9.人を信じることは誰かと友達になる為の一歩だと思うんだ。by.この場にいない人
…時間が無くて遅れてしまいました。
ごめんなさい。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ戻らないと妹にコンセント抜かれそうだな…晩御飯作れって」
さっと辺りを見渡すと少し日が傾いてきていた。
「へぇ、リュートさんは妹さんが居るんですか。私は1人っ子だから少し羨ましいですよ」
シラナギが楽しそうに言う。
「今のセリフのどこに羨ましい部分があったのか、甚だ謎なのですが?」
実際、自分のことを一切考えてくれない鬼畜な妹様に晩御飯を作らないといけないことのどこに羨ましい所があるというのか…
「私には、羨ましいですよ…」
「え?何か言った?」
うまく聞き取れなかったそれは一瞬のことだったが、寂しそうな声だった気がして、気付いたら聞き返していた。
「え、いや、あ、そうです!忘れてました!フレンド登録してないですよ、私たち!!」
わたわたと手を振りながら言うシラナギ。
どうやらフレンド登録のことだったらしい。
本人がそう言うのだし、寂しそうな声に聞こえたのは俺の聞き間違えなんだろう。
「でもそういうのは友達同士でするものじゃないのか?」
「?もう友達だと思ってたんですが、違うんですか?」
そう言って悪戯に成功したような顔で見てくるシラナギ。
リアルでもVRでもソロプレイヤーの俺に友達と言ってくれるなんて…やばい、嬉し過ぎて泣きそうだ…
『友達』その言葉が嬉しかったことなんて数えるほどしかない。
唯一遊んでくれていた愛理でさえ小学校に入った頃には俺の方から離れていった。
愛理まで友達が出来なくなるなんて嫌だったから…
今まで友達なんていなかった。
確かに友達だって近づいて来るやつもいたさ。
でも、すぐに裏切られた…
何度信用を示しても、排斥された。
そのせいで人間不信になったこともある。
それでも、なんでかシラナギに言ってもらった『友達』は、嬉しさが消えなくて…
「あぁ、そうだね。ありがとう、シラナギ」
泣かないように気をつけたけど、声が震えて困った。
「おいおい、シラナギちゃんだけかよぉ。俺たちもだろ?」
「そうだよ、ボク達も友達じゃないか」
二人もそう言ってくれる。
本当に泣く寸前の俺は、なんとかフレンド申請を三人に送り、三人の名前がフレンドリストに登録されるのを確認すると逃げるようにログアウトした。
視界がブラックアウトし、だんだんと意識が体に戻ってくるのを感じる。
<<Attraction-Ω>>のヘッドギアを外して机の上に置く。
俺は、気が付くと涙を流していた。嬉しいと涙が出るというのは本当だったらしい。
気付くと涙が止まらなくなって、声を上げて泣いていた。
それこそ人目もはばからずに泣いた。
でもそれは、すぐに終わりを告げることになる。
妹の手によって…
「うるせーぞ!さっさとご飯作れ、馬鹿兄!!」
この涙が止まったのは良くも悪くも、妹様のおかげでしたとさ。
「そういえば、兄貴何いい年して泣いてたの?小指でも打ったの?」
妹と飯を食べていると珍しく向こうから声をかけてきてくれた。
にしても、小指打った位で泣くとか、君は俺を何だと思ってらっしゃるのか、妹よ。
「ん、ああ。初めて友達が出来てさ。嬉しくて泣いてた」
言ったとたん、妹は怪訝な顔でこっちを見てきた。
「兄貴、精神科行ってきた方がいいと思う」
「…さすがにそれは酷いだろ」
「兄貴に友達なんて出来る訳ないだろ!」
言い切りやがった!?
その後は、「ちゃんと、精神科行けよ」と言われただけで、会話らしい会話はないままその日は終わった。
翌日、学校では昨日と同じように安達が喋りかけてきた。
「おっす、影斗!今日も<<CDO>>するんだろ?入る時間とかも合わせたいし、携帯の番号交換しとこうぜ」
「うん、わかった」
そう言って赤外線で情報を交換する。
「…初めて自宅以外の連絡先手に入れた」
「おいおい、マジかよ…」
少し呆れた感じに言われたが、腹が立つどころか嬉しくなってきた。
「あ、そういえば聞いたか?」
何をだろうか?取り敢えず聞いてみることにする。
「この学校、高等部は夏までに部活に入らないといけないらしいぜ。意味がわからん、なんで高等部だけなんだ?嫌がらせか?」
「いや、嫌がらせではないだろ。…多分」
と、冷静なツッコミはともかく。
「で、影斗はどうするよ。体育会系には入らねぇんだろ?」
…本当にどうしよう。
「…ゲーム部でもあればいいのにな」
「まったくだ」
まあ時間はあるんだ、ゆっくり悩もう。まだ春なんだからな。
…友達ってなんですかね。
あ、今回はラジオは無理でした。
次回で1Chapterは終わります。




