目はどちらかと言うと幼女だが)に、どう声をかければいいのか分からず、尻すぼみになりつつも名前を呼んでみる。

すると、ピクリとだが反応を示した。

どうやら、この子がディータで間違いないみたいだ。


「あなたは、誰…?私を、知ってる人…?」


オズオズと絞り出しす声にゆっくりとだが、首を横に振って答える。

「そう…」帰ってきたのはその一言だけだ。

泣くのを止めたって事はイベントが進行したのだろうけど、とてもじゃないが願いを自分から言いそうにない。

プレイヤーの側が彼女に質問をしないと話は進まないのだろう。


「少し質問があるんだけど、いいかな?」


こちらの質問にコクリと首を縦に振ってくれた。

やはりこの方法で正しいみたいだ。

さて、問題はこの後どう質問するかなんだけど…


「それで?」


それで?と聞かれて、考え込んでいた俺の思考はとっさに、え?と聞き返してしまう。


「?聞きたいことがあるんだよね…?」


ディータが首を傾げて聞いてくる。

正直、こんな深海の墓場の様な場所じゃなければ和んでいただろう。

それぐらいに、そのNPCは人間らしかった。

しぐさや瞳の動きまで、常に滑らかさを失わない。

喋り声にはノイズを感じることさえない。


「あの…」

「え、あ、ああごめん。何か困っている事とかないかな?やってほしい事とかでもいいんだけど」

「………」


不信感を抱かせない様に、笑って言ってみたのだが、訝しそうな顔をして黙ってしまった。

質問の内容を間違ってしまったのだろうか。

しかし、この躓きの様な困惑は、次のディータの発言を受けて加速する。


「…ないよ。困って、ない」

「え?」


今度は俺が聞き返す番だった。

だって、意味が分からないのだ。

クエストクリアの第一条件は彼女から願いを聞くことのはずだ。

だが、その彼女はそんなものは無いと、そう言っているのだ。

つまり、このクエストは前提条件そのものが破綻してしまっている事になる。

なら、他にクリア条件がある?それとも何かを見落として――


「嘘吐いても、無駄だよ」


またしても思考に埋没する寸前で、風理がディータの言葉を嘘だと言い切った。

いや、それよりも嘘って…


「う、嘘なんて吐いてな――」

「それがもう嘘じゃないか。ボクに嘘吐いても無駄だよ。ボクはね、昔っから嘘の臭いに敏感なんだ」


風理は淡々と諭すかのように話す。

顔は終始にこやか過ぎて怖いくらいだ。


「わ、私は幽霊なんだから!お、脅したって――」

「うん、そうだね…嘘を吐く度に指を切り落とそうかな…あ、でもそっか幽霊じゃ無理かぁ」


頻りに首を傾げていた風理は、急に何かを思い付いた様にポーチ風のインベントリから小さめの瓶を取り出して、短刀の刀身にかけた。

煌びやかなダンスホールの真ん中で、ただただニコニコと語る風理に本能的な恐怖さえ感じる。


「聖水とかかければ、幽霊でも斬れるよね?」


これには物理的なものにはほとんど恐怖の色を見せなかった幽霊少女も恐怖を覚えるらしく、小さく悲鳴を上げて後退った。

しかしてそれは、自傷行為にほど近いものだった。

その行為は風理(ドS)の嗜虐心と言う名の火に油を注ぐようなものなのだから。


「駄目だよ動いちゃ…綺麗に斬れないじゃないか」


後ろに後退ったディータを、一歩一歩ゆっくりと近づき追い込んでいく。

ただ、俺にはディータの心はもう折れている様に見える。

目は涙目で足はガクガクと震え、さっきから呼吸も詰まるようになってきていた。


「ひっ…うっ…ご、ごめんなさ…ごめ…ゆるし…て」


遂にはまた泣き出してしまった。

その姿は可哀想でならないが、ここで手を出すとあの恐怖はそっくりそのまま、手を出した奴に降りかかるだろう。

触らぬ神に祟りなし、だ。


「うんいいよ?」

「「「え!?」」」


え?許すの?何がどうして?そんな表情をして困り果てているディータ。

さっきまでと同じに見ていても、何故か恐怖を感じなくなった風理。

そして、え!?と言ったままの状態で固まるそれ以外…

最早俺には、いや、ここにいる風理以外の全員には、風理が何をしたいのか全くと言っていいほどわからない。


「でも、許してほしいなら君の願い事を教えてくれないと、ね?」


その一言を聞いてやっと理解できた。

不甲斐ない俺たちに代わって説得役に回ってくれたのだ。

…あの嬉しそうな表情を見ていると実益よりも趣味を重視していた気がしないでもないが。


「さ、さっさとクリアして祝勝会でもしよう?」


言われてハッとする。

そうだ、まだこのクエストは終わっていなかった。

あの子の願いを聞いて初めて、このクエストのクリア条件が満たされるのだから…


「さあ、君の願いは?」

「私の…願い、願いは――」


しかし、願いを語ろうとした少女の口はまたしても閉口してしまう。

浮かぶ表情(いろ)は悲壮と、


「――願いを、言ってもいいのかな…」


ありありと浮かぶ迷い。


「何を…」


いったいこの子は、何を迷っているんだろうか。

願いを叶える…たった、それだけの行為に何を迷うというのだろうか。


「だって、だって…この願いを言って、貴方達が叶えてしまったら貴方達の――」


その先を語ろうとして、ガチッ!と甲高い音を立ててディータの口が不自然に閉じた。

おそらくは何か、システム的な干渉があったのだろう。


「なっ!?今の平気なのか?相当痛そうな音がしてたぞ!?」

「たぶん、平気だと思う」


ユースケが凄く心配そうな目でディータを見ているが、俺は特に心配はしていない。

何故ならそれは俺たちのよく知る、『技』を使うときの動きの不自然さに似ていたから。

そしてその、あまりにも異質な動きを見て、目の前のものが人間ではないことを思い出してしまう。

別に幽霊だどうだということじゃない。

今、目の前でディータに起こったシステムの干渉で思い出してしまった。

この世界の、どれもこれもが偽者で全部データの塊だってことを。

この子も、この部屋も、自分自身の体も…全部全部だ。


なら、これは、この彼女の台詞も葛藤でさえもイベントの演出なのだ。

今この状況の中でも必死に何かを伝えようともがく姿も、それができなくて涙を流して、それでもだめで、嘆いく、そんな姿も全てだ…

例えどれだけこの子が真剣だろうと、これがオンラインゲームである限りは何が起こっても対処できないということはない。

今の設定で無理なら、きっと運営が何か対処をするはずだ。


だから、ディータの方に向き直って告げる。

きっと大丈夫と、自分の中の気味の悪さから目を背ける。


「俺たちなら、大丈夫だから…だから、願いを言ってくれ」


この囚われの少女に自由を送ろう。

異様な静けさが包む中を、ディータの返答を待つ。

長い沈黙が続きついにディータが口を開いた。


「本当に、いいの?下手したらs――ま、またっ!」


またしても喋っている途中でシステムに邪魔されたためか、顔を赤くして、泣いているのか、怒っているのか、判り難い顔で地団太を踏み始めた。

…あぁ、シリアスのはずなのに。

何なのだろうか、この和みかねない感じは。


「ご、ゴホンッ…本当にいいの?」


気まずいのか一度咳払いをして、話を戻した。

むしろ微笑ましく見えたのは秘密である。


「ああ、絶対大丈夫だって、約束する。だから、教えてほしい。君の願いは、何?」

「…約束だからね?絶対…ううん、ここから先は言えないし、言わないけど、約束だから!」


すると、「ん!」と小指を立てて突き出してくる。

これはあれだよね…指きりってやつですよね…

指を繋げるとひんやりとした冷たさが指を張っていくのを感じる。


「ああ、約束だ…」

「うん…じゃあ、言うね。上を見て」


ディータの声に従って上を、天井を見上げる。

さきほどまでと変わらず、そこには壮麗なシャンデリアがあるだけだ。


「どうしたらいい?俺にはシャンデリアしか見えないんだけど」

「そのシャンデリアの真ん中に1つだけ色の違うガラスがない?」


…あった。微妙にだが、他の透き通るようなガラスと違い、1つだけ色が紫がかっている。

確認の意味でディータに視線を向けると、頷いて返してくれた。


「そのガラスを壊してほしいの。そうすればきっと…」


それに対してこちらも大きく頷く。

しかし、承諾したのは良いものの、俺にはあんなに高くにあるものに攻撃できる(すべ)がない。

…とりあえずは、後衛職の攻撃ができるやつにやって貰うべきだよな。よし。


「みんな、聞いての通りだ。あそこまで攻撃を届けられる奴はこの中にいるか!」


うちのパーティからユーリス、ミィのパーティから2人が手を挙げた。

内一人はさっき凄くキョドっていた女性だ。

この子はなんと言えばいいのか、雰囲気がドジっ子属性を帯びている気がするのだ…

今の所何もドジをしていないが、それが今は逆に怖い。


そんなことを言ってられるような状況じゃないので、もう準備を始めもらう――


「ちょ、ちょっと待って!!…く、くださ…い……」


――前に呼び止められた。

ミィのパーティの…確か、ユースケと一緒にきた緑の髪の子だ。

いったい何だというのか?いきなり叫ぶから、かなりビクッとしたじゃないか。


「どうしたんですか?」

「あ、え、ええと、ですね。…え、ぇと……その……ぅぁ…」


何の用か聞くと、段々と声が小さくなっていき、最後にはユースケの後ろに隠れてしまった。

まるで、小動物である。

…何がしたかったんだろうか。


「リュート、杏子ちゃんが取りあえずあの3人を治してからにしませんかってさ」

「杏子ちゃん?誰それ?」


ユースケの言った聞きなれない名前に誰のことかと聞き返す。

するとユースケは自分の真後ろを指さした。

ああ、その小動物っぽいのが杏子ちゃんね…

それで、3人を治してからだっけ…3人?


その疑問に杏子ちゃんと呼ばれた、ユースケの陰に隠れている少女がボス部屋の入り口の方を指さした。

その指さされた方向を見てようやく思い至った。

彼女の言っていた3人とはつまり、向こうの方で幻覚によって今も何かと戦い続けている前衛の3人である。

幻覚にかかってからずっと、今の今まで真剣な顔で戦っていらっしゃった。


「…やばいな。忘れてた」

「おいおい…」


呆れる様にユースケは首を横に振った。

しかし、俺は確信している。


「…ユースケだって忘れていたくせに。よく言うよ」

「な、何で知って――いや、違うから、俺は忘れてなかったって!ホントに」


「「「「「「………」」」」」」


今更取り繕ってももう遅い。

今もうすでに……女性陣の刺す様な視線がかなり痛いからだ。

凄い怖い。


「至急治すよ」

「当然です。と言うか、リュートさんたちも忘れちまってたんですか…サイテーですね」


いつもの様にジト目で突っかかって来るシラナギに「うるさいよ」と返しそうになって止める。

…今、『も』って言わなかったか?

まさかとは思ったが、取りあえずカマをかけてみる。


「…ホントだよな。シラナギも次は気を付けないとな」

「そうですよね。流石に友達の事忘れてたじゃすまねぇですから…ね……」


シラナギの顔がゆっくりとこっちを向いた。

顔が強張って、目が泳いでいる。


「………今の、無かった事にならねぇですかね」


もはや溜息しか出ない。

3人に近付きながらストレージを開けようとしてさっきシラナギにいくつか渡していたことを思い出した。

確か5つ渡していたからまだ余っているはずだ。


「そう言えば、精神異常の回復薬って確か、シラナギに渡してたはずなんだけど?」

「う、ばれちまったですか」


完全に目を逸らして言った後、はい。と、渋々3つの小瓶を渡してきたので、受け取った薬をササッと3人に飲ませる。

先ほどまでと同じように薬を飲ませると、案の定、飲ませた3人が涙目になるほど咽かえった。


しばらくして落ち着いてきたので3人にも事情を説明しておいた。

3人のうちミィが、ディータの話に差し掛かったところで青くなっていたが気づかないフリをした。


「――と、まあそんなわけで、後衛職の皆さん。射程の一番長い魔法や技で、あのガラスをぶち抜いてください」


完全に他力本願なことを堂々と言いつつ、天井からぶら下がるシャンデリアのちょうど真ん中、色の一つだけ違うガラスを指さした。

しかし――


「…今のワタクシの弓では、あの様に高い所へ撃ってもまず当たりませんわ」


3人いた俺以外の後衛職の一人、金髪縦ロールなお嬢様みたいな子はアーチャーのジョブだったらしく、己のレベルでは当てることができないと断念してしまった。

だ、だがまだ二人いる!


「ふっ、見て居るがよいわ。――我が魔力を糧とし、座したる土精に我が意を伝えよ。『地属(アース):大砲』!」


ユーリスの(無駄な)詠唱が終わると、部屋の床から砲台が現れた。

どうやら、アルケミストの魔法は素材を使って何かを作り出すといった方向に偏っているらしい。

キリキリと音をたて、照準が合わされていき、ドオォォォン!と如何にも大砲ですと言った爆発音とともに砲弾が飛び出していく。

だが、しかし――


「な!?そんな馬鹿な!!」


大砲がガラスに当たる瞬間に、まず間違いなく当たると思われていた砲弾が砂になって消えた。

射程が足りなかった?いや、そんなはずはない…んだけど。

いったい何で…


「い、いや、まだだ…つ、次だ、次」

「りょ、了解です…え、えぇと、せ、『セイントランス』」


今度は、ドジ(予想)子が魔法を放つ。

ドジ子(仮称)のジョブはソーサレスだったらしい。

ドジ子(じゃないことを祈る)の前に、槍にしては少し小さめな光の魔法が完成し、ガラスに向かって飛んでいった。

今度こそ確実に当たるはずだ。ランス系の魔法は近ければ近いほどスピードが速く威力も高い。

そのランスが未だに速度を保ったままガラスに近付いて行っているのだから、ほぼ確実に当たるだろう。


しかし、今度は――


「きゅ、吸収、された…」


そう、当たったと思ったらガラスにひびを入れる事も無く、そのまま中に飲み込まれていったのだ。

気のせいか、さっきよりガラスが輝いている様に見える。


「なんだそれっ!?こんなのどうやって壊せっていうんだよ」


ユースケがそんなことを言うと、みんなが黙り込みうつむく。

諦めるという選択肢が、いい加減現実味を帯びてきたが、それでも、皆一様にどうにかできないものかと考えてくれていた。


「物理…そうですわ。物理攻撃を当てれば!」


あ、と声を漏らしてから縦ロールさん(仮称)が言った一言にみんなの顔が少し明るくなりかけたが、それを風理が止める。


「どうやって当てるのかな?あの高さなんだよ?さっきは自分の弓じゃ当たらないとか言ってなかった?」

「そ、それは…」


風理さんもうその辺にしてあげてほしい。

本日絶好調なのはよ~くわかったから。

縦ロールさん泣きそうになってるから。


でもなるほど、物理攻撃か。まあ魔法は吸収されるんだから妥当な所だよな。

しかしながら、遠すぎて狙っても当たるか分からないと。


「うぅ…あんな吸収なんてものが無かったら、今頃木端微塵なのに」

「うむ、よもや吸収とはな…我の力が封印されてさえいなければ、吹き飛ばしてくれるものを!!」


いや、ユーリスの吹き飛ばすはまだわかるんだけど、ドジ子さん、木端微塵って…

この人に対する認識を、改めた方がいいのかもしれないと本気で思った。

まさかとは思うが、対人戦で対戦相手を木端微塵にしてしまうのだろうか?

今後俺とやる機会があれば、是非とも吹き飛ばす程度の威力にしてほしいものである。


…ん?物理?吹き飛ばす?魔法で?

何だか、何かを閃きそうな気がするんだけど…


ああぁぁぁ、モヤモヤする!こうっ、喉元まで来ているのに出てこないあの類のもどかしさを感じる。

何か、何か後一つピースがあれば、何かを閃きそうなんだが…


「何とかあの高さまで行ければなぁ、こう、私の剣で粉砕してやるんだがなぁ…」

「あの高さまで、その…行くのは、相当難しいんじゃ、ないですか…?」

「だよねー。いくらミィちゃんでもあの高さまでジャンプできる訳もないし――「それだ!」うひゃ!?」

「それならいけるぞ!あの高さまでジャンプすればいいんだ!」


例のガラスを指さして叫ぶ。

なんと言うのだろうか、無駄にテンションが上がっている。

今の俺には敵がいない気さえしている。

凄いアップテンションなんだ。

だから――




――だから、そんな可哀想なものを見る目で見ないでもらいたい。

前書きでも言いましたが、更新速度、本当に申し訳ないと思っているんです。

思ってはいるんですけど、大学生ってこんなに忙しものなんですね。

深夜バイト入れたから書く時間がどんどん減って…あぅ。

まぁ、作者の都合なんてどうでもいいですね…

血反吐吐いて頑張ってみます。

なお、キャラの人気投票は締め切りを次回の更新後から24時間に変更します。ご迷惑をおかけしますがご了承ください。

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