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<<Chrono Drive Online>>(仮)  作者: Wizadm
2Chapter//VR Research Club
19/26

6.海イベント?


「それで、今日から部活動なんだよな」


晴れて魂の友(ソウルメイト)とやらになった俺は部長に声をかける。


「うむ。第一回の活動内容はもう決めてある。実はな?我の個人的な興味の産物である『ハッキングウィルス』が面白いものを拾ってきたのだ」

「相変わらずトンでもない物を平然と作ってくれる…」


自信満々に無い胸を張る部長と、それに対して呆れたと言う様にうな垂れる会長…

反比例してるな、見事に。


「それでな?実は二日後から魂達が共有する異次元で、狂宴が始まるらしい」


見事に厨二病を発揮しながら喋る部長。

もしかしなくても、俺が翻訳しないとみんなには伝わらないだろう。


「…ゲーム内でイベントがあるみたい」


しかし、自分で翻訳しながらも、頭の中でイベント?と疑問符が挙がる。

公式のホームページにもそんなこと書いてなかったと思うんだけど…


「え?でも、そんな告知はボク見なかったよ?」

「だよな。俺だけ見てないのかと思っちまったわ」


愛理と友輔も知らなかったようだ。

そして俺も知らないとなると、公式には載っていない情報という事になる。


「フッ!これはそう!隠されていたのだよ!SC社のデータベースにな!そう、これはおそらく何らかの陰謀が…」

「「「いや、それはない」」」


みんなの思いは一つだったようだ。

部が団結してきた証拠だな…

ついでに言うと、SC社と言うのは≪C・D・O≫を運営している会社で、正式名称はサテライトサイバー社だ。

とりあえず、うな垂れている部長をなだめつつ会議?を進めていく。


「それで、どういうイベントなんですか?」

「グスッ…う、うん。えっと、海エリアの開放イベントだよ」

「へぇ…海か、今ちょうど夏だからね。運営もたまにはいい仕事するんだね」


愛理よ、お前の中の運営像はいったいどうなっているんだ。

何か恨みでもあるのか…


「それで、そのイベントには――」

「――もちろん出るぞ!部員総出で事に当たる。確かめたいこともあるからな」


どうやら部長も復活したようなので、主な概要と必要そうなアイテムの調達、これからの活動内容をある程度まとめてその日はお開きとなった。

それらを決める中で一番意外だったのは、会長もイベントに参加することになったことだ。

「一応私も部員だからな」とかっこよく言って、参加が決まった。

ここに着いた時さっさと逃げようとした事は、なかったことにしたらしかった。




暑い日差しの中をやっとの思いで帰り、「ただいま」と言ってみるも、返事は返ってこず。

暑さとあいまって遣る瀬無さが心の底から湧いてくる。

フラフラとした足取りで自室に逃げ込み、クーラーを起動させ、やっとふぅ…と息を抜く。

少し休憩してから最早日課になっている≪C・D・O≫のアバターのレベル上げのために<<Attraction-Ω>>を起動させる。

視界が暗転して、気が付くと昨日あの双子を見送ったCAFE黒豆のすぐ前に出た。


「こっちも暑いな…」


ゲームと言ってもVRなので夏の日差しを再現していてかなり暑い。

夏用の装備に着替えないと正直まともに戦える気がしない。


「しゃあないか、着替えよ」


いつも着ている初期装備のローブをインベントリにしまい、炎熱耐性の高いローブと着替える。

炎熱耐性を上げると暑さに強くなるため、主に夏の装備として使用する人が多い。

今まで着ていた深緑色のローブはそれなりに気に入っていたが、この水色の水虎のローブもなかなか好きだ。

内側が黄色なのもオシャレっぽくて気に入っている。


「今まで着てたのより数段防御力が高いからか、緊張感でないな」


気を抜いていたからか、思ったことが口から出てしまった。

とりあえず、このまま店の前でじっとしていると営業の邪魔だと、カホさんに怒られそうなので、溜め息を吐きつつ露店街と呼ばれる町の入り口付近に向けて歩き出す。


「どうです?この辺じゃ手に入りにくい白水晶の武器ですよ!」


商人プレイヤーが叫んでいるのを聞き、オイオイと思う。

白水晶は確かに武器にするとStr.に補正、つまりは攻撃力を底上げしてくれる効果があり、切れ味、軽さといいとこ尽くしに見えるが、如何せん耐久値が馬鹿みたいに低く簡単に壊れる。

しかしこの武器、武器の詳細を開けば耐久力は普通の武器と同じくらいある。

ではどういうことか?

簡単な話だ。このゲーム、武器の耐久力は表示されるが使った鉱石の耐久値は表示されないのである。

このゲームだと、使うことによって減っていくのが耐久力で、耐久力の減り難さが耐久値。

この武器の耐久力が200でも、耐久値は-150なので切れ味を差し引いても、硬さが一定以上の敵を攻撃すれば一発で砕ける。

初めてこの武器を見る人は効果と耐久力を見て意外と安いとこの武器を買うが、いざ使ってみると数発攻撃を当てるだけで折れるのでお金を溝に捨てたかのような感覚に陥り、この武器を買った商人に食って掛かるが、商人は特に規約違反をしている訳でもないので罰則などは無い。

このゲームに多々ある、初心者キラーの1つである。

こんな始めの方の街で100,000円程で売ったら、知らない初心者は買うだろうから、元々珍しくも無い白水晶は原価が安くぼろい商売だろう。


しかしこの武器、消耗品とすれば意外と強い。

硬い敵を攻撃すれば一発で砕けるが、一発限定の高出力アイテムだと見る人も多い。

昔、よくこの系統の武器を使っている知り合いがいた。

あるスキルと組み合わせるとかなり凶悪になると、自慢してたっけ…

ある意味、運営が死にスキルや地雷なんかを作っていない、いい例だ。


仕方ない、忠告しといてやるか。

白水晶の武器を売り付けている商人に近付いて気楽に話しかける。


「どうも。売れてますか?」


すると一瞬呆けた様な顔をした後、普通に答えてくれた。


「正直、それほど売れませんね…かなりいいステータスだと思うんですけどねぇ」


その台詞に、俺は少し引っかかり詳しく聞いてみることにした。


「もしかして、この武器の事知らないで売ってる?」

「え?何のことです?」


どうやら知らなかったらしい。

なら転売させられてるのか?


「…その武器、誰かから買い取ったんですか?」

「え、そうですよ。親切な鍛冶師の人が、新規の商人プレイヤー限定で経験値ポットと交換してくれるって。売値も100,000円が妥当だとアドバイスもくれましたし」


いやー、いい商売させてもらいましたと言わんばかりに嬉しそうにしているのを、


「それ、騙されてますよ」


と、ばっさり切り捨てる。

すると、自分の恩人の批判と捉えたのか商人が怒り出したが、この武器の詳細を交えて説明していくと、最初は赤い顔だったのがどんどん青くなっていった。

俺は、これを計画した奴は相当な屑だと思う。

何しろ、自分は親切な人として、新規で入ってきた商人プレイヤーを騙し、貴重な経験値ポットを巻き上げ、白水晶の武器を売らせて商人たちの信用を下げた上で姿を眩ます…

商人たちがあいつだと犯人を指差しても既に信用は失墜しており、聞いてくれる人もいない。

なんとも陰湿で卑怯なやり口である。


「そ、そんな…ど、どうしよう、もう幾つか売ってしまって…あぁ…」

「お金を返して謝ればいいんじゃ…?」

「はは…それしかない…ですよね…」


ぐったりとうな垂れる商人さん。

こうなると被害者にしか見えず可哀想になる。


「そうだなぁ、ちょっとした儲け話があるんですが…どうです?乗りませんか?」


俺は助けてやろうと言わんばかりに商人に肩入れしてみることにした。

もちろん音声は内緒話モードという、聞かせたい人にだけ聞こえるようにするモードだ。


「へ…騙したりしませんよね…?」

「まあ聞いて…簡単な事だよ、今から出来るだけ多くの回復薬を集めるんだ」

「…何かイベントでもあるんですか?私の耳には入ってないんですが…」

「そりゃそうだ。とある情報筋からの情報だからね。公式にも載ってないホットニュースだ」

「へぇ、もしそれが本当なら楽しい商談になりそうですね」


俺達はお互いにフッと人の悪そうな笑顔を作り、名前を告げてフレンド登録を済ませた。

商人の名前は商屋(しょうや)と言うらしい。

お互いに自己紹介が一通り終わったので、説明を始める。


「まず、このゲームの他のゲームにはあんまり無い特徴から説明しようか。このゲームではゲーム内の一日でNPCが本物の人間の様に生きている。だから、店売りのアイテムは1つのサーバー内での一日の納品量が決まってるんだ。その数、一日100,000個だ。まあ100,000個はこの街だけで、なんだけどな」

「良くそんなこと知ってますね」

「(まあ、20年近く潜ってればある意味当然なんだが…)」

「すいません、何か言いましたか?」

「え!?いや、別に?」


そうですか?と訝しげにもう一度聞かれたが、独り言だとだけ返して説明に戻る。

20年と言うのはもちろん体感であるが、さすがに呆れられそうだと思いうやむやにしてしまう方がいい気がしたのではぐらかした。


「それでだ。この五千万円で回復アイテムを買えるだけ買うんだ。まだ中級の回復薬が解禁されてないから、これだけあればいけると思うんだけど」


話の途中で資金の心配をする必要が無いように、露店の上におもむろに五千万円と表示されたトレード枠を表示して続ける。

すると、商屋の顔が妙な物を見たという風に唖然としだした。


「どうかした?」

「リュートさんはコンバート組の人だったんですね」


コンバート組?聞きなれない単語だ。

おそらくリニューアル前からの引継ぎのことだよな。


「知らないんですか?剣聖を名乗る人が広めてるんですよ。リニューアル前からゲームやってた人たちの総称ですよ。剣聖の方は、どうせまた偽者だと思いますけどね…」


コンバート組はその解釈で合ってたのか…

剣聖って誰かの二つ名?それともプレイヤーネーム?またまた知らない単語である。


「剣聖?何それ?」

「…それ、本気で言ってます?」


何故だろう、凄くドン引かれた…

剣聖なんて厨二な名前の奴だから有名なのだろうか。


「この人、リニューアル前から伝説的な強さの一匹狼の様な人で、フレンドが一人も登録されてない最強のソロプレイヤーなんですって。すごいですよねぇ」

「へぇ、そんな奴が居たのか…残念ながら、会ったこと無いな」

「まあそうですよね。フレンドが一人も居ないなんて、中々ある事じゃないですし、人付き合いが苦手だったんじゃないですか?」

「そっか…」


一人もフレンドが居なかったなんて、なんというか凄く親近感が湧く話である。

でも変だな、そんな凄い人がいたなら当時の俺が知らない訳が無いはずなんだけど。


「そうだ、その人の逸話とか無いか?」


フレンドが一人も居なくてもイベントなんかには大概参加していたので、もしかしたら何か分かるかもしれないと、剣聖の逸話を聞いてみる。

商屋も興味を持ってくれたのが嬉しいらしく、いいですよと快く聞かせてくれた。


「やっぱり剣聖の逸話と言ったら討伐系クエストじゃないですかね。中でも、レイド級のボスを単独で、しかもスキルやアイテム無しで討伐した話とか有名ですね。私なんて、初めて聞いたときは100%嘘だと思いましたからね」


今、何て言った…?レイド級を一人で縛りプレイ?

レイド級と言うのは、1パーティだけでは倒すことが出来ず、複数のパーティで倒すことを推奨されているエネミーのことだ。

俺はそれが信じられず、思わず呟く。


「嘘だろ…」

「いえいえ、どうやら本当らしいですよ?すごい人も居たもんですよね、ホントに」

「…この話は終わりにして、話を元に戻そうか?」


ひたすら考えた挙句、話を逸らす事にした。

俺的にはこの話は信じられないと言うより信じたくないのだ。

商屋もそういえば儲け話の途中だったことを思い出し、続きを話し合う。


「とりあえず、五千万で回復薬を買い占めるんだ。それから――」


説明が終わってから、「これも十分に悪徳商法ですよね」とジト目で見られたが、お前も賛成なんだろ?と聞けば賛成したのでお互い様である。

その日は儲け話を二人で確認して、商屋に買占めを任せ、ある程度のレベル上げをしてゲームを切り上げた。




ゲームから戻ってくると、携帯にメールが届いていた。

珍しい事もあるものだとメールを確認する。

メールはどう見ても相手側のアドレスが無く、件名も無題だ。

件名が無題なのはいいとしても、送ってきた相手の情報が1つも無いのはどういうことだろうか?

少し薄ら寒いものを感じて、開けていいものかと悩む。


「開けてみるか…」


自分の心臓の音が聞こえるような静かな部屋で、決心を逃がさないように一人呟く。

恐怖に少し競り勝ってしまった好奇心が赴くままにメールを開けると、おそらく何かが危険だと言うことを知らせようとしている様な内容の物だった。

おそらくと曖昧な表現なのは、文字化けが酷くほとんどの内容が読み取れなかった為だ。

それでも何とか内容を調べようと、読める文字だけを抽出した結果が、危険を知らせる文面。

ちなみに文字化けしている所を省くと、


【   は 危 い。 す  めろ  もない 君 のせいで世   れ   。】


こんな感じになる。

普通こんな意味の分からないメールは消すに限るが、そのときは何故か消す気になれず、だからと言ってこのままにして置くのも気持ち悪いので、今度みんなに相談してみることにした。

それにしてもいったい誰がこんなもの――


「おーい!兄貴、晩ご飯!!」

「はいはい、今行くから待ってくれ!」


メールについて考えるのは後にして、妹に夕飯を作ることにした。

しかし、それっきり、俺はそのメールの事を思い出すこともなかった。




ラジオ≪C・D・O≫!


シラ「(えぇと、もう繋がってるですか?もう回ってるから急げ?)は、はい、またしても始まりやがりました!

ラジオ≪C・D・O≫!司会はこの私、天才サモナーシラナギが勤めます。え?リュートさんですか?よく知りませんが、作者の奴が気を回したんじゃねぇですか。

私、出番まだ先ですし…まあそれは置いといて、突然ですが現在のキャラクター人気投票中間結果を発表するです!現在順位は――」


1位 シラナギ

2位 それ以外…


シラ「ふ、ふふふふふ…ついに時代が私に追いつきやがったですね。それにしても我が軍は圧倒的じゃねぇですか!主人公などやはりまだまだということです。

…ん?何ですか作者。今いいとこ――へ…?私にも一票しか入ってない…?全体を通して人気投票が一票…?」


…………

………


「ちょ、それ、私がまるで痛い子じゃねぇですか!?ピエロじゃねぇですか!?!?…は!?ま、まさかリュートさんが来なかったのはそれが原因ですか!?ふざけんなですよ、あの主人公!!だいたい――」


放送に相応しくないと思われる内容なので放送することができません。

視聴者の皆様には申し訳ございませんが、本日の放送はここで終了させて頂きます。それでは次回の放送をお楽しみに…

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